アンダーガーデンの悪魔(2)
 私が死にます、そう決意した矢先に殺された父。最後の言葉はこうだ。『……私が死ねば、世界の損失になる……後悔、するぞ……』。そう言い終わり、事切れていく父を、私たちは二人で静かに見守った。そしてヒソカはこう聞いてきた。

「どう? 後悔した?♣」

 おまけに、「ボクはしなかったなぁ♦」なんて間延びした感想まで付けて、あっけらかんと問いかけてきたのだ。

「お、お父さ……」
「だからさぁ、もう死んだってば♣ ねえキミ、どうして自分が死ぬなんていったの?」
「え……?」
「純粋に興味があるよ。キミの奥に隠れてるその輝きと、とってもアンバランスなキミ自身、おまけにまるでキミのじゃないみたいな念能力。うん、今殺してしまうのはもったいないなぁ♥」

 玄関のドアから一歩も動けないままの私の方へ、奇術師は貼り付けた笑みのままこちらに一歩近づいた。私はビクと肩を震わせる。……ちがう、こいつは奇術師なんかじゃない。殺人鬼だ。その時の気まぐれで人なんて無感動に殺してしまえる、猟奇的な溢者。怯える私を他所に、殺人鬼は少し思案するように顎に手を当てていた。たまにこちらに寄越される不躾な視線は、まるで値踏みされているかのようで居心地が悪い。

「わかった♦」

 そう、機嫌よさげに彼が言い、また私は肩を震わせる。なんだろう、これから拷問でもされるんだろうか。それとも、奴隷として売られるとか、今度は父のライバルだった人にいいように使われる、とか? 思考はぐるぐると、とにかく目まぐるしく動いた。まず、この殺人鬼の目的がわからない。なぜ、父を殺す必要がある? なぜ、私を生かす必要がある? なぜ——

「同居、しよう。それがいい♣」

 同居。まるで平和ぼけしてどこか幼稚なその言葉は、とてもじゃないがこの場には似つかわしくなく、それでいてこの空間を支配したのだった。


(150322)
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Apathy