大人の階段 10

 海を後にして入ったホテルの一室。
 緊張と急な展開で頭がついていかない私を、実弥お兄ちゃんは分かっていたかのように優しく抱きしめて、緊張を解すためか、饒舌になって色々と話してくれた。
 ベッドで横になってるだけでもドキドキは止まらない。だけど、伝わる鼓動と低音の声が心地よくて、この非現実的な状況を嬉しく思う。


「覚えてねェのか? ハルがずっと言ってたんだぞ…初めてのデートは映画館行って、夕日の沈む海を二人で見るってェ。まぁ夕日じゃなかったけどなァ」
「そう、だっけ?」
「はァ、マジかよ」
「実弥お兄ちゃんこそ…昔の約束、覚えてないよね?」


 腕の中から顔を上げると、至近距離で目が合った。
 忘れてねェよ、という言葉と共に、今日で何度目か分からない口付けが落ちてくる。
 何度しても慣れることなんてない。唇が触れる感覚も、少しずつ長くなっていく口付けも、私の頭を痺れさせていく。
 息をしようと少し口を開くと、今まで感じたこと無かった感触のものが唇に触れて、それが私の口内に入ってきた。
 大人のキス。知識はあっても、いざとなったら反応できない。私の口の中で動く実弥お兄ちゃんの舌に、自分のを絡めると、音を立てて吸われた。
 ギュッと実弥お兄ちゃんの胸元を掴む。体中の熱が下半身に集中して疼いて、なんとも言えない感覚になった。


「はぁ…んっ、」
「気持ちいか? このキス」
「う、ん」
「はぁ…やべぇな、これ」


 熱い息を吐いた実弥お兄ちゃんは、私をまた強く抱きしめた。


「約束は覚えてる。だがなァ…ハルが高校卒業して、俺がハルを養えるようになってから、今度は俺から言おうと思ってた。中途半端にしたくねェ。だけど、不安にもさせたくねェから先に言っとくぞォ」
「実弥お兄ちゃん…」
「待てるか? それまで」
「お兄ちゃん、私…何年待ったと思ってるの? あと二年でしょ! 花嫁修業しておくから」
「あぁ」
「たくさんデートしようね! たくさん、」


 たくさんキスして、たくさんハルを抱かせてくれェ。
 実弥お兄ちゃんの声が、私の鼓膜を揺らし痺れさせていく。私を抱きしめながら組み敷くと、実弥お兄ちゃんは着ていた服を素早く脱ぎ捨てた。
 ゴツゴツした体に割れた腹筋。ガタイがいいのは服の上からでも分かっていたけど、初めて見る男の人の裸が実弥お兄ちゃんだなんて、私はきっと、この先他の人のものを見てもなんとも思わないだろう。
 生涯、実弥お兄ちゃんだけだけど。
 実弥お兄ちゃんの体に手を伸ばして指先で腹筋を触ると、ピクっと反応して目を見開く。それからニヤリと口許を緩めた。


「誘ってんのかァ?」
「実弥お兄ちゃん…」
「お兄ちゃんはもう止めろォ…名前で呼べ」
「さ、ね…み?」
「もっと…」
「実弥」


 近づいて私の首元に顔を埋めると、舌を這わせていく。
 このまま実弥お兄ちゃんに抱かれるんだ。私の初めてを実弥お兄ちゃんに…―――
 何度も名前を呼んだ。何度も好きだと伝えた。私が伝えた分、実弥お兄ちゃんも同じように私に返してくれた。
 怖いという気持ちはゼロではない。でも、それ以上の温もりと幸せを、実弥お兄ちゃんが私に与えてくれたから、私は実弥お兄ちゃんを受け入れることができたんだ。


「ハルっ…」
「あ、あ、ん…実弥っ……好きぃ…」
「煽んじゃ、ねェ……っく」


 痛みと気持ちよさで、意識が飛びそうになったけど、私を呼ぶ、甘く掠れた声に何度も引き戻された。
 汗ばんだ体で私を抱きしめ、私の中で果てた実弥お兄ちゃんは、「誕生日おめでとう」と小さく耳元で最高のプレゼントをくれたんだ。

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