嘘をついて隙を伺っているだとか、ハッタリをかましているだとか、そんなこと言って油断させている間に娘も助けようとしているだとか、そういったことは一切ない。私には、彼の考えは手に取るよ〜にわかるのだ。
「ふむ。確かにキミからはまるでオーラという物を感じない。そちらさんは多少なりとも持ち合わせているようだ♣」
「お、おーら……?」
暗殺者は機嫌良さそうにウンウンと頷き、トランプをはためかせた。いつ突きつけられるか解らない死の恐怖に、じりじりと喉が焼け付くようだった。
「……す、全ては我が娘の成したことなのだ」
「というのは?♥」
「我が娘には……我が娘にはナマエには、特殊な力がある。おそらく、生まれつきだ」
「生まれつきの力、ねぇ♦」
「ナマエの持つ力。それは……"人のアイディアを盗む力”だ。」
父が、私のこの能力について家族以外に口外するのを見たのは初めてだった。よほど、自分は死にたくないという思いが強いのだろう。
今までにも、こうしたことは何度かあった。黒木博士のめざまし“すぎる”活躍に、何か裏があると勘ぐったライバル研究室やらライバル会社やらが、探りを入れてくるのだ。今までは何とか、ギリギリのところで疑惑を晴らし、信用を勝ち得てきた。今までの密偵が甘かったと言い換えることもできるかもしれない。しかし、今回は違った。今まで、密偵と私たちの間にあった取引材料は、あくまでも信用だとか、お金、情報といったものだ。
今、目の前にいる異様な風体をした刺客、彼と私たちの間にあるのは、命、だ。
「……なるほどね♠」
「だから、私を殺しても意味はない。能力を持つナマエこそ殺すべきだ」
父は自信満々に——いや、この状況だからこそわかるが、この自信は虚勢だ——、娘である私の死を強く推奨した。
……私だって、死にたくはない。もちろん、今の生活に満足していたわけではないし、やけっぱちになって『死んじゃいたいなぁ』なんて思うことはたくさんあったが、それとこれは全く違うのだ。
父は強い人間だと、思っていた。強く、自分以外の助けなど求めず、自分だけを信じ、自分以外の弱者を易々と切り捨てる人間だと。そんな彼が、大嫌いだった。簡単に弱き者を捨て置く父、そしてその父にいつまでも追いつけず、越えられず、越えようとすることも許されない私。私は彼を憎んでいた。憎んでいなければいけなかった。
「ご当人のご意見は?♦」
「わ、私は……」
暗殺者はニヤつきながらこちらを見る。私は、私は……、強く、憎むべき父が、こんなにも弱いなんて、知らなかったのだ。強すぎる父を、憎まなければならないと思っていた。でも違った。彼は弱い人間だ。死を目の前に、醜く足掻き、何が何でも生き残ろうとする人間なのだ。私は、父を……父を……、
「私が、死にます」
私が父を許した瞬間。同時に鳴り響いたのは、トランプの飛ぶ音、肉の裁たれる音、そして父の断末魔だった。
(141202)