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その後、いつもの様にそのままエンジュジムへと寄ったアッシュ達だったが、あいにくその日マツバは休暇であったらしくジムにはイタコ達しかいなかった。

何だがジムリーダーが休みだと言うととても不思議な気持ちになるが、ジムリーダーとはいえ立派な公務員資格である。
仕事であれば休みがあるのは当然かと納得する。
現にグリーンはジムが休みの日になると朝からずっとアッシュの勉強に付き合っていたのだから我が弟分はなかなかに働き者である。

そんなことを思いながら以前行ったことのあるマツバ宅へと向かうと、玄関先でインターホンを押す前に扉をすり抜けてきたゴーストがひょっこりと顔を出した。
どうやらアッシュ達の気配を感じて様子を見に来たらしい。

「マツバはいるか?」
「ゴースゴス…ゴス?」
「頼む」

呼ぶかと聞かれたので頷くと直様姿を消し、暫くするとガチャリと音がして扉の隙間からマツバとゲンガーが顔を出した。

「アッシュ君いらっしゃい」
「悪いな、寄らせてもらったよ」

それは勿論構わないよと言いつつ、お茶でも入れるから上がってよと声をかけられアッシュ達はそのままお邪魔することにした。
アッシュへお茶を出しながらマツバが「ポケギアからも連絡くれれば良かったのに」と零すと、またもや自分がポケギアの存在を抹消していたことに気付いた。
そういえば直前にもう一度連絡をくれと言われていたのだった。

こうなったらきちんと腕に付けるべきか、と思っているといつの間にかゴーストがポケギアをアッシュの手元に寄越してくる。
どうやら鞄の中にあったものを拝借していたらしく、どうみてもやや薄汚れたそれはアッシュのものであった。
それにイーブイは文句を言ったが、ゴーストは全く気にしていない様子でけろっとしている。
かさばるのであまり付けたくはないが、いつ必要になるか分からないので大人しくつけておくことにしようとアッシュはポケギアを腕に装着した。

「このあとはアサギへ行くんだったね」
「あぁ」

旅に必要なものは殆どあちらで揃ってしまったのでこのままアサギシティに行くつもりだ。が、果たして今日の船は出ているだろうか。
アッシュが無意識に腕を組むと隣に来たゴーストがそれを真似して腕を組む仕草をするので、イーブイがまたもや文句を言う。
それは最早言いがかりのようなものであったが、ゴーストに無視されるのが気に入らないからであろう。
ちなみにウパーはゴーストとイーブイの後ろでゴースに遊んでもらっている真っ最中だ。ゴースの身体をすり抜ける際の冷気がウパーにとっては面白いらしい。
ウパーとゴース、そしてイーブイとゴーストのやり取りを見ながらアッシュが今後について考えていると「ゴース、ゴースト」と静かに名を呼ぶことでマツバが間に入った。

それを機としたのか、ゲンガーも2匹を諭しにかかる。
その様子を見つつ、アッシュも話題を続けた。

「それについてだけど、船がアサギから出ているらしいんだが、まだ出てるかな」
「今からなら歩いてもギリギリ暗くなる前にはつくと思うから、急げば夕方のに乗れるんじゃないかなぁ」
「よし、じゃあそれに乗れるよう頑張るとしようか」

頷いたアッシュはイーブイとウパーに声を掛けると、マツバ宅をお暇することにした。
玄関先まで送ってくれたマツバにアッシュは礼を言う。

「本当にありがとうな。餞別まで貰っちゃって」
「いいんだよ。もし面白い事があったらまた連絡欲しいな」
「あぁ、分かった」

挨拶を交わすアッシュ達の横ではゲンガーとゴーストがイーブイやウパーを囲んで同じように挨拶を交わしている。
楽しかったと跳ねるウパーの横でおちょくられたと怒るイーブイの正反対の様子に苦笑しつつも、一通り終わったのを確認したアッシュはアサギシティに向けて出発することにした。

「じゃあ、またなマツバ」
「……アッシュ君!」
「なんだ…??」

玄関の外に足を踏み出したアッシュにマツバが慌てて声をかける。
何故皆唐突に後ろから声を掛けるのだろうかと疑問に思いながらもアッシュが振り返ると、マツバは思っていたよりも神妙な顔つきでこちらを見つめていた。

「気をつけて」
「……おう?」

一体何のことだと眉根を寄せるが、マツバもなんと説明していいのかよく分からないらしくただ困ったように眉を下げた。
それでも向こうが真剣なのだけは感じ取れたので、とりあえずアッシュもしっかりと頷くとマツバ宅を後にしたのだった。



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