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「ウパー?」

一体何が出てくるのかと身構えていると、何々?と呑気に尋ねながら一匹のウパーが姿を現した。
さっき海辺にいたウパーだとアッシュが気づくより早く、ウパーはイーブイに向かって突進して行く。

「ウパー!」
「ブイ?!」

げっ!とか何とか嫌そうな声を上げたイーブイはそれを避けるようにアッシュ達の周りを走り始めた。

「ちょ…!おいイーブイ!……いたた!お前もやめろ!」

ぶつかる勢いで周りを走り続けるイーブイを止めようとしたアッシュだったが、それを邪魔するかの様に先程のポケモンがアッシュの髪を引っ張る。

「痛たた!!」

アッシュは髪を引っ張るのをやめさせようとするもなかなかうまくいかず、その間にイーブイが足を取られて転んだ。
と思ったら、そこに一周回っても気づかなかったウパーが乗り上げた。
突然の柔らかな地面に驚いてウパーがバランスを崩すと下にいたイーブイがブエッと鳴く。
ウパーの方が大きいのだからイーブイが不憫である。
それを見たポケモンはアッシュの髪を引っ張りながらもケタケタと笑っている。

まずはこの状況をどうにかすることが必要だ。

「ちょ、一旦全員止まれー!」

アッシュはことを納めるため躍起になった。
とりあえず髪を引っ張るポケモンのことは諦め、慌ててウパーを抱き上げるとイーブイが再び唸り声を上げる。
暫くはブイブイ文句を続けるイーブイだったが、次第にそれも落ち着いてくる。
名前の分からないポケモンの方も引っ張ることに飽きてきたのか、ようやく自分から離れていった。
その間アッシュに抱き上げられゆらゆらと揺れていたウパーだけが楽しそうに笑っている。
別に高い高いをしているわけでは無いのだが。

「ブイブイブイ!」
「落ち着けイーブイ――で、こんな所で何してるんだ?」
「ウパパ!」

今にも飛びかかりそうなイーブイを押さえてアッシュが問うと、ウパーは一声鳴いた。
どうやら里帰りだと言ったらしい。

ウパーはあちこちフラフラしているが元はここで生まれた。一緒にいるポケモンはウパーの友達で、さっきまで暇だから追いかけっこをしていた……要約するとそんな所だろうか。

「へぇ、何て名前のポケモンなんだ?」
「ウパ?」

尋ねられたウパーは首を傾げている。それはそうだろう。ポケモン達は自分達が人間からなんと呼ばれているかなど知るはずがない。
仕方なくもう一方を見るが、目が合う前についと目をそらしてしまう。

「お前は知らないのか?」
「ムゥー」

さぁね、といったニュアンスの返事を返してきたそのポケモンは如何にも気まぐれそうな印象を受ける。
結局何というポケモンなのかは分からないが、触られた時はヒヤリとしていたのでゴースとかと同じゴーストタイプのポケモンなのだろうと思う。今度マツバに聞いてみよう。

そんなことをしている間にも、イーブイはウパーに噛みつかんばかりの勢いだ。それを羽交い締めにして何とか押さえつつ、アッシュは話を本題に切り替えた。

「ところでお前達、この辺りに漢方で使う野草があるらしいんだが知ってるか?」
「ムウー」「ウパパ!!」

ポケモンはそっぽを向いて知らないと返したが、ウパーがそれを遮る勢いでぴょんぴょんと飛び跳ねながら知っていると主張する。

「ムー…」

言葉にするならちぇ、とかそんな所だろうか。兎に角ウパーが本当のことを言ってしまった為、意地悪する気が削がれたらしい。
やはり気まぐれそうだなぁとアッシュは思いつつ、二匹に案内してくれるよう頼んでみた。

「ウパー!」

名前の知らないポケモンは知らん顔をしていたが、ウパーはこっち、と言ってペタペタと足音を立てて洞窟の奥へと進んでいく。
そんなウパーのことはわかっているのか、暫しアッシュ達を見送った後でしっかりとついてくる。友人だというのは本当らしく、今度は邪魔することなくウパーの後へとついて来た。
そこから歩き出して10分程歩くとそれまで歩みを止めなかったウパーが急に立ち止まる。

「ウパパ!!」

ピョンピョンと跳ねながらそこであることをアピールしている。
あまり代わり映えしないが、よくよく見れば岩と岩の間にひょろりと伸びた野草が生えていた。
辛味とも臭みとも言い難い独特の香りがする。
薬草帳の記述に独特の香りという項目をみつけたので間違いないだろう。



ウパーの活躍により無事野草を手に入れたアッシュ達はその後来た道を辿っていく。
途中、ポケモンが全く違う方向を指すせいで迷いかけたが、何とか元の道まで戻って来た。
その間、何度か野生のポケモン達とバトルしていく。
パラスに似た赤い身体のポケモンはイーブイの体当たりを受けて目を回した。


「ありがとうイーブイ」
「ブイブイ!」

アッシュが礼を言うと当然とばかりに胸の毛を膨らませている。
やはりイーブイはバトルが好きらしい。さっきの怒りも忘れて得意げな様子は見ていて可愛らしい。
一行はその後も何度かバトルを繰り返しつつ、何事もなく崖下まで戻ってきた。

「ありがとうなウパー、それと」

そこで名前の知らないポケモンの方を見る。
ウパーといいホーホーといい、今までのポケモンの名前から察するに名前は鳴き声に由来している可能性が高い。
ということは、

「ありがとうな、ムーさん」
「ムゥー!?」

アッシュがお礼を言うと何だその呼び名はとポケモンは不満げに顔をしかめる。

「いや名前分かんないから便宜上とりあえず。嫌なら教えてくれ」
「ムゥムゥー」

そっぽを向いて拒否。教える気は無いらしい。なら諦めてくれと言うと嫌そうな顔をした。

「ムゥー…」
「ウパパ!」

ポケモン――改めムーさんの方はそっぽを向いてつまんないと呟くが、ウパーの方はピョンピョン飛び跳ねて喜びを表している。
二匹はその後も何事か会話を続けていたが、そのうちムーさんの方がクルクルと周りを飛び回り何処かへと去っていく。
それを追いかけてウパーもパタパタと走り出した。
バイバイとでも言いたげに尻尾を振るウパーにアッシュも片手を挙げる。
すっかり見届けた後、アッシュはイーブイへと声を掛けた。

「さて、俺たちも帰ろうか」
「ブーイ」
「そうだな。でも帰りも大変だから」

疲れた、と呟くイーブイだが問題はここからなのだ。
何せあの降りて来た険しい崖を登らなければいけない。

「……頑張ろう」
「……ブーイ」

アッシュとイーブイは揃って大きなため息を吐いた。



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