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やっとの事でセンターに戻ると辺りはすっかり明るくなっていた。
ずっと暗い中にいた為、朝の日差しが両目を刺す。
思わず頭がクラクラするのを抑えながら、あぁそういえば朝食もまだだったと思い出した。
とりあえず薬屋に行くのは後でも良いだろうと思い、朝食を食べにセンターの食堂へと戻る事にした。

「おはようございます、ポケモンセンターで……あら!お帰りなさい」

センターで出迎えてくれたタンバのジョーイが口上の途中でアッシュに気づいたらしい。

「戻りました」
「あらあら!随分汚れていますけどお怪我は?」

心配そうなジョーイの言葉に怪我?と疑問に思いふと自分を見返せば足どころか上着も何もかも砂だらけである。
あの断崖を登ったのだからよく考えてみればそうなるのも無理はないだろう。

「怪我はないです。……すみません汚してしまって」

よくよく見ればセンターの入り口が砂だらけである。
しかもそこに被せるようにしてイーブイが身震いして自分に掛かっていた砂を落とした。
思わずその光景を見ていると、何だよとでも言いたげにイーブイが歯ぎしりをする。
自分も汚した身なので何も言うことはないとアッシュは首を横に振って何でもないと返した。


そのやり取りを見て微笑ましげに笑っているジョーイへ後で掃除しに来ることを告げると、とりあえず部屋へ一旦戻ることにする。
イーブイと共にシャワーで砂を落とし、センター内を掃除してようやくの朝食となった。

何だか今日は行く前から疲れてしまったが、届け物も渡していないのだから行かないわけにはいくまい。
ミカンからの言伝もまだである。アッシュは再び薬屋を訪ねることにした。



「おお、おはようさん!待ってたで!」
「おはようございます。昨日渡しそびれていた品物です」

アッシュが品物を手渡すとその場で確認をしてくれる。頷いたのを見計らってアッシュは続けた。

「あと、アサギジムのミカンさんから薬屋さんにお礼をと言伝も預かってます」
「そやそや!あの子元気になったかいな!?」
「まだ本調子では無さそうでしたけど、ぐったりとはしてなかったですよ」

ミカンのところにいたアカリちゃん――デンリュウの事だろうとアッシュはその様子を思い返す。
元の様子が分からないのでなんとも言えないが、とても元気なわけでもないが寝込んでいるという様子でもなかった。
ミカンの安心した様子からして、少しずつ良くなっている途中だったのだろうと思う。
それをそのまま伝えると「良かった良かった」と薬屋も安心した様子で頷いた。

「安心したところで今日も頼むな!」
「…よろしくお願いします」

安堵した雰囲気から始まったが、そもそもカンポウと共謀してはめられた身である。ある程度覚悟してきたが案の定、その日から薬棚の拭き掃除、不要になった品の片付けなど割と細かな雑務……有り体に言ってしまえば雑用を押し付けられるようになってしまった。
それに多少の文句をこぼしつつも、雇い主から直々にバイトとして依頼されたので仕方ないとアッシュは渋々ながらもその手伝いを続けることにした。
イーブイはというと、日差しの当たる窓辺でうつらうつらしている。朝から動き回って疲れたのだろう。
たまにヒクヒクと長い耳や鼻が動いているのが見える。と思ったら後足で耳裏を掻きむしったり、その足を食んだりしている。
のんびりとした様子を羨ましく思いながら、アッシュは仕事に取り掛かった。

急なことだったので不満もあるのだが、悪いことばかりではない。薬屋の名の通り、ここでも漢方薬などを扱っている。
カンポウとは違った薬の煎じ方や抽出の仕方を見る機会などそうあるものではないのだ。
物珍しさから思わずその様子を邪魔にならないよう後方から観察していると、簡単にそれらについてぽつぽつと説明をしてくれる。
時には自分が薬草帳から学んだ植物を使っていることもあり、実際に覚えたことを活かす機会は正直言って――思った以上に面白かった。
つい終わり頃にはあれは何だったのかこれはどうするなど自分から質問までしてしまう。それに気を良くした店主は折角ならばと、アッシュでも分かるよう丁寧に色々説明をしてくれる。


そんなわけでなかなか充実したタンバシティライフを送ったわけだが、それも四、五日と続くとやはり疲れも出てくる。
そもそもアッシュにまかされる仕事の大半は力仕事か細々とした地道な作業である。
普段からある程度のことはしているが、慣れない作業に肩は張る、目は疲れると疲労の蓄積が激しかった。
その上あまり経験したことのないことだったが、潮風というのは慣れない身には堪えるものがある。
ようするに段々と調子を崩しかけていたのである。
あ、そろそろ無理かもしれないと思った頃、店主からようやっと終了の声がかかった。

「今日で終いや!ほんまよう頑張ってくれたな!」

ありがとうと嬉しげに握手されると頑張って良かったと思うのだから困ったものである。
店主はさぞ良いカモを見つけたと思ったことだろう。店主の後ろでイーブイの呆れた視線が視界に入った。

その後これはタンバ土産だと魚介類を使った地元名物の干物やらタンバ塩を使った煎餅やら漬物やらをこれでもかというほど持たせてくれる。
来た時よりも明らかにずっしりとした重みを抱え、店主に船まで見送られながらアッシュはタンバシティを後にすることとなった。

「これ持って帰れるかな」
「ブイブイ」

山程ある土産物を前に途方にくれるアッシュに、イーブイは無情にも手伝わないぞといったニュアンスの言葉を告げる。
いざとなればデリバード便で送ってしまおうとアッシュは心に決めたのだった。

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