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ピジョットに乗った時同様、やや不満そうなイーブイをボールに仕舞うが、ウパーは空を飛ぶと聞いて見たい見たいとはしゃぎ回り、結局アッシュの背中にくっつくことになった。
ウパー達は体が乾かないよう粘液で体を覆っているらしいが一応それには微量だが毒がある。とはいえ、あまり人体に害はないそうな。あまり、というのは多少なりとも痺れたり、ピリピリしたりと麻痺効果がある為である。
それもまぁ、楽しそうなので我慢するとしよう。

「絶対落ちるなよ」と言い聞かせつつウパーを背中に載せたままレッドの後ろへと乗ると、その間へピカチュウがひょいと入り込んできた。
ボールに仕舞わないところを見ると普段はレッドと一緒に乗っているようだが、今日は真ん中に乗るらしい。
よしよしとピカチュウの頭を撫でると嬉しそうに「チュウ」と鳴いて尻尾をゆらゆらと揺らした。

「出発する」

それを確認したレッドもまた、リザードンに声をかけて飛び立った。



大きさゆえか、ピジョットよりも力強い羽ばたきのせいで来た時よりも速い速度で景色が流れていく。
ウパーの方はというと、アッシュとは違って体が乾いていくというのに全く気にした風もなく楽しそうにはしゃいでいる。
これ乾いたらどうなるんだろうとやや不安が募るが流石にそこまでの危機となればウパーもどうにかするだろう。多分。
ウパーを気にしつつも、前回の悲劇から学習したアッシュはなるべく下を向き風圧が顔面にかからないようにしていた。
が、やはり顔にかかる風圧までは逸らせない。


それに気づいたらしいピカチュウは、レッドの肩の上にひょいと乗ったかと思うと彼の帽子を咥えて戻ってきた。
そうして今度はウパーとは反対のアッシュの肩によじ登るとそのままレッドの帽子をアッシュに被せる。
飛行中に行うピカチュウは何とも器用なものである。ウパーも同じように思ったのか、ほうほうとでも言うように小さく鳴きつつ感心した様子でピカチュウを見ている。
ウパー、感心するのはいいがあんまり身を乗り出されると前が見えない。

「ありがとうピカチュウ」
「ピカ!」

さりげなくウパーを元の位置に戻しつつピカチュウに礼を言うと、どう致しましてと嬉しそうに鳴くピカチュウ。
貰った帽子を深く被り直すアッシュをチラリと見やったレッドは無言のまま前に向き直った。
どうやら使っていて良いらしいので有難く使わせてもらうことにしよう。


そうして空を飛んで暫くして、目的のコガネシティらしき町が見えてきた。風避けをしているせいでよく見えないがレッドが無言で指差してみせたので恐らくあっているのだろう。
落ちついている外れの場所に着地したリザードンはついたぞとでも言うように翼を下に下げて降りやすくしてくれた。
それにお礼をしつつ、レッドにも帽子を返すと軽く頷いたレッドはリザードンをボールに戻しながら片手で帽子を被り直す。
地面へと降り立つと、何だか体がまだふわふわしている。
浮遊感を感じながらもアッシュはレッドとその仲間達に礼を言った。

「ありがとうな。助かったよ」

帽子を返しながら何とかそれだけ伝えたが、あまりこういうのには慣れていない。
それから何と続けていいか分からず、「また帰るからお前もあんまり篭るなよ」とだけ告げてアッシュは歩き出した。

すると後ろから「アッシュ」と小さく声をかけられ、レッドの方を振り返る。
レッドはしばし無言であったが、帽子のつばを押さえ「またね」とだけぼそりと告げられた。
また、連絡して欲しい。また会いに来てほしい。
そんな気持ちを汲み取ったアッシュは思わず固まった。

アッシュはマサラを旅立った時、あまりいい気持ちを抱いてはいなかった。
自分が情けないやら、レッド達と自分を比べたコンプレックスや葛藤。何をしてもレッド達のように、ほかの少年たちと同じようにポケモンに夢中にはなれない。
かといってジュンサーやジョーイを目指す少女達とも志は違う。
心の中はずっと、正直もやもやした気持ちでいっぱいだったのだ。
だというのに、今はどうだろうか。

「おう、また連絡するよ」

嬉しいやら何やら暖かいようなくすぐったいような気持ちでいっぱいになったアッシュは、それを知られないよう帽子ごとレッドの頭をくしゃくしゃと撫でると、今度こそコガネの方へと歩き出した。




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