あなたを探しに、世界の裏にだって/こんにちは、スイッチ


 げほ、げほ、と大袈裟に咳をすると、ヒソカは眉を寄せた。相変わらず貧弱な私に辟易しているのだろうし、大袈裟な咳程度でなんとか収まるくらいには、 ヒソカが力加減を下方に誤ったということであるためだろう。私は口の中に溜まった血を吐き出し、惨めに道路に這いつくばった。たぶん、私は、殺される。念が使えたって逃げるのに精一杯なのに、怪我を治すのと引き替えにオーラを一時的に失っている私には、ただ1つの退路も用意されていないのだ。ヒソカはぐにゃりと顔を歪ませ、私の襟首を捕まえた。ぐっと頭が引き上げられる感覚に抵抗する術などなかった。ただされるがままに、半開きの目で歪む口元を見つめる。

「キミって。本当にバカだよね。隠れる気とかなかったのかい? あんなに大声で名前呼ばれちゃって。まぁキミだったら絶やってたって見つけられるんだけどね」
「……私にも、いろいろ、あるんだよ。生活とかね。あなたと違って」
「なるほど。それは確かに僕にはない」

 くっく、と微かな笑い声を漏らして(ああ、そうだ、これは多分、笑ってるんだ)、ヒソカはさらに私の体を引き上げた。血の味のするキスを、容赦なく賜う。だらしなく半開きになっている唇を割って、ヒソカの毒蛇はたちまち腔内を制圧した。何度唇を離し、また付けただろう。気付くと私は情けないことに、縋り付くようにヒソカの袖口をきつく掴んでいた。

「は、はぁ、」
「ナマエ、」
「はぁ、」
「バカだ、ナマエ。キミは。」

 鋭利な痛みが下肢に走り、目の前が自分の血で真っ赤になった。ヒソカは相変わらずぐにゃりと変な顔をして、パラパラとカードを私の元へと降らすばかりだ。「本当に、バカだよ」

「私を、殺すんだね」
「最初から。そう言ってたじゃないか。キミのことなんて、いつだって壊せる。キミの命なんて、どうだっていいんだ。どうなったって。だから、こうして、殺してしまおう」
「私、死ぬんだね」
「クク、さあね」

 ダグ、ダグ、と奇妙な音を立てながら、ヒソカは腹部へ何度も蹴りを入れていく。この世のものとは思えない痛みに、声を漏らすこともできなかった。しかし、頭は妙に冷静だ。頭の中は、いつだって、冷静だ。(なぜ、ヒソカは私をさっさと殺さない? いつまでも弄んで、死なない程度に、傷つけて。ねえ、もしかして、ヒソカ、)

「ん、もう飽きちゃった。また今度ね、ナマエ。次は必ず殺してあげる」

(私、ヒソカに生かされている?)

(140128)

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