護るべきもの 弐
「テメェふざけた事してんじゃァねぇぞォォ!許さねェ!覚悟しろォ塵糞野郎!!」
「塵糞だなんて心外だなぁ! もしかして柱? 今の間合いでオレ様のこと斬りつけたみたいだけど、残念…もう治っちゃった」
「チッ…十二鬼月だったみてぇだなぁ! でも弱ェから捨てられたかァァ! ざまァみやがれ!」
「ハァ? ちょっと君黙っててくれる?」
鬼の瞳には数字が書かれていたが、それが横一文字に切られていた。
駆けつけた実弥は鬼に刀を向け対峙しながら、背後にあるハルへと意識を向けていた。実弥の挑発により怒りを顕にした鬼が、腕の形を変えてそれを二人に向け攻撃してくる。動けないハルを抱えた実弥は、素早い動きでその場から離れ、家屋の陰に一旦身を潜めた。
怯えるハルを物陰に置くと、その手を頬に当てハルの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「ハル、大丈夫だァ! もう大丈夫だから、此処で待ってろォ」
「実弥さんっ、実弥さん……」
「いいって言うまで隠れてろォ! いいなァ?」
「いや、行かないでっ!」
実弥の羽織を掴み、懇願するハル。だが実弥はここに留まるわけには行かなかった。今は違うとはいえ、十二鬼月だった実力がある鬼を相手に、誰かを守りながら戦うのは至難だった。
恐怖と痛みで震えるハルを抱き締める。
「俺がお前を護る、必ずだァ」
実弥はハルの顎に手を添えると、震えている唇に自分のそれを押し重ねた。一瞬で離れた温もりだったが、二人にとっては想いを伝え合うのには十分な長さだったかもしれない。
待ってろォ、と言葉を残すと、実弥はその場を離れ、鬼に斬りかかる。ハルはその姿を目を逸らすことなく追っていた。
異変が起きたのは、その直後だった。
互角、いやむしろ実弥が押して戦っていた矢先、実弥の体の動きが鈍くなり、体がふらついた。そんな実弥を見て、鬼は薄気味悪く高笑いを繰り返し、離れたところに立っている。
霞がかった周りに目を凝らすと、物陰にいるはずのハルがすぐ側で蹲っていたのだ。思わず駆け寄り背中に手を回す。
「ハル! しっかりしろォ、大丈夫か!」
実弥の問いかけに、ハルの啜り泣く声だけが聞こえる。暫くして違和感を覚えた実弥だったが、それと同時、「実弥さんっっ!!!」というハルの声が別のところから聞こえてきた。
実弥が顔を上げてからの事は、まるで流れる時間が狂ったかのように遅く感じられた。手を伸ばし実弥に駆け寄るハルの姿と、その背後で不気味に笑う鬼が大きく腕を振り下ろす姿が重なった。
「ハルーーーっっ!!!」
実弥の顔と体に、雨のように血が降り注ぐ。目の前で倒れるハルに、実弥は断末魔のような叫び声を上げた。