キセキ 04

「プロポーズ、なの? 私たちまだ付き合ってもないのに」
「え?! あ、いやそうなんだけど…それくらいの気持ちだっていうのを伝えたくて。いやでもさすがに結婚はないか! アハハ…なんか気持ち高ぶっちゃって……ごめん、引いたよ、ね?」


 言葉を吐き出す度に小さくなっていく善逸の声に、ハルは首を横に振ると、差し出されたブーケを手に取り、そのままふわりと善逸を抱きしめた。
 ピキっと善逸の体が固まったけどそれもお構いなしで、善逸の肩に顔を埋めると、「ありがとう」とハルが答えた。


「嬉しいよ、善逸くん。その気持ちが嬉しいの」
「ほほ、ほんと?」


 ほんと、と囁く代わりに善逸の体を抱きしめた。強くなっていく抱擁に気絶するんじゃないかと思った善逸だけど、ギリギリの意識を保ったまま、そっとハルの背中に腕を回す。
 初めて触る、女の子の体だった。
 ハルに受け入れて貰えたことが嬉しくて、その後にハルが色々と話をしていた言葉は彼の耳には届いていなかった。幸せすぎて魂が口から飛び出そうだと思ったほどだ。
 この日を境に、晴れて二人は恋人同士になった。





 数日後、ハルの部屋に誘われた善逸は、地に足が着いていないんじゃないかってくらいにフワフワしながら初めての女の子の部屋に入った。
 部屋にはまだ、自分が渡した花が綺麗に飾られていて、善逸の顔は当たり前に緩む。テストも近いからと勉強をすることになった二人だけど、敢えて今日、ハルの部屋で行われることになった理由を善逸は知らない。
 ジュースとお菓子を食べて、さて勉強というタイミングで、ハルが少し善逸との距離を詰めた。
 善逸は昔から耳がいい。
 音の変化で感情を読み取ることが得意ではあったが、それは自分が平静な状態であればの話だった。
 だから今も、ハルから聞こえるいつもより大きな心音と甘い音に善逸は内心ドキドキしていて、それによって善逸自身に訪れた変化に、もう周りの音どころか自分の心音で爆発しそうだった。
 ハルの手が善逸に触れた時、音どころか何も考えられなくなってしまった。


「…今日ね、帰り遅いのうちの親」


 え、という善逸の声は、ほぼ聞こえなかった。
 どういう意味なの?! え、これって誘われてるの? まだ俺たち付き合って何日よ! いいの? こんな展開! ていうかハルちゃん積極的ー! いやっほーい! いや、何浮かれてんだよ! しっかりしろ我妻善逸!
 脳内を一気に駆け巡った言葉達はどれも発されることはなく、善逸の目がキョロキョロと動くだけ。そんな善逸を、ハルは可愛いと思っていた。
 もっともっと可愛い善逸を見たいと――


「キス、しよっか」


 答えなんて最初から待っていなかった。ハルは薄目で顔を近づけると、固まったままの善逸の唇に自分のそれを重ねた。

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