「……今夜、ヒソカの仕事に?」
「そ♥ 協力してほしいんだ♦ どうせ暇でしょ」
相変わらず唐突である。聞こえないふりをしようと思ったのだが、つい返事をしてしまった。返事をすれば、会話になる。ああ、しまった。こいつと馴れ合うつもりなんてないというのに。ヒソカはそんな私の葛藤さえもお見通しとでも言うように、口角を上げた。
「報酬も出すよ」
「ほ、報酬」
「言い値で♥」
「言い値」
……現金な奴だと、バカにするならすればいい。でも、少なくとも私にとっては、これは死活問題だ。何せ、今の私には日銭を稼ぐ手段すらない。父に言われるがまま働いた悪事で得た貯金を細々と切り崩しながら生きている私には、『報酬』というのはとても甘美な響きを持っていた。
「どうする?」
「そ……そこまで言うなら……?」
私は貼り付いた喉を無理矢理こじ開けて、嗄れ声でそう答えた。ヒソカは再びニィと口を笑わせた。悪魔との取引だ。でも、何かの代償に奪われるのが魂ならば、私にとっては安い物だ。
「それじゃとりあえず、買い物に行くよ♣」
「え……?」
「さあ、キミが持ち合わせてる服のどれかで、パーティに出席できるような物があるって言うなら別だけど♦」
「パー、ティ?」
なぜパーティ。なぜ仕事でパーティ。なぜ、ヒソカが、私と、仕事で、パーティ。何度ぐるぐる考えても、もちろん答えは出てこない。そうしている間に、目の前にヒソカがぐいと肘を突き出した。どうやら、ここに手を添えて腕を組め、ということらしい。
「さ、行くよ。お嬢様♦」
ヒソカは馬鹿にするように嘯いた。私はムキになって、敢えて無視して歩き出す。
「おや、行く気まんまんみたいだね♥」
「……あんたの言いなりになるお嬢様でいるつもりもないので」
「アハハ。その意気だよ」
本気で言っているのか、嘯いているのか。家を出ると、見たこともないような高級そうな車が一台、通りに止まっていて、ヒソカがキーのボタンを押すと当たり前のようにその車から『ピ、ピ』と音がしてヘッドライトが点滅して見せた。そして当たり前のようにヒソカは助手席を開けて私をエスコートし、運転席に乗り込んだ。あまりにも、あまりにも予定調和な展開に、実はこれは思春期の少女が見ている夢の中なのではないかと勘ぐってしまう。
「……こんな車、どうしたの?」
「友達に借りたんだよ」
こいつ友達いたんだとか、その友達って絶対悪い奴だろとか、色んな文句が浮かんだけど、相変わらず喉が貼り付いて上手く声を出せなかった。ヒソカの運転する車の助手席に乗る、なんていう妙な生活感に戸惑うばかりで、座り心地の良いはずの高級なシートの上で、居心地悪く身をよじった。
(210220)