煙草を買い、コンビニから出ると激しい雨が降り始めていた。
通り雨かと思い、空を見上げたが広く暗雲が立ち込めている。朝方雨が降っていたが、午後には日がさしていたので、もう降らないだろうと傘を持って出なかったのを少し後悔する。仕方なく、土方は煙草に火をつけた。
「あ?雨かよ・・・」
その声にちらりと横を見ると、コンビニ袋を提げた銀時が相変わらず気だるそうな顔で空を見上げていた。小さく舌打ちをする。それに気付いて土方を見た途端、銀時は顔を顰めた。
「よぉ、副長さんじゃねーかぁ」
銀時はドアを閉め、横に並ぶ。
「もうちょっとあっち行ってくんない?煙草臭いんですけどォ」
「あぁ?俺が濡れるだろうが。こっちだっててめぇと肩並べたかねぇんだよ」
苛々しながら紫煙を吐きだす。
「こりゃぁ、暫く止まねぇぞ。どうせ濡れるんだ。さっさと帰れよ」
「馬鹿かてめぇ、こっちはジャンプ買ってんだよ。うっすいページくっ付いて読めなくなったらどうすんだ。てめぇが帰れ」
暫く睨み合った後、二人は無言で立ち尽くす。
つくづくタイミングが悪い、と土方はフィルターを噛んだ。
煙草を据え置きの灰皿でもみ消し、もう一度店内へ足を向ける。店員に傘は無いのかと尋ねると朝のうちに売り切れてしまったのだと言う。店員は小さな声で謝った。店を出ると銀時と目が合う。
「傘無ぇって?」
「・・・あぁ。同じこと考えてんならさっさと聞きに行けよ」
「いや、俺もう金ねぇし」
「つくづく駄目な野郎だなてめぇは」
「あんだとてめぇ」
「やんのかコラ」
二人は同時に顔を背けた。
銀時はジャンプを広げ、土方はもう一本煙草を取り出し火をつけた。
重い沈黙が落ちる。
「なぁ、碧元気にしてるか」
「・・・てめぇに関係ねぇだろ。うちの隊士だ」
「あんだよ、お宅の隊士さん心配してやってんだろぉが!」
腹立たし気に眉間に皺を寄せる。
「ったくよぉ・・・てめぇの前では強がってるみてぇだがな、案外脆いぞ、あいつ」
「・・・そんな弱ぇ奴じゃねぇよ」
「弱いとは思ってねぇ。ちゃんと痛みと向き合える強さを持った奴だ。だがな、一個一個に正面から向き合いすぎて、いずれ壊れちまいそうな危うさがある」
「知ってる・・・知ってるさ、そんなことは」
「まぁちゃんと見ててやれって話だ。相談係のお節介だよ」
煙を追って、視線を空へうつす。
いつの間にか往来を行く人足は減って、ざぁざぁと降りしきる雨の音だけが辺りに響く。
「てめぇに言われるまでもねぇ」
「そうかよ」
呟いた土方の言葉は、自分に向けられたものではなく、誰かを想うような柔らかさを帯びていて銀時は小さく口の端を上げた。
雨の音に混じって、ばちゃばちゃと走っているような足音が遠くで聞こえる。
その足音はだんだん近づいてきて、通り過ぎることは無く、二人が立ち尽くすコンビニの前で止まった。
「あ、土方さん!よかった、濡れてなくて」
傘から顔を出した碧は少し息を切らしながら嬉しそうに頬を緩めた。
「黒木、どうした、急いで」
「どうしたって、雨が降り出したから。土方さん、濡れ鼠になってないかと思って。銀ちゃんも一緒だったんですね」
「おぉ」
碧につられるように銀時もへらりと笑みを返した。
碧はどうぞと言って土方に傘を差し出す。
「悪いな。つか、お前が濡れてんじゃねぇか」
「あぁ、走ったので。濡れながら帰って来そうじゃないですか、土方さん」
「いいねぇ、出来た部下をお持ちで」
銀時がにやりと口の端を上げると、土方に睨まれた。
土方は傘を開く。
「じゃぁな、万事屋」
「あ、土方さん」
軒先から出て、歩いていく土方を目で追う。少し迷ってから、碧は銀時に差していた傘を差し出した。
「使ってください」
「いや、構わねぇよ。さっさと行きな。副長さんに置いてかれるぞ」
「私もう濡れちゃったし、そう変わりませんから。じゃぁ、また遊びに行きますね」
銀時の手を取り傘を持たせると、碧は土方の背中を追って走っていった。
「あ、おい!」
遠目に、追いついた碧に傘を差しかける土方の姿が見える。
銀時はふっと笑い、万事屋へと歩き出した。
「ったく、あんな奴に傘なんぞ貸すこたぁねぇんだよ」
それに碧は少し眉根を下げ、笑みを返した。
「おい、もうちょっとこっち寄れ。濡れんだろ」
「私もう濡れちゃってるので、土方さんが濡れちゃいますよ」
「・・・構やしねぇ」
「すみません」
肩の触れそうな距離で歩く。
「土方さん、肩が」
碧の居る方とは反対側の肩を、傘から滴った露が濡らしている。
土方が持つ傘に手を伸ばし、少し彼の方に押す。手が触れる。
「冷てっ」
「あ、すみません」
「お前、手ぇ冷いぞ。いいから、黙って傘に入ってろ。お前が風邪ひいたら俺がどやされんだよ。もうちょっと早く歩け」
「はい」
碧は足を速める土方について行く。
「帰ったらさっさと風呂入れ」
「はい」
「・・・にやにやしてんじゃねぇ」
「はぁい」