期待も度が過ぎるとただの無茶振り


何とかパラセクトの幻影に打ち勝ち、無事マサラでの安寧を手に入れたアッシュは午後から始まるレッドとの実践形式訓練の為に研究所の敷地に足を踏み入れた。
勿論、グリーンの課題もこのまま並行して引き続き行っていくとのことである。割と本気で教えこもうとする2人に若干憂鬱なアッシュだがそうも言ってられない。

現に「あいつはスパルタだからなぁ!午後までしっかり休んでおいた方がいいぜ!」と笑顔を見せるグリーンに対して、お前の精神攻撃もえげつないけどなとアッシュは内心で呟いたりしたのは余談である。


そんなことを思いつつ広い芝生を見渡すと、敷地の一角では既にレッドが腕を組んだ状態で待ち構えていた。
きっと待ちきれなかったのだろうと思うとなかなかに微笑ましいのだが、これからのことを想像するとそれも半減してしまう。

「悪い、遅くなった」
「いいよ。じゃ、まず俺から3本勝ち取って」
「……はい?」

横から声をかけると、レッドは何でもない様子で帽子に手を掛けるとやや嬉しそうな様子でとんでもないことを言い出した。

「待て待て待て!!」
「何?」
「何じゃないだろ!」

この際年上だ年下だという年功序列は置いといて、元チャンピオンにして現伝説のトレーナー級のレッドから一日二日で勝ちを取れると思うのかと問いただしたい。
答えは「無理に決まってるだろう!」である。
しかしレッドはと言えば「取らないと終わらせない」などと言い出す始末である。レッド側の言い分としては自身が育てたポケモンでないからというのが大きいらしい。
レッドはグリーンとの話し合いの結果、グリーンのジムで育てている比較的弱いポケモンたちを使っての実践形式を取ることにしたのだ。
勿論、レッドの手持ちを使ったのではバトル慣れする前にこちらがというかむしろアッシュがタワーのお世話になりかねない為である。
グリーンなどはアッシュの器を分かった上であえてその上の段階を要求するが、レッドの場合本人にその気はないが完全なる無茶振りをする。

それに対してグダグダと文句とも説得ともつかない押し問答を続けていると今度は、レッドがわざとフェイクの指示を出しフェイントかどうか見分け尚且つそれに対抗する技を出すという高度な練習が始まった。出来るか馬鹿野郎である。
自分が出来るからアッシュも出来るだろうという単純な発想なのだが、それが無茶振りであると気付かないようだ。
「天才に凡人の苦しみは分からない」といった言葉がまさに当てはまるだろう。


レッドのスパルタっぷりは続く。まず、レッドは水タイプらしい二枚貝のようなポケモンを繰り出してきた。
どう見てもイーブイよりも実力が上だが、それでもグリーンのジムではレベルの低いポケモンであるらしい。
そもそもグリーンの預かるジム自体が高レベルの為、仕方のないことだろうがなかなか酷な話である。
他のジムでは使うタイプを限定しているところが殆どだが、グリーンはどのタイプも優先せず均等な育て方をしている。
だからこそ弱点を突きにくく、そこに伝説のポケモントレーナーの指示が加われば最早何も言うことはないだろう。
今日はまずポケモンが指示を受けてどのように動くのか目を養うことが目的らしい。
しかしそこはレッド流の為技を素直に見せてくれるはずもなく、指示とは違う技で翻弄したかと思えば指示通りの技を出させたり時間差で技を繰り出したりしてくる。

初めて使うポケモンとは思えないコンビネーションだが、それが出来るかどうかはトレーナーの腕にかかっているらしい。
その個体の癖を知り、上手く誘導してやることが無理なくバトルするコツだとレッド本人は言わないが何と無く察することが出来た。
なんて言っていられたのは最初だけで、夕日が沈む頃にようやく終わった訓練にアッシュもイーブイもボロボロになっていた。
勿論、レッドは妥協をしない為合格をもらうことは出来なかったのだが、いい加減帰って来いとグリーンとナナミに言われて渋々レッドがポケモンをボールにしまったのである。

「た、助かった…」
「ブイ……」

本当にバトル訓練で死ぬかと思ったが、当のレッドは不満そうな顔で帰り支度を整えている。帰ろうかと言うレッドにとりあえず頷きだけを返し、アッシュはその場にがっくりと膝をついた。
1度休まねば帰れる気がしない。レッドに休息を申し入れ、暫く休んだ後、ようやく帰路についたのだった。

しかしここからがレッドの凄いところだったのである。帰れば居間へと座り込み、イーブイにここが良かったらあの切り返しは素早かったと褒めたり撫でたりしてやっていた。
イーブイもベテラントレーナーであるレッドに褒められて満更でもないらしく、噛み付くこと無くされるがままになっている。
それをピカチュウと共に傍らで見ていたアッシュは「お前のご主人は飴と鞭が凄いなぁ」と伝えると凄いだろうと自慢げに鳴いた。きっとこれがあるからあの辛い訓練にも耐えられるのだろう。
そう思いながらついついピカチュウの頭を撫でていると反省会が終わったらしいレッドはアッシュに歩み寄り、

「アッシュは全体を把握するのを優先してて指示を出すタイミングが遅い」

とさっそく指摘を受けた。それ以外にも技の構成がポケモンに合っていないだの、誘導が出来ていないなどの駄目出しを受けてしまった。
やっぱりなとアッシュがやや沈み気味になっていると、「でも半日で大分早くなったと思う」と珍しく楽しそうな顔をされた。
恐らくアッシュが強くなれば自分とも戦ってもらえると思い張り切っているのだろうが、無意識の飴と鞭とはやはり恐ろしい。


何はともあれ、アッシュの初回実施訓練は何とか終了したのであった。


- 64 -

*前次#


ページ:

【TOP】

ALICE+