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「最近、銀さんよく出かけるよね」
「女でも出来たんじゃないアルか?」

そう言いながら定春の上で酢昆布をかじる少女に僕は少し呆れた視線を向けた。
買い物を終え、僕と神楽ちゃんは万事屋へ戻る道中だった。
もうすぐ万事屋と言うところで、小さな人だかりの前に足を止める。

「いって!おい眼鏡!急に止まんなヨ!!」
「神楽ちゃん、あれ」
「ん?」

渦中の中で、女性の前にガタイの良い男が二人。

「おい、お嬢さんよぉ、俺たちが案内してやるって言ってんだろ」
「大人しくついて来いよぉ」
「結構ですと言っているでしょう」

男の一人が女性の腕を掴む。

「おい、やめろぉ!」

僕は咄嗟に声をあげた。男たちがこちらを向く。綺麗な女性が少し驚いたようにこちらを見ていた。

「なんだァ?ガキが」
「邪魔しないでくれるかなぁ」

指を鳴らしながら歩いて来る。僕はぐっと身構えた。
その時、女性は腕を振り解き、彼女を掴んでいた男の手を捻り上げた。

「いででで!!」
「他の人を巻き込むんじゃありません」
「て、てめぇ!!」

僕に向かってきていた男が振り返り女性に殴りかかろうとするが、それを避け腕を抱き込むように掴み、女性は男をそのまま投げ飛ばした。腕を掴んでいた男も態勢を崩し、地面に伏す。流れるような動きに僕は唖然と見つめるしかなかった。

「すみません、穏便に帰って頂きたかったんですが」

その女性は少し困ったように眉根を下げて、綺麗に微笑んだ。

「止めに入ってくれてありがとう、勇敢ですね」
「いっ、いえ!!僕は何もしてないし、むしろすみません・・・」

可笑しそうに口元を押さえて笑う彼女の姿に顔が熱くなるのがわかった。

「お姉さん、道に迷ってたアルか?」
「あぁ、万事屋を探してたんです」

その言葉に僕と神楽ちゃんは顔を見合わせた。







「まさかお二人とも銀時の下で働いているとは。迷惑かけてませんか?銀時」
「迷惑も何もアイツ給料払わないネ!」
「あらあら、困りましたねぇ」

碧さんはさして困った風でもなく可笑しそうに笑った。
銀さんの旧友だと言った碧さんを、僕たちは万事屋へ案内することになった。銀さんよりは若そうだし、それにこんな綺麗な人が知り合いに居たんだなぁと横目に眺める。碧さんは隣を歩く定春を嬉しそうに撫でる。その姿がまた可愛らしい。

「碧は銀ちゃんの彼女アルか?」
「えぇ?違いますよ」
「じゃぁ元カノ?」
「違います」
「さっき碧さん、旧友だって言ってたでしょ、神楽ちゃん」

詰まらなそうにする神楽ちゃんに「ごめんなさいね」とまた、可笑しそうに口元を押さえる。

「じゃぁヅラとかも知り合いアルか?」
「えぇ、小太郎のことも知ってるんですね」

もしかして、碧さんも攘夷戦争に参加していたんだろうかという疑問がふとよぎる。あの身のこなしを見るとあながち見当違いでもないと思う。だがそれをずけずけと聞くことも出来ず、僕よりも少し背の低い碧さんの隣を黙って歩いた。

「ほら、あそこネ」
「あぁ、ここさっき通ったと思ったんですが、見逃していました」

神楽ちゃんの指差す先に、万事屋銀ちゃんの文字が見えた。
僕たちは階段をのぼって、玄関の扉を開けた。

「銀ちゃんただいまヨー」
「どうぞ」
「あ、どうもありがとう。お邪魔します」

いつもならソファに寝ころびジャンプを読んでいる銀さんが、碧さんの声を聞いてかバタバタと部屋から飛び出して来た。それがまた今まで見たことも無いような微妙な表情で、神楽ちゃんは銀さんに白い目を向けている。

「お、おま、なんで?こいつらと一緒に・・・え?」
「この前、遊びに来てもいいと言ってたので。忙しかったですか?」
「いやいや忙しくは無いんだけども、碧ちゃん?なんでこいつらと居るの?」
「あぁさっき偶然会って、絡まれてるところを助けてくれたんです」
「いや、僕ら何もしてないんですけど・・・」
「うふふ、助けに入ろうとしてくれたじゃないですか。新八くん。驚きましたよ、万事屋探してるって言ったらそこで働いてるというから。いい子たちですねぇ」

僕が照れたのを隠すように頭を掻くのを銀さんは苦い表情で見てくる。

「・・・とりあえず上がれや」

背を向けて戻っていく銀さんの背中を見る碧さんの目が、とても優しくて思わず見入ってしまう。それに気付いた碧さんがこちらを少し上目で見やるので、「すみません」と小さく謝って、視線を逸らした。
僕たちは靴を脱いで部屋へあがる。碧さんに座るよう勧めてから、僕はお茶を淹れに台所へ向かった。

「一人じゃないならもう少し大きい箱のものを買ってきたら良かったですねぇ」
「え、何?土産あんの?」
「イチゴ大福です」
「やったー!!」
「ばっか、おめー!俺に持ってきてくれたんだよ!」
「何言ってるネ!ケチ臭い男は嫌われるアルよ!」
「皆でわけましょうね」

碧さんが包みを開くとイチゴ大福が六つ並んでいた。
僕は皆の分のお茶を机に置いて神楽ちゃんの隣に座る。碧さんは「ありがとう」と朗らかに礼を言ってくれた。

「二つずつどうぞ」
「わぁ、ありがとう!碧!」
「え、碧さんは?」
「私はいいですよ」
「いえいえ、皆で食べましょうよ。僕一つでいいので」

そう言って差し出されたイチゴ大福を一つ、碧さんの前に返す。
碧さんはまたありがとうと一つ礼を言う。

「よかったですね、銀時。しっかりしたいい子が一緒に働いてくれて」
「あぁ?何言ってんだ、こいつらが勝手に居着いてんだよ」
「給料ちゃんと払いなさいね」
「おま・・・神楽か!?神楽が言ったのか!?」
「事実を言ったまでヨ」
「てめー後で覚えとけよ」

がさがさと包みを開け大福を頬張る銀さんと神楽ちゃんを見ながら、碧さんも大福を一口齧った。

「碧、今日塾は?」
「日曜なのでお休みですよ」
「塾って、碧さん先生なんですか?」
「えぇ、一応。週に数日ですが」
「通りで・・・」
「え?」

言いかけた僕に碧さんは首を傾げる。

「いや、銀さんの知り合いにしては礼儀正しくていい人だなと思って」
「おいどういう意味だァ!?」
「ふふ、銀時は昔から自由奔放ですからねぇ」
「あ!?」
「ねぇ、銀ちゃん最近よく出かけるの、碧のとこ行ってたアルか?」

神楽ちゃんは目をまん丸くして聞く。

「あー、あぁ・・」
「ふーん」

少し濁すように返事をする銀さんに神楽ちゃんはニヤリと口を開けた。

「なんだよ」
「別にー」

銀さんは面倒くさそうに頭を掻いた。

「あのなぁ・・・何を勘違いしてるか知らねぇが、碧はガキの頃一緒に暮らしてた妹みたいなもんなんだよ」
「そうだったんですか。じゃぁ・・やっぱり碧さんも攘夷戦争に?」
「いえ、私は・・・」

碧さんは口を開きかけて、やめてしまった。笑っていたけれど、少し寂しそうに見えた。あぁやっぱり、聞くべきじゃなかったと後悔する。

「まだ新八よりもちっせぇガキだったからな。そこで分かれてこの前十年ぶりに会ったんだ。積もる話もあんだろ。察せよ」
「す、すみません。立ち入ったことを聞いてしまって・・・」
「いえ、いいんです。もしかして銀時、仕事サボって来ていたのかと心配になって」
「んなことねぇよ!」
「そうネ!大体銀ちゃんサボる時はサボってるアル!碧が気にすることじゃないヨ!」
「神楽ァァアア!」

神楽ちゃんと銀さんの様子に楽しそうに笑う碧さんを見て僕はほっと胸を撫でおろした。
僕がもし姉上と十年も会うことが出来ない状況になったならば。しかも戦争で。碧さんは銀さんが生きているのか死んでいるのか分からないまま、過ごしていたのだろうか。そう思うと、時折互いに安心しきっているような柔らかい表情を見せる理由を少しわかった気がした。





碧さんが「そろそろ」と腰を上げたので時計を見ると二時間近く経っていて。こんなに時間が過ぎるのを早く感じたのは久しぶりだった。
銀さんは鍵を取り、玄関へ向かう碧さんの後ろをついていく。

「送るわ」
「えぇ?いいですよ、買い物もしたいし」
「丁度いいじゃねぇか。荷物提げて帰んの面倒だろ」
「そうですか?じゃぁお言葉に甘えて。お邪魔しました、神楽ちゃん、新八くん」
「気を付けて」
「わん!」
「定春くんも、またね」
「送りオオカミにあわないように気をつけるヨロシ」
「しねぇよ!変な言葉覚えてくんな!!」

出ていく二人の様子を僕と神楽ちゃんは玄関先で見送る。
銀さんは少し大きな音を立てて引き戸を閉めた。
碧さんのことを銀さんは妹のようなものだと言ったけれど、もっと別の関係見えるのは僕の気のせいだろうか。





「最近、銀時が楽しそうな理由がわかりました」
「そうかよ。・・・ゆっくりできなかったろ。騒がしくて」
「いえ。私も楽しかったですから。今度来るとき連れてきてくれてもいいですよ」
「絶対連れて行かねー」