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アッシュが何と言い訳するか答えかねていたところ、ポンっという聞き慣れた軽い音と共に光を纏ったイーブイがアッシュの隣に飛び出してきた。

「ブイブイ!」

遅い!と怒鳴るイーブイは毛を逆立てており、どうやら痺れを切らして文句を言いに来たらしい。
そこですかさずイーブイを抱き上げ、グリーンの方を振り返った。

「ごめん二人共。痛っ!イーブイお腹空いたらしいからそろそろ家に戻ろうと思うん痛だだだ!!……って、二人共聞いてるか?」

突然の抱っこにイーブイが固まったのは一瞬で、ジタバタと暴れ出す小さな身体を放すまいとアッシュは苦しくない程度に腕の力を強める。
それでも暴れるイーブイにガジガジと右手を噛まれているアッシュだったが、あまりにも二人が反応しないためそちらをみた。
すると数秒遅れてグリーンがキラキラした目でイーブイにグイッと顔を近づけて叫ぶ。

「おー!!!イーブイじゃんかぁ!!」

ジョウトにだってなかなかいないだろう!何処でゲットしたんだ?とイーブイから視線を外す事なく嬉しそうにグリーンははしゃいだ。
そう言えばグリーンの最初のポケモンはイーブイだったなと頭の中で記憶を引っ張り出した。
イーブイはというと、突然知らない人間が自身を見てはしゃぎ出したのを見て驚いたのか、グリーンが近づいても噛むことを忘れて固まってしまっている。その間にすかさず噛まれていた手は救出した。
固まるイーブイの事はお構いなしに、グリーンはイーブイをマジマジと観察し続ける。

「まさかアッシュがポケモン持ってるなんてなぁ!しかもイーブイだぜ!」

俺とお揃いじゃんか!とグリーンは嬉しそうだ。
それを聞いた瞬間、反対側にいたレッドがアッシュを呼んだ。

「……アッシュ」
「なん……だっ!!?」

さっきまでとは違う不満そうなレッドの声に内心首を傾げながら振り返ると、なにか温かいもふっとしたものを顔面に押し付けられる。
息が出来ず慌てて後ろへと下がると、黄色い身体が視界いっぱいに広がった。
どうやら押し付けられたのはレッドの相棒であったらしい。押し付けられたピカチュウは困惑気味に小首を傾げている。その姿はさすが愛らしいねずみポケモンである。アッシュは思わず無言でピカチュウの頭を撫でた。
撫でられたピカチュウは嬉しそうに首を伸ばしされるがままになっている。

しかしまた更にピカチュウを押し付けられ、一体何なんだとピカチュウを慌てて抱き上げつつ原因であるレッドを見た。

「……ピカチュウ」
「……ん?」
「…………ピカチュウ」

ピカチュウを押し付けたのは分かるが、一体何故かとアッシュは首を傾げたが、レッドはまた更にピカチュウとだけ繰り返した。
そこで今までの流れを思い返してみて、イーブイがいるならピカチュウも手持ちに加えろと言っているのだと気づく。

「……ピカチュウ可愛い」
「あぁ、ピカチュウは可愛いな…痛たたたた!!」

抱いているピカチュウを撫でながらアッシュが呟くと、がぶりっという擬音と共に足首を思いっきりイーブイに噛まれた。

「おぉ、イーブイに好かれてんだなぁ!」

グリーンはケラケラと笑っているが、アッシュからしたらいきなり噛み付いてくるイーブイに好かれているとは思えない。
ピカチュウをレッドに渡しつつ、その場にしゃがみ込んで確認すると、アッシュの足には僅かに血が滲んでいた。

知らない人に囲まれて限界が来たんだろうかとアッシュは考えていたが、イーブイの方はぷいっとそっぽを向いてしまう。
弟分たちもイーブイも一体どうしたらいいんだと途方に暮れていると、有難いことに鶴の一声が聞こえてきた。

「みんなー!ご飯出来たわよー!」

やって来たのはグリーンの姉であるナナミだ。
ナナミは町の誰かからアッシュとレッドも帰ってきていると聞き、夕食を追加してくれたらしい。

「ご飯食べてからにしようか」

諸々、とりあえず食事を終えてからだと騒ぐ二人から逃げるようにイーブイをボールに戻すと、アッシュは早々に立ち上がった。


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