個性把握テスト

 


登校初日、面談で校舎内を一度歩いていたおかげで、なまえの足は迷わず教室へ向かった。
後ろのドアから入るともうほぼ席が埋まっていて、座席表も無いようなので、とりあえず窓際の一番後ろの席へ座る。
後ろから教室内をぼんやり眺めていると、なにやら背の高い眼鏡の男の子がツンツン頭の子に机に足をかけるなだのなんだのと詰め寄っていた。
暫くして相澤が教室に入って来て「担任の相澤消太だ。よろしくね」と自己紹介する。
教室を一目見渡した相澤と目が合った気がして、なまえはペコッと軽く頭を下げた。

「早速だがこれ着てグラウンドに出ろ」

相澤が出して来たのは雄英の体操着。一体これから何をするのかという面持ちで一人一人体操着を受け取って指示された更衣室へ向かった。







グラウンドに出て早々開始されたのは個性把握テスト。
入学式やガイダンスが無いことに戸惑う生徒の中、なまえは準備運動を始める。

「な、すげー落ち着いてっけど、もしかして知ってた?テストのこと」

金髪の男の子がこそこそ話をするように口元に手を当て話しかけくるのを一瞥する。

「知らない。でも、やることやるだけ」
「ま、そうだけどな!俺、上鳴電気。最下位除籍らしいし、がんばろうな!俺としては数少ない女子に減って欲しくないっていうか」
「…消えないようにがんばって」
「辛辣だな…っ!」

なまえはパッと見細身で、身長も高くない。異形型でも無いしどちらかと言えば守ってあげたくなるタイプ。だから声をかけたのだが、予想外の返答に上鳴も苦笑を漏らす。
よほど個性に自信があるのかと気を引き締める。
最初の種目は50m走。皆それぞれの個性を使って、中学の頃では目にすることのなかった記録を叩き出して行く。
名前が呼ばれ、なまえは一度ゴール地点を通り、スタート地点へ。
なまえにとってこれは反射神経のタイムだ。スタートの合図とほぼ同時に頭の中で「リセット」と唱える。

「0.7秒」
「マジかよ!」
「1秒切るとかありえねぇ!」

皆がざわついている中、なまえはちらりと相澤を見やる。なまえの移動個性は一度行った場所にのみ有効だ。正直、現場ではあまり役に立たないと思っていたので、相澤が黙認していることに少し驚いた。結構甘いテストなんだろうか。

「やぁ!すごいな君!俺は速さでは誰にも負けないつもりで居たが、テレポートには敵わないか…!」
「…条件があるから、実質君が一番だよ」
「む、条件?」
「一度行った場所」
「…なるほど!だから君は最初にゴール地点に行っていたのか!だがっ、タイムでは俺の負けだ!謙遜しなくていい、その個性は誇るべきだ!」
「…どうも」

ちょっと面倒な人に絡まれたな、と思いつつ次の種目へ。
握力計測器を握り手に力を籠める。力の限界のリミッターを意識的に外し、さらにグッと握り込む。ピピッと音がして数値を見れば、330kgの文字。リミッターを外してもあの触腕の男の子には敵わない。
なまえが少し不服そうにしているのを見て、上鳴が数値を覗き込む。

「えぇ〜…その細い腕のどっからんな力出んのよ…」
「瞬間移動に増強とか、マジすげぇな!」

かなり引いている上鳴と、目をキラキラさせて感動している赤い髪の男の子の横をすっと通り抜け、なまえはリミッターを外し受けた手へのダメージを治癒個性で回復しつつ、相澤へ記録を報告しに行く。

「増強か、提出した書類には無かったな」
「個性というか、意識的にリミッターを外せるんです」
「…手へのダメージは?」
「治しました」
「そうか…ならいい。次の種目の準備しろ」
「はい」

その後も立ち幅跳びやボール投げ等、リミッターを外しなまえはなかなかの好成績を収めた。
全種目が終了しトータル成績が開示される。なまえの名前は上位にあった。

「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「「はーーーー!!!??」」

先生のニマリとした笑顔に安堵の溜息をもらす者、未だ唖然としている者それぞれ反応を見せた。
今日はこれで終わりらしく教室のカリキュラム等の書類に目を通しておけと相澤は去って行った。
それぞれの個性や成績について話し始めるクラスメイトの輪を外れ、なまえは更衣室へ向かう。その間、紅白頭の男の子、轟と一緒になり、彼の方が歩幅を合わせているのか横を歩く形になる。特に気まずさは感じないものの、なまえが不思議に思っていると、轟は徐に口を開く。

「お前も複数個性持ちなんだな」
「…どうだろうね」

そう答えると彼はそれ以上何か聞いてくることは無かった。
轟はテレポートと思っていたものは増強による俊足なのだろうかと考えるが、なまえの答えに他意は無い。自分でも分からないのだ。別物なのか、ある一つの個性に起因するのか。
2人は無言のまま、それぞれ隣同士の更衣室へと入って行った。