「あ、これでキミを生かした理由の回答にもなったね♥」
大きく笑顔を作り、ヒソカは言った。
私は目を瞑った。一つ一つ、ヒソカの言った言葉を頭でなぞっていく。
「コーヒー♣」
「あ……」
「コーヒー、もう一杯、くれるかな。今度はナマエの分もね♦」
言われるがままにキッチンに向かい、ペーパーフィルターを折っていると、気付けば涙が頬を伝っていた。勝手なものだ。目の前で父が死んだときには泣きなんてしなかったというのに、こうして死の理由について聞かされた今、安っぽいキッチンで涙を流している。
「……はい」
「うん。ありがとう♥」
目を腫らしながらカップを渡しても、ヒソカは何も言わなかった。気づいていないはずかない。気づいていて、何も言わないのだ。ヒソカは仄かに笑い、カップに口をつけた。
「で、何故同居かという質問だけど♣」
「あ……」
「ナマエのことが気に入ったから♥」
ヒソカはニッと口角をあげ、唇を舐める動作をした。私はその仕草一つ一つに、気付けば見入ってしまっていた。どうしてだろう、私は確かに、この人を憎んでいるはずなのに。
「……こんな能力、あっても仕方がない」
「能力?♠」
「何かおかしなこと、言った?」
「……ああ、」
ヒソカは心得顔で、ニコっと目を瞑る。ヒソカは俄に立ち上がり、腰を折る。つまり、ヒソカの顔が、突然私の顔に近づいてきたのだ。
「違うよ。というか、そうなんだけど、違うよ。ほら、ボクが言ってるのはさぁ……」
私は、わけもわからずヒソカの頬を右手で叩いた。叩いた、と思って、しかしその右手はヒソカの手によって阻まれ、頬へは到達できなかったと気付いたのは、まんまと唇を奪われてからだった。
「な……」
「こういうことなんだけどな♦ お子様のキミにはまだわからないかな? お嬢さん♣」
ヒソカは楽しそうに首を傾げる。コーヒーの芳しい香り、その間隙に、仄かに血のにおいがした。
(150805)