その愛に触れたなら 03

 縁談は本人の意思に関係なく、次々と進められる。
 数日後には顔合わせの手筈となり、そうなればハルの嫁入りもすぐだった。
 二度と煉獄と顔を合わせずとも良いというのが、せめてもの救いだとハルは思っていた。
 顔を見てしまえば、封じ込めた想いが溢れてきそうだったから。
 縁談が進み笑顔が溢れる両親を側に見ていて、これは墓場まで持っていかなければならない想いだと、分かっていたから。
 これでいいんだ。これでいいんだ。
 何度もそう心で繰り返していた。







 任務を終えてすぐに鴉が柱合会議の招集を言い渡したため、煉獄はすぐに産屋敷邸へと向かった。
 まだ誰も来ていないと思っていた煉獄だが、木の側で寄り掛かりながら目を閉じていた音柱である宇髄天元が、煉獄の存在に気づくや否や近づいてきた。
 柱達の中でも一際世間話が好きな宇髄だが、中でも色恋に敏感で、普段なら挨拶から始まる会話も、顔をニヤつかせて煉獄の肩をポンと叩く。


「よぉ煉獄! 任務帰りのくせになんかいい事あったのかぁ? 顔が派手に緩くなってんぞ」
「ない! 強いて言えば、この後好物のさつまいもの味噌汁を食しに行こうと思っていたところだ!」
「はァ? それだけかよ…つまんねぇな!」
「彼女の作るものが一番美味いからな! ぜひ宇髄も食べてみるといい!」
「いや、俺はそんな地味な食いもんいらねぇ! つーか、彼女ってなんだぁ?」


 宇髄の読みに間違いがあったことはない。
 だからこそ、普段なら煉獄から出てこない言葉を敏感に引き出し、煉獄の話を巧みに引き出していく。
 そんな魂胆にも気づかない煉獄は、自分の思った事を何も隠すことなく話した。
 元々、煉獄は何かを隠したりすることができる性分ではない。
 最初は愉しそうに話を聞いていた宇髄だが、ふと顔をしかめて考え込む。
 煉獄が良く泊まるというその家紋の家に、つい先日自身が立ち寄った場所だと気づいたのだ。


「そこの娘の作る味噌汁が美味い! しかも、」
「ちょ! ちょっと待て煉獄! 待て待て! 確か、そこの娘は近く縁談があって嫁入りすると旦那が言ってたぞ」
「…縁談?」
「間違いねぇ! 何となく本人は気乗りしてねぇ感じだったがな」
「……」
「煉獄? おい、聞いてるか? おーい!」


 大きな目を見開いたまま、何も言わなくなった煉獄の顔を覗き込んだ宇髄だったが、予想外の煉獄の表情にまたニヤリと口許を緩めた。
 いつも表情を変えない煉獄が、眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべていた。
 嫁が三人いる宇髄には、分かってしまったのだ。
 それがどういう意味を成すかと言うことを。


「嫁にいっちまったら、もう二度と! 二度と食えねぇな、その味噌汁! それに愛らしい娘だったよな! ただ幸せそうじゃなかったのがなぁ……」


 わざとらしい宇髄の言葉も、聞こえているのかどうか分からないが、煉獄が最後の言葉にピクリと眉を動かした。


「ハルは、幸せそうではなかったのか?」
「自分で確かめて来いよ」
「…うむ」
「煉獄、自分の気持ちに真っ直ぐになれ! お前らしくねぇぞ! 派手に行ってこい、派手になぁ!」


 その後開かれた柱合会議の後、煉獄はその足でハルの家に向かった。
 行ってどうするという気持ちがなかったわけではないが、煉獄は自分に嘘をつく事ができなかった。
 もう彼女に会えないかもしれないと思ったら、気づいたらその足は駆けていた。
 ずっと稽古に鍛錬にと過ごして来た煉獄にとって初めての感覚だったが、この暖かな気持ちが示すものは分かっていた。
 亡くなった母上や尊敬する父上、それに千寿郎という幼い弟に抱くそれに似ている、と。
 ただそれとはまた別物の熱さを持っているものだということも分かっていた。

 沈みかけた夕日が紅く道を照らして、走る煉獄の羽織も髪の毛も、いつも以上に燃えているようだった。

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