「晋助」
俺の顔を見て、眉間に皺を寄せて、怒っているというよりも苦痛に耐えるような表情をする碧。俺と銀時の一件を知っているのだろうと悟った。それでも何も言わず、聡いが故に殴ることも出来ないこの女を愛しく思う。
部屋にあがり、碧に近づく。引き寄せて、胸で抱きとめると碧は大人しく頭を凭れかけた。
髪を撫でる。
「なぁ、何を考えてる」
「いろいろ、です」
「それを言え」
「・・・あんな怪我をさせて、馬鹿者と、殴ってやりたいですよ。でもあなた達には、私の知らない十年があって、もう昔とは違っていて、その間に何があったのか、きっとあなた達は教えてはくれないでしょう。それでも私は、晋助もあなたの道を貫いているだけなのだと、信じているんです。でもこのまま行けば、どちらかが・・死んでしまう気がして、私はどうしていいか、分からなくなってるんです。こうして晋助の顔が見られるのも、銀時の顔が見られるのも、とても、嬉しいことなんですけど・・・それだけじゃ、いけないのかと」
堰を切ったように吐き出すのを、俺は静かに聞いた。苦しそうな声だった。
それでも自分から、手を放そうとしないのは昔から変わらない。けれど、無理に繋ぎ止めようともしないこいつの傍らに居心地の良さを感じているのは、多分銀時や桂も同じだ。
「てめぇはそのままでいいさ」
「あなたがいいますか」
不機嫌そうな声に思わず笑ってしまう。
「俺は謝る気はねぇ。止まる気もねぇ。てめぇに余計な手出されるのは癪なだけだ。それに今は俺たちに構ってる暇もねぇだろ。ガキどもの面倒でよぉ」
こうして、手の届く範囲で、笑っていればいい。
「なぁ、碧」
碧の目に溜まった今にも零れそうな雫を指の腹で拭う。
「笑え」
「・・・勝手な人」
*
晋助が出て行くのを私は立ち尽くしたまま見ていた。
結局私は、まだ怪我も癒えていないようだった晋助を殴ることは出来なかった。そして泣いてしまったのを少し後悔する。
どうしてこうも、晋助にはすらすらと話せてしまったのだろう。銀時にも言えない胸の内を。多分あの人は知っている。私がまだ少し、銀時がまた離れて行ってしまうのを恐れていること。
「女を泣かせるのも、大概にして欲しいものでござるな」
縁側でした声に私ははっと顔をあげた。
知らない後ろ姿。
「誰、ですか」
「河上万斉、と申す。晋助の連れだ」
「・・・晋助の」
「夜分にすまない。ただ、晋助が怪我も癒えぬうちに抜け出してまで、会いに行く女の顔を見たくなってな」
殺気も、何かする素振りも無いので、私は警戒を解いた。
「晋助は、何をしようとしているんですか」
「あやつの口から言わぬなら、拙者も話す訳にもいくまい。碧殿」
「聞いて、いたんですか。趣味の悪い」
「済まない」
万斉さんは短く言って、こちらを振り返る。
「ただ、礼を言わせて欲しい。晋助の休息の場になってくれていること」
「そうでしょうか、そうだといいんですけれどね」
「少なくとも拙者らの前では見せぬよ。あんな声も、表情も」
その柔らかな口調に、私は少しほっとした。
晋助も、一人では無いのだと。傍らで見ていてくれる人が居るのだと。
「どうか、そのままで居てやって欲しい」
私と同じで、皆、自分勝手な人ばかりだ。類は友を呼ぶというのか。けれど、その言葉が心を軽くしたのも事実だった。多分、晋助や銀時では無く、いろんなことを抜きにして言うこの人だから、すんなりと聞くことが出来たのかもしれない。
「・・・ありがとう。晋助のこと、よろしくお願いしますね」
「言われずとも、あいつに付いて行くと決めているでござる」
その言葉に頬が緩んだ。
万斉さんは腰を上げる。
「では、拙者は失礼する」
「お気をつけて」
その姿が暗闇に消えるのを、ずっと見送っていた。