シブヤディビジョンの誘拐(1)
「ナマエが一文無しになっちまったのは、俺のせいなんだからよおっ!!」
ハハハ、いやいや、いくらなんでもそれは嘘だろ、と思うよりも早く、這いつくばったままの帝統は「あれは1年前……」と泣きながら滔々と語り始めた。
……はずだった。しかし帝統の語りはすぐに中断した。何故なら、突然窓ガラスが割れ、3人の目出し帽を被った男が押し入ってきたのだ。「な、なに、」「静かにしろ!」男たちは、金属バットをめちゃくちゃに振り回し、そこら中の物という物を叩き割る。帝統が何か、多分武器を取ろうとしたが、気付いた男が帝統の手をも容赦なく殴った。聞いたこともないような音、恐らく骨の砕ける音がして、帝統はうずくまった。幻太郎さんも恐らく応戦しようとし、しかし男の一人が「聞け!」と声を張り上げたため全員が動きを止めてそちらを見た。
「こいつは連れていく」
リーダーらしき男が、乱数くんを紐で縛り上げ、小刀のようなものを突きつけながら言った。金属バットを振り回していたのは下っ端2人だけで、私たちがそちらに気を取られている間に、リーダーが乱数くんを捕縛していたようだ。下っ端のうち一人が、威嚇するようにバットで棚を打ち、もう一人の下っ端の男が「今から言うことを聞け」と言った。
「有栖川帝統、友達の命が惜しければ、5000万円、現金で、今から言う住所まで持ってこい。二日待つ」
そして男は早口で、「ハツダイ1-23-4、ABXビルの四階にある裏カジノだ」とディビジョン内の住所を読み上げた。言い終わるが早いか、男達は乱数くんを連れたまま、割れた窓から事務所を出て行った。私たちは動くに動けず、人質に取られた乱数くんをただ茫然と見送ることしかできなかった。
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「いやぁ。俺のせいですまねぇな。つか、こんなに壊すことねーのによ」
「まったく、帝統あなた、またですかぁ?」
あんなことがあった後なのに、二人はかなりあっけらかんとして言った。腰を抜かしていまだに立ち上がれないのはどうやら私だけらしい。またですかぁって言う幻太郎さんも、頭をポリポリ掻いてる帝統も、場慣れしすぎだろ。
「ど、どうするんですか……? えっと警察……」
「いや……多分これ、俺の違法賭博関係だから、警察はマズいな……。とりあえず幻太郎スマン! 金貸してくれ! あいつらに払ってその後いつか返す!」
「……流石に現金で5000万はすぐに出ませんよ。それに帝統、あなた手を怪我したでしょう」
「はあ?! な、なんだよ?! け、怪我なんか、し、してねーよ」
と言いつつ、帝統はサッと右手を後ろに隠した。流石に嘘が下手すぎるだろう。幻太郎さんがたしなめるように睨み付けると、子どもみたいにしゅんとして素直に右手を出した。かなり赤く腫れている。
「とりあえず、帝統は病院に行ってください。さっきの殴られ方を見ると、恐らく骨折してるんじゃないですか? 放置していたら、色んなことに支障が出ます」
「で、でもよ、乱数が……」
「まったく、乱数は小生がなんとかしますから、あなたは治療を終えたら合流してください」
「……スマン。頼んだ」
帝統は涙目を左手でぐしゃぐしゃっと拭い、すぐに病院に向かう、かと思ったが立ち止まり、「げ、幻太郎。病院代」と顔を赤くして言った。壊滅状態の事務所内に、幻太郎さんのクソでかい溜め息が響き渡った。
(210522)