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声を掛けられた店長は男性の方を向くと顔の前でヒラヒラと片手を降る仕草をする。

「いえいえ。アッシュ君、こちらはここの店長のカゼノさんだよ。カゼノさん、この子は前に僕の店で働いてくれてたアッシュ君です」
「おお、この子がそうだったか!」
「こんにちは」

紹介されたのでとりあえずと頭を下げる。アッシュが頭を下げる様子を見て、ウパーも真似てぺこりと頭を下げたのが見えた。
そんな様子を見てカゼノはニコニコを更に表情を和らげた。

「おお!可愛いらしいポケモンだね!」
「アッシュ君は漢方屋のお弟子さんなんですよ」
「そうですか!漢方屋も若手不足と言いますからな!いや若い者が増えるのはいい事ですなぁ」

カゼノが朗らかな様子で答えると、店長もまたニコニコと頷いた。


「彼はよく働く子ですからね。きっと漢方屋さんでも力を発揮してくれるはずです」

随分力を買われているようだが、そもそもそうなった原因の1つにカンポウの大袈裟なボランティア話があるのをアッシュは覚えている。
あの時は本当にこの人は大丈夫なんだろうかと心配したものだ。
ようするに彼の評価はあまり当てにならないという話だ。
アッシュがそう思っているのが伝わったのか否かは分からないが、店長は会話を続ける。

「いやはや。バイトの君を失ったのはとっても残念だったけれど、良い方に変わっているようだしね」

同じくトレーナーの身としては嬉しい限りだよと笑みを浮かべる。
はて何のことかと首をかしげる。すると店長は周りに聞こえないようにか口元に手を当てながらそっと言葉を続けた。

「今まで君はポケモンを避けているような節があったからね。何か嫌なことがあってポケモンが苦手なのかと思っていたんだよ。レアコイルともあまり触れ合ったことはなかったからね」

今の君は楽しそうで嬉しいよ、と本人はご機嫌な様子である。
アッシュは元々ポケモンの言葉が分かると気づかれぬようにする為、あえてポケモン達の行動を無視していた節がある。
今だから分かることだが、それはパートナーであるトレーナーにとってきっと嫌なことまあっただろうに店長はニコニコと笑っているのだ。
相変わらず優しい人だなぁと思いつつレアコイルにも視線をやると言いたいことが分かったのか、自慢げに凄いだろうとひと鳴きした。
それにコクリと小さく頷く事で返事を返すと、店長は思い出したと突然手をポンッと打ってカゼノを振り返る。

「そうだ!!カゼノさん、さっきのヤツ彼に譲っても?」
「勿論構わんよ!そもそも君が作ったものじゃないか。私も勉強になった」

何のことかと二人の会話にウパーと一緒にハテナを浮かべていると、店長はアッシュへと向き直る。

「実は自転車の試作品を作ったんだけど、あまり納得いかなくてね。とはいえ、性能はそこそこいいものだし折角だから君に譲ろうかと思ってね」
「あぁ、あの探していた部品のヤツですか」
「そうそうそうなんだよ!折角軽くて丈夫な良いパーツだったからなるべくその良さを無くさないよう軽くて物持ちの良いパーツを探しててね。車輪は特に丈夫となるとどうしても重くなるけど軽くしたいと思って。軽いといえば1番はアルミだけどやはり耐久性が落ちるからね。そこはほら最近のステンレス製を採用したいとは思ってるんだよ。ステンレス製は錆びにくいしブレーキによる摩擦汚れも少ないしあと特に僕が好きなポイントがあってそれが…」
「サトル君!持ってきたよー!」
「おお!カゼノさんすみません!ありがとうございます!」

店長がベラベラと素材について語っている間に車体を取りに行ったらしいカゼノが戻ってくる。いつの間に居なくなったんだと驚いたが、彼もまた店長の行動を分かりきっているが故であろう。

店長は自転車を見せるとニッコリと笑いかける。

「これは折りたたみ式だし、何よりホウエンは自転車を使う人が多いから置き場所にも困らないと思うよ!」

不必要な時は折りたたんでパソコンに預けることも出来るからね!と店長は続ける。
折りたたまれた自転車を持ってみるとアッシュの知る折りたたみ自転車よりもずっと軽く、これなら持ち運び出来そうである。
というか、こんなに軽くてそして恐らく丈夫で、尚且つパソコンにまで預けられるというのに何が不満なのだろうか。
それを聞くと長々と語りが始まってしまう為、アッシュは「いいんですか?」と問うだけに留めた。

「就職祝いだよ!試作品で申し訳ないけどね!」

少し申し訳なさそうに店長は言うが、そもそもこんなにいい自転車ならかなり高額な筈だ。
こちらこそ申し訳ないと思っていると「実際に使った感想も聞きたいしね」と茶目っ気を見せてくれた為アッシュも気負うことなく貰う事にしたのだった。


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