カタルシスの瓶詰め(4)
 自分に何ら関係のないパーティを、会場の端から一人眺めるというのも、中々意義深い。わけがない。馬鹿か。
 流石の私も、今ばかりはヒソカが隣にいないことで心細いと正直に認めざるを得なかった。見渡す限り、テレビや雑誌でも見たことのないような、上流階級の人間ばかりがひしめきあっていた。誰もが、気品と余裕を匂わせ、優雅に挨拶を交わしたり、音楽に身を委ねたり、食事や酒に舌鼓を打ったりしていた。どう考えても私はあまりにも場違いで、しかしその場違いさ故に誰にも気に留められず誰にも怪しまれずに済んでいて助かった。

(ここにいる人たちはみんな、まさかこの中に殺人鬼が紛れてるなんて、想像もしてない)

 人は時間をもて余すと、考えてもどうしようもないようなことを悶々と考え出すものだ。突然私は実感していた。私はここに、人殺しの幇助をしに来た。当然これも犯罪だ。本当に良かったのだろうか、なんて、考えるのも白々しい。これが、良いことのはずがないのだから。ヒソカは、御令嬢と踊ることでその父親を引きずり出すと言っていた。父親である新会長を殺すということだろう。つまり、その御令嬢も、私と全く同じように、父を失うことになるということだ。

「ねえキミ」

 一人シャンパンを煽りながらぐるぐると考え事をする間延びした時間の中、綺麗な黒い長髪を一くくりにした男が声をかけてきた。

「……えっと」
「オレ、イルミ。キミがヒソカの言ってた友達でしょ?ずいぶん細っこいね」

 出会い頭にお局かよ。イルミと名乗った男は、私と同様、壁に背を向けて会場を見渡すような向きで隣に並んだ。ちら、と窺い見る。不思議とパーティ会場には溶け込んでいるが、良く見るとどう見ても異様な雰囲気を纏っていた。ヒソカと友達と言うくらいだから、多分とても変な人でとても悪い人なのだろう。そんな私の視線を感じたのか、イルミは大きな目を動かさないままに、口角を上げて見せた。

「……もしかして、笑ってますか」
「うん。無表情だとナマエが怖がると思って」
「いや、寧ろ今の方が怖いです」

 今度は本当に可笑しそうに、イルミは「ハ」と短く笑った。笑うこともできるんだ、この人。

(210612)
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Apathy