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カンポウ宅のドアは開かれており、アッシュはそのまま居間へと上がり込んだ。
薬草の並ぶ居間の更に奥にはカンポウの寝室がある。扉を開けると、ベッドの側でラッタが心配そうに横たわる主を見守っていた。
扉の開く音で振り返ったラッタはアッシュが近寄ると静かに場所を空ける。
それにそっと頭を撫でることで礼を示すと、アッシュはカンポウの顔を覗き込んだ。
普段飄々としているが、その寝顔は年相応と言うべきかやはり老いた印象を受ける。
心なしか最後にあった時よりもやつれているようにも見えるのは目を閉じている為だろうか。
暫くそうしてカンポウの寝顔を眺めていると、気がついたのかカンポウは困ったようにアッシュへ笑いかけた。

「随分早かったのぅ」
「そりゃあ、倒れたとか聞かされたらなぁ」

「具合は?」
「大丈夫じゃよ。少し目眩がしただけで大袈裟だのぅ」

カンポウはボヤくように呟いたあと、窓の外をじっと見つめた。

「だがなぁ。ココ最近実はずっと調子が悪くてのぅ…」

漢方屋を続けたいのは山々じゃが、体が言うことを聞かん。そろそろ潮時かと思った時に会ったのがお前さんじゃった…と、カンポウは続ける。
内心割と仕事を押し付けてくるなと思っていたのだが、まぁ具合が悪かったのなら仕方ないことだろう。とはいえ出会った当初からカンポウはかなり強引だった印象しかないのだが。まぁそれも体の不調と聞いては強く責めることも出来まい。
アッシュはカンポウの呟きに頷く事で続きを促した。

「本当は後継者が欲しくての。お前さんには無理をさせたわい」
「あー、うん。何となく察してたけど」

そもそも道具を手渡すならば、それこそパソコンを使えばあっという間に出来るのだ。わざわざ配達をする必要はあまりない。
勿論、それはある程度親しい間柄に限るだろうが長年の得意先ならばそれで事足りることだろう。
なので何となくだがカンポウが後継を探しているのではというのはアッシュも考えていた。

「お前さんにはバレているじゃろうとは思っておったわい。じゃから単刀直入に言おう。わしももう年じゃ。爺の最後の我儘だと思って付き合ってはくれんかの」
「……ずっとそんな気はしてたんだけどな。俺もあちこちフラフラしてた身だからさ。一つの事に一生懸命ってあんま良くわかんなかったわけ」

けど、今は結構楽しいと思っているよ。アッシュはイーブイの入ったボールを見つめ、ボールの曲線をそっと撫でた。

「正直言って、何処まで出来るか不安なんだけど」

カンポウの方に向き直ると、カンポウはふぉっふぉっと独特の笑い方をしながらにっこりと笑った。

「やってみん事は皆分からないもんじゃ」
「そうだな。……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むぞアッシュ」


アッシュは漢方屋として正式に弟子入りする事を約束したのだった。


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