大人の階段 06

 なんで、勝手に抱きしめてるの。なんで、私がここに居るって分かったの。
 なんで、いつも――


「善逸ぅ…」
「ハルちゃんの悲しい音が聞こえてきたから、俺部屋着のまま飛び出して来ちゃった。ねぇ…なんでそんな泣くんだよ。泣かないでよ」
「うぅっ…」
「ハルちゃんが笑っててくれないなら俺、応援できないよ実弥のこと。だってだって、ハルちゃんのこと悲しませてばっかだし!ねぇハルちゃん、俺冗談じゃないからね、ハルちゃんのこと!」


 少し体を話した善逸。私を見つめる目が今までにないくらい真剣で、自分がどれだけ善逸に酷いことを言って、どれだけ善逸に救われてたのかを痛感した。
 昔から私を好きだと言ってくれてた。でもいつもあんなノリだから、私もちゃんと答えてなかった。
 無意識に、逃げていたのかもしれない。
 いつも私が悲しんでると、たんぽぽを届けてくれた善逸。私はいつもそれを見ると、自然と温かい気持ちになれた。いつか善逸が、真剣に想いを伝えてきたらと思ったら怖かった。
 だって、私が好きなのは実弥お兄ちゃんだから。善逸の想いを断ってしまったら、もう、私は善逸からたんぽぽを貰えなくなるんじゃないかって。
 ごめんね、善逸。勝手なこと、してるよね私。


「…ハルちゃん」
「……」
「俺と結婚したら、毎日うなぎと寿司食べさせてあげる! 安定した職にもつくし、毎日好きだって伝えるし、死ぬまでずっと…ずっと…」


 私の嗚咽に、善逸の言葉が遮られる。
 善逸と一緒にいたら、毎日楽しいのかもしれない。こんなに気持ちを表してくれる人はきっと善逸だけだと思う。でも、ずっと脳裏にいるのは、一人だけ。たとえ彼の想いが私に向いていなくても、こんなに悲しくて苦しくても、心の中から消えてくれないんだよ。


「善逸、ごめっ…」
「…毎日、うなぎと寿司じゃ…ハルちゃん太っちゃうよね。そうだよね。やっぱナシ! ナシナシナシ! だから…そんな困った顔しないでよ。俺、ハルちゃんが悲しんでるのは好きじゃないけど、ハルちゃんが幸せじゃない方がもっと嫌だよ。ハルちゃんを幸せに出来るのは俺じゃなくて…不死川実弥なんでしょ!」
「……っ」
「何があったの? いつもみたいに言ってよ。いつもみたいに愚痴ってよ俺に。俺はいつだってハルちゃんの味方だから! 何があってもハルちゃんの味方だよ!」


 善逸はいつだって温かい。その温かさにいつも私の心は解されていた。だから自然と、私の口からはさっき見た光景がポロポロと紡がれていく。


 実弥お兄ちゃんは、バイト仲間であろう女の人と目を見合わせて喋っていた。
 凄く綺麗で、大人らしくて、蝶飾りが似合う人と。開いていた扉から聞こえた声は、透き通るような声だった。

――…意外よね不死川くんって。乱暴に見えて、バイクの運転はすごく慎重だし…――

 実弥お兄ちゃんの顔は見えなかった。でも女の人は凄く幸せそうな笑顔で微笑んでいて、実弥お兄ちゃんの肩に優しく触れていた。それを払うことも無く、受け入れてた実弥お兄ちゃん。どんな顔して話してるかなんて想像できた。
 二人は、私が夢にまで見た恋人のようだったから。

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