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「大丈夫か…っと!」
目を回した二匹に駆け寄ると、その間に何やら茶色いポケモンが落ちてきてアッシュは咄嗟に驚いて一歩後ろへと身体を引く。
何だ何だと覗き込むと、丸いシルエットの鳥ポケモンが目を回してひっくり返っていた。
慌ててそのポケモンを抱き上げて怪我の有無を確認し、無傷なことにホッとした瞬間、
「どわぁっ!!」
「ホーッ!?」
カッ!と突然赤い目が見開かれたためアッシュが思わず驚いて声を上げると、今度はアッシュの声に驚いたらしい鳥ポケモンの方も盛大に鳴きわめいてプルプルとその身を震わせる。
「なんだよ…驚かさないでくれよ」
「ホー……ッ」
ごめんなさいと謝罪らしい言葉を言われたものの、余程驚いたらしく未だプルプルと震えるポケモンが可哀想になってしまい、「ごめんな」と言って地面へ下ろそうとしたところでイーブイが物凄い形相で歩み寄ってきた。
イーブイは鳥ポケモンを見上げると、ガラ悪くブイブイと鳴いては降りて来いと文句を言っている。
しかし鳥ポケモンの方はそれにも怯えてしまったらしく、プルプルと震えながらアッシュの手に引っ付いていた。
どうやらこの鳥ポケモンはかなり怖がりな性格のようだ。
プルプルするポケモンが可哀想になるアッシュとは対照的に、疲れていることもありイライラしてしまうらしいイーブイは噛みつこうとするため下ろすに下ろせない。
すっかり怯えてしまったらしい鳥ポケモンも飛んで逃げればいいのにそれどころではないらしく全く飛ぶ様子がなかった。
「なぁ、お前この森は詳しいのか?」
先ずは遺跡にいた水ポケモンの方に尋ねてみるが、否と首を振られる。
次にプルプルと腕の中で震える鳥ポケモンに聞いてみると、「ホー…」と肯定の意味で鳴いたため案内してくれないかと言うときょとんとしたあとでコクコクと頷いてくれた。
これで森を出られると安堵したアッシュだったがこの鳥ポケモン、かなりの方向音痴だったらしく、グルグルと森の中を回り続けたが未だ抜け出る様子はない。
「ホ、ホー?」
「……ッブイブイー!!」
あれ?とか何とか鳴いた鳥ポケモンに切れたイーブイがアッシュの足元から物凄い形相で文句を言い、それに怯えた茶色い身体がびくりと震えた。
ごめんなさいごめんなさいと謝罪らしき言葉を紡ぐがイーブイの怒りは治まらず、アッシュの足に前足を掛けて登ってこようとする。
「…っいだだだ!!」
それに怯えた鳥ポケモンは慌ててアッシュの顔を踏み台にして頭の上に避難すると、イーブイは更に怒ってブイブイブイと鳴き続けた。
顔が痛みながらも、「なんで鳥ポケモンなのに飛ばないんだよ」とアッシュはツッコミを入れる。
それを聞いた水ポケモンはほうほうと感心でもするように頷きながら二匹の様子を観察していた。
それにため息を吐きつつも、なんとかイーブイを宥めて歩みを進めるといつの間にかそこは祠の前だった。
「……これ、祠だよな?」
「ホー!」
「…ブイブイ」
そこまで来てようやく方向を把握したらしい鳥ポケモンは今までとは明らかに違う表情を見せると、アッシュの頭の上でバサバサと翼を上下させる。
それを少々疑わしげにイーブイが見るのを宥めつつ、アッシュら再度鳥ポケモンへと道を尋ねた。
「分かったのか?」
すると鳥ポケモンはホー!と鳴きながら水ポケモンが立っている方へビシッと音がしそうな勢いで翼を向ける。
翼を向けられた水ポケモンは不思議そうに首を傾げて自分の後ろを振り返っていた。
「まぁ、その前に祈願だな。……無事にコガネへつけますよーに!」
それを見ながらもとりあえず祠に手を合わせてアッシュが祈願すると、鳥ポケモンも真似して翼を合わせる。
その直後に祠の裏で何かがガサリと音を立てた気がしたが、顔を上げた時には何もおらず、早くしろとせがむイーブイに押されてアッシュは祠を後にしたのだった。
「出れたー!!」
すっかり日は沈んでいたが、見慣れた景色にアッシュはホッとして両腕を広げると、水ポケモンも喜ぶようにしてぴょんぴょんと傍で飛び跳ねる。
「ありがとうな。お前のおかげで助かったよ」
アッシュがそう鳥ポケモンに告げると、きょとんとした後、怖がりながらもホー!と鳴いてバサバサと翼をはためかせた。
その直後にブイブイとイーブイが文句を言ったためビクリと身体を跳ねさせるとすぐさまアッシュにへばりつく。
「ほら、もう大丈夫だから行けよ」
「ホー!」
苦笑してアッシュがそう告げると、鳥ポケモンはプルプルと嬉しそうに翼を震わせた後、森の中へと帰っていった。
「お前はどうするんだ?」
「ウパ、ウパー!」
去っていく鳥ポケモンの後ろ姿をひとしきり見送った後、水ポケモンにどうするのかと尋ねると、帰るとか何とか言ってそのまま34番道路に隣接する海へと入って行っていった。
相変わらず自由だなぁと思いつつその姿を見送ると、「とりあえず、あいつらのこと爺さんに聞いてみるか」と言ってアッシュはイーブイと共にコガネへと帰ることにしたのだった。
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