なまえが着替え終わる頃、後から他の女の子たちが入って来る。
「あ!ハイスペックな子!先に行っちゃってたのかぁ!私、芦戸美奈!よろしくね!」
「…みょうじなまえ、よろしく」
きゃいきゃいと葉隠透、八百万百が名乗ったところで自己紹介大会が始まりそう、というか始まってしまっていたのだが、なまえは自分の体操着を持ってドアの方へ向かう。
「あ、あ、待って待って!」
葉隠が慌てて腕を掴む。
「なまえちゃん!数少ない女子同士、仲良くしよう!」
「友達ごっこしたいなら他所行け」
なまえは表情を変えずに掴まれた方を振り返る。透明で、どんな顔をしているか分からない。けれど、驚いた顔、あるいは少し泣きそうな顔をしているのかもしれないな、と思った。
「って先生も言ってたし、私も仲良くなりたいわけじゃないから」
それだけ言って、なまえはその場から消えた。リセットと頭の中で唱えて。
更衣室内は暫しの沈黙。はぁっと深いため息をついたのは芦戸と耳郎だった。
▽
「お」
突然現れたなまえに轟は目を見開く。
「ごめん。驚かせた」
「いや、いい」
いくら増強とは言え、目にも止まらぬ速さで現れたり出来るものだろうか。立ち幅跳びの時も消えたような様子もなかった、と轟は先ほどのテストのことを思い出す。
「やっぱ別物だよな」
「…個性の話?」
「あぁ」
なまえは少し考える。一応書類上テレポートと治癒で出しているが、テレポートは自分の歩いた場所にしか行けない。自分が居た場所に再度自分を置きなおす。つまりリセットだ。傷が修復するのも、多分、リセット。増強は修復を繰り返すうちに出来るようになったから、身体機能の進化というか延長線上のものではないかと思っている。
増強が個性なら別物だろう。今度相澤先生に個性を消してもらいリミッターが外せるか試させてもらおうと思った。
「あんまり考えたこと無かった。別物かどうか、今度試す。ありがとう」
「あぁ…?」
礼を言われた意味がわからず、轟はとりあえずの疑問を保留にし、教卓に置かれた書類を一部持って教室を出ていくなまえの背を見送った。
▽
「失礼します」
なまえは声をかけて保健室のドアを開けた。
「あっ」
「おや、今日は良かったのに」
中では丁度、緑谷が治療を受けた後だった。彼は初日から相澤に目を付けられたり、爆破個性の男の子に絡まれたりと印象強い。
「2,3年生は授業あるんですよね?実践訓練は参加したいので、今のうちに勉強させてください」
「熱心なのはいいことだけど、初日から飛ばしすぎると後でへばるよ」
「まだ余力あるので、平気です」
「そうかい。頼もしいね。じゃ、そこ座って待っててくれるかい?」
なまえは言われた通り椅子に座り、荷物を降ろす。
目の前で繰り広げられる話に、緑谷は頭にはてなを浮かべた。
「あ、えっと…みょうじさん、だよね?今日はもう終わりじゃなかったの?」
「おや、あんた個性言ってないのかい」
「今日は個性把握テストしただけなので」
「はぁ…イレイザーも、自己紹介くらいさせればいいのに」
リカバリーガールが呆れたように溜息をつく。
「この子は治癒の個性を持っててね。学校側からの要望で、看護や治療を私の補助について学んでもらうことになってるんだよ」
「へっ、治癒も{emj_ip_0793}じゃぁ、みょうじさんは、個性3つあるの…?」
「3つ?」
「治癒と、テレポートと増強…」
「増強…そういや校長がそんなこと言ってたねぇ、どうなんだい?」
2人のやり取りを眺めていたなまえは話を振られ口を開く。
「治癒とテレポートは多分同列。リセット。テレポートは自分が居たことのある場所に再度自分を置きなおす。治癒は傷付く前の状態に戻す。増強は…個性なのかわからない」
「そ、そうなんだ…!すごいね!」
「おや、そうだったのかい?」
「さっき気付きました」
なまえの話を完結すぎる気がしつつ、感動している緑谷の横でリカバリーガールはまたも溜息を一つついた。
「個性届け、更新しときなよ」
「わかりました」
「緑谷、あんたは今日は真っ直ぐ帰って、ゆっくり休んで、まずは明日に備えること」
「は、はいっ」
初日から他の皆との実力差を実感した上に、こうして残って勉強するクラスメイトを目の当たりにすると焦る気持ちが強くなる。それを見透かしたようにリカバリーガールに言われ、緑谷は保健室を出て行った。
「リカバリーガール」
「なんだい」
「治癒の発動条件なんですが」
「条件?」
「多少の切り傷とか、自分がどこかにダメージを受けてないと発動しません」
「…それを早く言いな!!」
「ごめんなさい」
滅多に聞かないリカバリーガールの大声に近くを歩いていたマイクはビクッと肩を震わせた。
▽
その日はどういった傷が危ないか、負傷者の優先順位等を説明しながら、リカバリーガールはなまえを時折来るヒーロー科の生徒の治癒に当たらせた。いつも持ち歩いているのか、なまえは手の平に握り込めるサイズのカッターの刃を左手に持ち、右手で生徒に触れ治癒を行っていた。
自分の傷を見せないようにするのは心掛けているらしく、それは治療対象者を不安にさせないための正しい行動であるとは言え、リカバリーガールは少々心配になった。
ヒーローは怪我ありきだし、甘いことは言っていられないが、彼女には何とも言えない危うさを覚える。
ともかくなまえの個性については校長と担任である相澤には報告案件だ。
手の平の傷を見せるように言えば、それは瞬く間に跡形もなく消えた。