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満月の夜だった。
真っ白な雪に、広がる血。息が白い。
十数体の死骸。
私は貨物船の中に入り、檻の鍵を開けた。
そこから出るかどうかはこの少女たち次第だ。まぁ出なくとも明日になれば役人にでも保護されるだろうが。私はそのまま外へ足を向ける。

「あ、ありがとう」

小さな声で誰かが言った。
振り返り、一人の少女と目が合う。

「・・・あなたの運がよかっただけだよ」

それだけ言って、私はその場を離れた。
腹の傷から血が溢れるのを押さえながら足を動かす。
寒い。寒い。体が冷えて行く。
狭い路地に差し掛かったところで足音が聞こえる。刀を抜くこともできたが、それはしなかった。鋭利では無い、憎しみや迷いの入り混じった小さな殺意。後ろから、それが突き立てられるのを私は避けなかった。

「・・なんてこと、したのっ・・家にお金が、入らないじゃない」

あぁ、こういうケースもあるんだなぁとぼんやり思った。

「運が、悪かったね」

体が重力に逆らえず、前に倒れる。
意識はそこで途切れた。






てっきりそのまま、死んだものだと思っていた。
しかし目を開けてみれば、ずきずきと広がる痛みと、少し薄暗い天井。

「起きたか」

声のする方を見やれば片目に包帯を巻いた男と目が合う。
男は煙管を口に咥えながら、すっと目を細めた。

「・・・高杉、晋助」

攘夷過激派の危険重要人物。手配書で見た特徴に似ていたその男をそう呼んでみる。
口の端を上げ、不敵に笑ったのを見てどうやら間違い無いらしいと思う。

「てめぇか?最近役人を切りまわってるっつぅ女は」
「・・・そうかもしれない」