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俺は神妙な面持ちで目の前の男を睨んだ。
いつもと変わらないすっとぼけた表情が今日はいつにも増して腹立たしい。
「おい、ヅラァ。てめぇ何か知ってんだろ」
「ヅラじゃない、桂だ。何かとはなんだ」
碧のことで聞きたいことがあると呼び出したのは俺だ。
万事屋の部屋の中こいつと二人・・・いやエリザベスも居るがまぁこいつはいい。妙な空気が立ち込めていた。神楽は定春の散歩に行かせ、新八は買い物中だ。わざわざガキどもを外へ行かせたのはあまり聞かせたく無いからだ。
「お前、相変わらずちょいちょいあいつのとこ行ってんだろ」
「あぁ、そうだが」
「あいつ、・・・付き合ってる奴とか居んのか」
「・・・自分で直接聞けばよかろう」
意を決して吐いた言葉に桂は少し呆れた顔をする。イラっとした。すごく。
「おまっ!んな野暮なこと直接聞きづれぇからテメェに聞いてんだよヅラァァ!!で!?どうなんだァ!?」
「知らん。俺もそう毎日のように行ってる訳じゃないからな。だが少なくともそう言った相手は見たことも無いし聞いたことも無い」
「そ、そうか・・・」
「だいたいなぜそんなことを聞く・・・あ、銀時お前、もしかして碧のことを・・・」
「ち、違ぇ!!うっざ!!そのヅラいい加減取れよ!!うっざ!!」
「な、ヅラじゃない!!地毛だ!!わざわざ呼び出しておいてなんだその言い草は!!」
反射的に否定はしたものの、ドクドクと心音が激しく鳴るのを止められない。
違う、断じて違うと頭で言いながら、呼吸を落ち着かせる。ただ俺は、兄みたいなもんだから、妹を心配してるだけだ。
「だいたい、碧ももう嫁に行っていても可笑しくない年だろう。なんだ、男の影でもあったのか?」
「そ、それは・・まぁ」
「小さい時から見ているから、贔屓目に見ているところもあるが・・・それを抜いても、あやつは気立ても良いし美人だと思う。彼氏の一人や二人いても問題あるまい」
「いや二人は問題だろ」
桂の話を聞きながら、頭の中では数日前のことを思い出していた。
碧の家に訪れた時、いつものように台所に立つ後ろ姿。
「暑くねぇのか、それ」
気温も高いのに、首巻きをつけているのを俺は指差した。
振り返って少し困ったように笑って、「大丈夫ですよ」と言う碧の額に少し汗が滲んでいる。
「お前、汗かいてんぞ」
そう言って、俺は彼女の首巻に手をかけ、軽く緩めた。
その時、首筋にうっすらと残る痣が目に入った。
「も・・・もしかして風邪でも引いたか?寒気がするとか・・・」
動揺を誤魔化すように、碧の額に手を当てると碧は反射的に目を瞑る。それがまた安心しきったような表情で。どうしようもなく内側からぐずぐずと何かに侵食されるような感覚に俺は顔を背けた。
「まぁ相手がちゃんとしたやつか気になる所ではあるがな」
桂の声にふっと引き戻され、顔をあげる。
「そうだろ?兄貴として気に何だろ?いや俺もいい大人だからそりゃぁ真剣なお付き合いだったら応援も祝福もしてやるけど!?あいつちょっと八方美人というか、抜けてるとこあるだろ。そういうところはちゃんとフォローしてやんねぇとって思ってだな・・・」
俺に視線をくれながら、桂は顎に手を当て少し考えてから腰をあげた。
「・・・まぁいい。行くぞ」
「は?どこに」
「どこにって碧のところに決まっているであろう」
「はァ!?何考えてんのお前、直接聞くとか言い出さないだろうな!?」
「そのつもりだ。こうして二人でごちゃごちゃ言ってても仕方あるまい。それとも俺が聞いてきてやろうか」
「いや、待て!行くから!お前なんか余計なこと言いそうだから!!」
スタスタと玄関へ向かう後ろ姿に溜息一つついて、俺は後を追った。
道中、小さな子どもとすれ違う。
碧のとこの生徒だろうか。家に近づいて来るにつれ嫌な汗が出てくる。
なんだこれ。なんだこれ。
「なぁ・・やっぱ行くのやめるか」
「はぁ?何を言ってるんだ貴様。告白前の小学生男子か」
「ば、馬鹿野郎!!娘に彼氏紹介されるお父さんみたいな感じだ馬鹿野郎!!それじゃぁお前、あれじゃねぇか。それだと一人で行く勇気が無くて友達に付いて来てもらったみたいな腑抜けた野郎じゃねぇか」
「その通りだろう」
「違うわ!!俺はなぁ、告白はさり気なく一人で行くタイプだ・・・」
「・・・そういうことにしといてやろう。じゃぁお父さんらしく覚悟決めてどっしりと構えておれ」
これ以上こいつに言い返す気にもなれず俺は桂の後ろを歩いた。木戸を通り抜ける。
「あら・・・今日は二人で、珍しい」
「碧、今授業終わったところか?」
嬉しそうな笑い声に顔をあげると碧は机の上を片付けているところだった。
「今日は少し聞きたいことがあってな」
不思議そうに首を傾げ、碧は俺たちを部屋へ上げた。
中は風がよく通り、涼しい。出されたコップの氷が、カランと音を立てて沈んだ。俺とは対照的に嬉しそうな碧の顔を見ていると、もうこのまま何も聞かず、世間話でもして帰った方が良いのでは無いかと思えてくる。
「それで、聞きたいことってなんですか?」
純粋な眼差しが痛い。
「あぁ、単刀直入に聞くが、今好きな男は居るのか?」
あぁ、単刀直入すぎる。やめて欲しい。
薄く口を開き少し驚いたような表情の碧。俺は冷えたお茶を口に含む。
「・・・いえ、居ないです、けど」
「本当か?」
「え」
「本当にか?別に頭ごなしに反対したりしないからな。お兄さんたちに正直に言いなさい」
碧と目が合う。珍しく眉間に皺を寄せて、何か迷っているように口を結ぶ。
「すまない、碧。俺たちが干渉するようなことでは無いのは重々承知だが、お前は妹のようなものだ。どこの馬の骨とも分からん奴にお前をやるのも心配なのだ」
「あの、もしかして、銀時・・・首の痕見ましたか」
図星をつかれ、ざわざわと気まずさがこみ上げてきて視線を逸らした。
「痕?」
横に座っている桂が怪訝そうな表情で俺を見る。
「・・・変な勘違いをされたままなのもアレなので言いますけど、先日晋助がうちに来たんです」
「高杉が?」
「は、はァ!?」
「その時、晋助がふざけて首に口付けを」
ちょっと待て。
なんであいつまでここに来てんだとか、ふざけてって何だとか、アイツ何してくれてんだとか頭の中でぐるぐると渦巻く思考に感情がついて行かず、俺は一先ず深呼吸する。
「いやねぇよ・・・高杉はねぇよ・・・」
「あやつ何をしておるのだ」
「全くです、昔はからかうようなことしなかったのに」
「いや、碧ちゃん・・そういうことじゃなくて」
暫し沈黙が流れる。
とりあえず今のあいつは危険だ、いろんな意味で。というところに気持ちを落ち着かせる。そりゃぁ俺だって久々に碧に会った時には、良い女になったとか綺麗になったとか思ったけども。だからって変な気起こすような奴でも無いだろう。え・・・じゃぁ、マジか?
「多分、男を易々と家に上げるなという警告みたいなものだと思うんですけど、晋助は見ず知らずの人では無いじゃないですか。もう少しやり方を考えてくれたらいいのに」
「いや、だからってな。銀さんも言ったろ?男は皆狼だって」
「あぁ・・・だが、碧、今のあいつは危険だ。攘夷過激派の中でも特にな。少し注意はした方がいい」
「お前が言う?」
「でも、銀時や小太郎と一緒で、私にとっては晋助も大事な旧友です」
「いや、わかるけどな」
「碧、友人として会うのはいいが、悪いことは言わん。あいつはやめておけ」
「ねぇ、さっきから俺のこと無視してない?」
「やめておけって・・・だから、晋助が私をからかっただけなんですよ」
「おいいいぃ!!!」
二人は同時に俺を見る。
「とにかくだ!碧!」
「はい」
「男が出来たら報告しなさい!」
「はいはい」
「あと高杉は家に上げるな!出禁にしろ!!」
「・・・うーん」
「なんでだ!?」
「銀時」
立ち上がる俺を桂が隣から止める。
「それは碧が決めることだ。あやつも俺たちのように碧の顔を見に来ただけだろう。いくら高杉でも碧に危害を加えるようなことはするまいよ」
「いや危害加えてんじゃん!害だよ!碧には害の塊だよ!」
「人をばい菌みたいに言うんじゃありませんよ、銀時」
「だいたい、高杉を出禁にするなら、お前もそうすべきじゃないのか。ちょっと過保護と言うか執着しすぎだ。お前も変な気ぐふぉぁっ!」
言い終わる前に拳を顔面に叩き込んだ。
倒れる桂を碧は目をぱちぱちとさせて見つめ、そして破顔する。
「変わらないですねぇ」
それをあまりに愛おしく思ってしまうのは、桂の言う通り過保護なのかもしれない。
ただ、碧には笑っていて欲しいだけだ。
「碧」
「なんですか」
「・・・どんな男連れてきてもいいが、お前を泣かせるような奴だけは認めねぇからな」
「わかりましたよ。でも塾もあるし、当分はそんな人出来そうもありませんから、安心してください」
目を細める碧つられたように俺も頬が緩んだ。