アンダーガーデンの悪魔(3)
「何で、だって♣そんなわかりやすいこと聞くかなぁ。……ああ、もしかしてわざと?♥」

 ヒソカがへらへらと言い、それを合図に私は回想をやめた。かくして、”同居”等という、緊張感のないデタラメなお飯事は始まったわけだが、元私だけの部屋であったこの部屋に、彼が住まい始めて二日経った今となっても、私にはどうしてこうなったのか解らないのだ。二日過ごしてわかったことは、とにかく彼はすぐに私を殺そうという気はないようだということ、意外にもヒソカは料理を好み、しかしそれ以外の家事全般を好まないということ、そして私の淹れるコーヒーを好んで飲むということだ。

「単純に、わからないんです。だって、意味がないし。どうしてなんですか? どうして、同居なんですか? どうして、父を殺して、私を殺さないんですか?」
「ん、んー、質問が多いなぁ。まるで、何も知らない箱入り娘のようだ♦」
「な……」
「ああ、まるで、じゃあないか。箱入り娘そのものだものね♥ 一つずつ答えよう。まず、どうしてキミの父親を殺したか。……それは、そういう依頼だったからだ♣」
「……依頼」
「心当たりはあるだろう? 覚悟もしていたはずだ♦ ……どうやら、キミの父君には覚悟は足りていなかったようだけど。」
「依頼って……」

 確かに、今まで父の情報や、アイディア、研究、機材、金銭など、様々な物を狙って、様々な刺客がやってきた。狙われたそれらは、私たちはもちろん相手方にとって有益なものであり、狙われるのもうなずける。だが、相手にとって有益だと言うことは、そこには隙が生まれるのだ。つまり、交渉が可能だということである。だからこそ、今まで私たちは、目立つような行動をしてきたにも関わらず、大きな被害に遭うこともなく、安穏と暮らして来られたのだ。
 そのことから考えると、ヒソカの言っていることはとてもおかしい。ヒソカは、父を殺したのは"依頼だ"と言う。しかし、父を殺して誰が得するのだろう? 父のライバルは、父の死などよりも父のアイディアを欲するだろうし、父の富や名誉を欲しがる人は、父が死んでしまっては元も子もない。個人的な恨みなら父はそれこそ死ぬほど買ってきているだろうが、個人的な恨みで人を殺すような人は、こんな猟奇的で奔放、そして狡猾な殺人鬼を雇ったりするだろうか?

「納得できない?」
「だ、だって……」
「確かに、依頼を受けたよ♠ ミョウジ博士の──」

 ヒソカはまるで笑うように、首を少し傾けた。黄色い瞳は、宇宙のようだ。

「ミョウジ博士の功績には、何か不思議な力が働いてる。その元を辿って絶て、とね♥」
「……」
「でも、キミに会って気が変わった。キミを殺すのはもったいない♦」

 私は、目眩がして気が遠くなる。父は、私の代わりに殺されたのだ。本来なら私が殺されるところを、身代わりに。
 ひどい頭痛がした。思ったよりも、罪悪感は少なかった。頭をかすめるのは、…………なんだろう、これは。まるで、私を飾り付けていた全ての装飾、そして支柱がすうっとなくなるような。

「そう。ナマエの親はナマエを守って死んだ。キミは、どうする? お嬢様、ぬいぐるみはそろそろ卒業だよ♦」

 私は、父の手から逃れられない愛玩用のぬいぐるみだったのだろうか? あるいは、私がぬいぐるみをいつまでも手放せない幼稚なお嬢様だったのだろうか。

(150529)
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