大人の階段 07

 何もする気が起きなかった。幸い、土日は学校がなくて普段から外に出ることもなかったから部屋で過ごしていた。
 いつも土曜日は実弥お兄ちゃんの情報を聞くために玄弥の家に遊びに行くことが多かったけど、それも断った。
 そんな気になれなかった。もし実弥お兄ちゃんと鉢合わせたら、絶対に泣いてしまうから。私が泣いたところで、困らせてしまうだけだから。





 月曜日。泣き腫らした目元の腫れが引かなくて、私はお腹が痛いと嘘をついて学校を休んだ。
 玄弥も善逸も心配してくれた。
 善逸は、自分だってツラいはずなのに、私にまたたんぽぽを届けに来てくれた。


「ハルちゃん、誕生日おめでとう」
「ありがとう善逸…」
「今度、買い物行こう! タピオカ飲もう! ケーキも食べよう! ね、ハルちゃん!」


 そうだね、と言って少し笑うと、善逸が嬉しそうに笑って学校へ向かった。私の分まで授業聞いてくると張り切って。
 呆気ない16歳の誕生日だ。自分にとって、凄く特別で待ちわびていた日だったというのに、ベッドに座って窓の外を眺めながら、無駄な時間を過ごしている。
 実弥お兄ちゃんは、講義かな。それとも、あの人と…―――
 もう出ないと思っていた涙はまた私の視界を奪っていく。


「…バカ。実弥お兄ちゃんのバカ。もう、キライ…」


 小さな独り言を吐き出して、顔を埋める。キライ…になれたら、どんなに楽なんだろう。
 ガチャ。突然開いた扉の音と共に、「…ズルしてんじゃねェぞ」という少し低めの声が入ってきた。
 咄嗟に顔を上げると、そこに立っていたのは―――紛れもない、実弥お兄ちゃんだった。
 なんで、どうして。
 言葉が出てこなくて、私はただ実弥お兄ちゃんの顔を見ることしかできない。実弥お兄ちゃんも何も言わず、ジッと私を見て立っているだけ。
 重たい沈黙を破りたくて、「…ズルじゃない」という私の咄嗟の言い訳が空を切った。


「実弥お兄ちゃんには関係ないでしょ!」
「…あァ?」
「実弥お兄ちゃんなんか…っ、」
「行くぞ」
「へ?」
「10分で着替えろよォ。それ以上は待たねェぞ」


 それだけ言うと、バタンと扉を閉めた実弥お兄ちゃん。
 どういう事?
 この状況についていけなくて、でも体は勝手に動いて部屋着を脱いでいた。どこに行くのかも分からないし、別に何も無いかもしれない。だけど、このまま離れるのは嫌だった。
 だって心がずっと叫んでる…―――実弥お兄ちゃんが好きだと。

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