車の中で、今日の仕事について聞かされていた。
今私達が向かっているパーティは、ある財閥のトップが主催したもので、何周年だかなんだかの記念パーティらしい。元々は、選び抜かれた古くからの馴染みの顔しか招待されず、何年もの間ほとんど顔ぶれが変わっていない、潜入のとても難しいパーティだった。しかし今年はその事情が少し違っていた。昨年、長年会長として独裁を敷いていた会長が病に倒れ、すぐに会長の息子である当時社長が継いで会長兼社長となった。会長と長らく意見を違えていた息子がトップとしてすげ変わり、新体制になって初めて開催されるパーティが、今日というわけだ。それに、クラシックな御趣味を持つ、新会長令嬢の御機嫌取りのための、古風なダンスパーティという意味合いも兼ねられ、会を盛り上げるために広く人が集められたのだそうだ。古い繋がりや観念を一掃し、広く新しい顔ぶれを集めたパーティなら、潜入はさほど難しくない。
「中に入って少し馴染んできたら、ボクは新会長のお嬢様と踊りに行く。同じお嬢様でも、キミと違って本物のご令嬢だよ♠ 箱の外は何もしらない、本物の箱入り娘だ♦ 彼女に気に入られないと、その奥の奥にいる、財閥のトップが出てこない。そいつを引きずり出したいんだ♥」
「じゃあ、私は……」
「キミは適当に過ごしてて♣ 大丈夫、ボクの友達がいる筈だから、仲良くしててよ♥ ボクなんかと即日同居を決めるくらいの度胸があるんだから、大丈夫だよ♦」
「そ、それあんたがゆーか?!」
「アハハ♥ だいぶ打ち解けてきたね、ボクたち♥」
ヒソカの運転は、荒っぽくもなければ、特別丁寧という感じでもなかった。相変わらず居心地悪く、革張りのシートに腰を沈めると、香ばしい香りが微かに鼻孔を擽り、元の持ち主が喫煙者であることが窺えた。来たこともない街の中にある、来たこともないお屋敷。大きな門の間を通るとすぐに豪奢な玄関が私達を出迎えた。ヒソカが一足先に車を降り、助手席のドアを開けて私をエスコートする。そのままボーイにキーを渡してバレーサービスに車を委ねる。
「それじゃあ、中に参りましょうか、お嬢様♣」
「……どうぞ、よろしく」
わざとらしく突き出された腕に、私は渋々手を添えた。受付では、若い男性がたどたどしく招待状と招待客リスト、客の顔を見比べて参照していた。ヒソカが招待状を差し出すとき、見たこともないような名前が書かれているのがちらりと見えた。ボーイが「アルフレド・アンダーソンさま」と言う(誰だよ)。ヒソカが顎をくいっと頷かせ、「連れもいいよね?」と私を示すとボーイも頷いた。
……呆れるほどあっさりと会場に入れてしまった。中に入ってすぐに、大きなフロアがあり、そこには大勢の人が集まっていたが、それでも窮屈でないくらいの広さがあった。庶民の私には、こんな部屋はパーティ以外にどう使うのか全く検討もつかなかったが、金持ちにとってはパーティ専用の部屋を持つことくらい造作もないことなのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えていると、ヒソカが給仕を呼び止めた。シャンパンを二つもらい、一つは私に分けてくれる。
「美味しい」
「ま、そんな感じで。適当に楽しんでいて♦ あとでね♣」
「え?!」
ひらり、とヒソカは私の隣から抜け出し、ニヤッと笑った。それから、瞬く間に雑沓に溶け、私はすぐにヒソカを見失った。
(210508)