明日も変わらず愛を誓おう
お互い休みの日は、ゆっくり起きる。いつも忙しそうな建人は寝てる時も眉間の皺が寄っていて本当に熟睡できてるのかな?と心配になるけど、こういう日はちゃんと布団で普段からは想像できないようなあどけない寝顔で布団に丸くなっている。時計の針が十二時を指してるから流石に起きようと思い体を起こすと、少しだけ意識が浮上したのかシーツの上に手を滑らせて何かを探す動作をするのでその手に触れるとそのまま引き寄せられて抱きしめられる。
「おはよ、建人。」
普段はしっかりとセットされてる髪の毛は、重力に逆らうことないまま落ちていてサラサラした髪の毛が白いシーツによく映える。髪の毛をゆっくり頭から首元まで撫でると、首筋に擦り寄ってくる。まるで大きなワンちゃんみたいで可愛い。目元を隠す前髪をどけて額に口付けて、起きるべく身じろぎすると意外とすんなり力を緩めてくれるのでそのままベットを離れた。
「…おはようございます。」
「おそようさま。朝ご飯、ていうよりもうお昼ご飯だね。チャーハンだけど平気?」
「昨日食べてないので、寧ろ有難いです。」
とりあえず洗濯物を回してご飯を作るべくキッチンに立っていると、少ししてのそりと起き上がってきた。いつもスーツを着こなしてバシバシとスムーズにこなしている彼は、ゆるっとしたスエットで何処かまだ夢の中にいるようにとろりとした微睡んだ目をしているからギャップしかない。そんな姿を知ってるのは私だけだと思うと、胸が幸せで溢れてきそう。
彼が明日も頑張れるようにチャーハンをお皿に大盛りにして見せたら乗せすぎだと苦笑いされた。それでも、彼は意外と食べるのでいつもコメ一粒残さずに平らげてくれる。美味しそうに食べるから、見てるだけでも幸せだ。食器を洗って、洗濯を二人で干して一緒にソファにもたれながらテレビを見る。ただ私が録画してた番組を消費するのを建人が付き合ってくれてる。彼にとっての有限な時間をここに割り振ってくれてると思うとくすぐったい気持ちになる。
「ね、建人。デート行こっか?」
「別にいいですが、急に珍しいですね」
「醤油が欲しいんだー」
建人の膝に頭を置いて見上げると、頭を撫でてくれる。笑って見せると意図がわかったようで、額をデコピンされた。唇を尖らせるとそのままキスしてくるからその動作が童話の王子様みたいにスマートで、結局何も言えないまま終わってしまう。そうと決まれば体を起こして近所のスーパーに行くために髪をクシでとかして準備する。二人の共同の財布と鍵をポケットに押し込んで、靴下を履くのが面倒だからサンダルに足を通して玄関先で建人を待つ。まるで犬みたい、なんて思った。
「貴方、そんな格好でいくんですか?」
「部屋着じゃだめ?」
「そうじゃなくて、短すぎだ」
流石にスエットで外に出るのは彼のポリシーに反するのか、ポロシャツとパンツに履き替えてきた建人が私の曝け出された足を見て嫌そうな顔をする。彼の口調が崩れる時も、とても好き。でも、もうサンダルを履いたから着替える気なんてさらさらないから立ち上がって玄関を開けた。
「建人がボディーガードしてくれるから平気でしょ?」
「そういう問題じゃないです」
笑って早くと急かすように手を差し出すと、こうなると私が折れないのを知ってるので諦めたのか溜息を吐き出しながら私の手を握ってくれる。他の視線なんか、威嚇する猫みたいな建人が横にいれば何にも問題はない。彼のそんな反応が可愛くて、ついつい甘えてしまうのだ。
「今日の夕飯、何食べたい?」
「貴方が作るもんなら、なんでも嬉しいです」
「嬉しいけど、その答えは一番困るのよね」
ちょうど二時過ぎてくれば日差しがピークでやっぱり暑い。もう少し日が暮れて外に出ればよかったなんて思うけど、多分行きたいと思った気持ちは抑えられなかったから仕方ない。暑くても手を離さないでいてくれる建人とスーパーへの道のりを歩いてると、ふと反対車線の人が普段より多くて、笛の音が聞こえてくる。
「お祭り、かな」
「あぁ、そういえば五条さんが言ってましたね」
ガヤガヤと人混みが楽しそうに笑っている。浴衣を着ている男女や、お母さんに手を引かれて綿菓子を食べてる子供だったり沢山の人がいてすごく楽しそうで、建人を振り返るといいタイミングで顔を逸らされた。
「ねね、ちょっとだけ行ってみようよ!」
予想してた通りになったと心底嫌そうな顔をしてる建人の手を催促するように引く。人混みが嫌なのは知ってるけど、あんなに楽しそうなのを素通りして家になんて帰れない。
「…少ししたら、帰りますからね」
「ラジャー!」
結局、建人が押し負けて深い深い溜息を吐いて足を進めてくれた。それに反して私はルンルンの浮き足だ。人混みに混ざれば、声や熱が増えてじとりと汗が出る。ソースのいい匂いが広がっていて、思わず屋台で足を止めてたこ焼きを注文した。
「そんなに食べると、夕飯食べれなくなりますよ」
「まだオヤツの時間だよ」
「おやつの割にはボリュームがありますね」
アツアツに湯気が出てるたこ焼きを頬張ると、意外と熱くて涙が出た。それを見て建人が笑うから、一つ爪楊枝で刺して差し出すと二の前にならないように沢山息を吹きかけてから食べた。でも、結局熱かったみたいでハフハフとしてるから、二人して笑う。
「あれ、ナナミンじゃん!」
ふと、大きな声で誰かを呼ぶ声がして振り返ると、ピンクベージュの髪色の男の子が立っていた。それの後ろには黒のツンツン頭の男の子と、茶髪のボブの綺麗めな女の子もいる。黒髪の男の子は建人から隣にいる私に視線を移すと何かを察したようにおい。と元気な少年の肩を掴んでいた。みんな同じ真っ黒の服を着ているし、チッと舌打ちが聞こえて隣を見上げれば頭を抱えるようにこめかみを抑えているのでピンときた。
「もしかして、例のイタドリ、くん?」
「…えぇ。」
「ふふっ、ナナミンだって」
建人から、時々だけお仕事の話を聞くことはある。内容っていうより、周りの人々のお話。まさか学生達にそんなあだ名で呼ばれているなんて知らないから、その可愛い名前で呼べば苦虫を噛み潰したような顔をされる。多分高校生の彼らは、どこかまだ幼さを残してて可愛らしい。3人は何やら背を向けて作戦会議をしているようで、暫くすると意を決したのか頷きあってからこちらを見てくる。
「七海さん、こんにちは」
「こんにちは。皆さん任務帰りですか?」
「はい、帰りに少し寄り道を…」
「お祭りにテンションあがっちゃってさー!ナナミンは任務?」
「いや、普通に今日は休みです。」
ツンツン頭の彼はきちんと挨拶をして受け答えをしてくれる。なんだか仕事モードの建人を見るのは新鮮で見てにやにやしてしまうと、こっちを睨まれた。さっきのイタドリくん、は元気に手元の荷物を見せてくれる。焼きそばにイカ焼き、箸巻きまで沢山ある。流石、若いって素晴らしい。三人とはいえど、今の私たちの胃袋はきっとそんなに受け付けてくれない。ふとイタドリくんとパチリと目があった。
「こんにちは。」
「ちわっス!」
キラキラと無邪気に笑う顔はなんだかが眩しくて目を細めた。若い子に接するとしても、私みたいにただの社会人だと新入社員くらいだ。少年少女の可愛らしさに頬を緩めて建人を肘で小突くと、早く帰りたいと言わんばかりのオーラを出してきて無視された。
「ナナミン、この人もしかして…!」
「おい、虎杖…!」
イタドリくんが興味津々な様子で問いかけてきて女の子も楽しそうに一緒に乗り出してくる。ツンツンくんだけ焦ったようにしていて、本当に仲良いなぁと思う。その問いかけにしまった。と思った。きっと彼が仕事にプライベートを持ち込むのは嫌いなタイプ、だと思う。どう切り抜くのかと建人をチラリと見上げると、眉間に深く皺を刻んでるかと思ったけど意外とケロリとした顔してる。
「私の奥さんです。」
意外な言葉に、思わずキョトンとしてしまった。女の子は黄色い声をあげてテンションが上がってイタドリくんの肩をバシバシと叩いている。いて、ちょ、いて!と言いながら全てイタドリくんは受け止めて体はびくともしてなかった。
「もう日が暮れますよ。そろそろ高専に戻って報告書を仕上げたほうがいい。五条さんみたいにチャランポランになりたくないなら、ね。」
「はーい!じゃ、奥さんもさようならー!」
建人が腕を組んでそういえば、彼らもお目当てのものは全て買えたようなので大きく手を振って去っていく。その背を見送りながら手を振ってると、あっという間にお祭りの中に消えていった。嵐のような出来事に、なんだか長い時間お話ししてた気がする。
「いきますよ」
手を引かれて、人混みをかき分ける。もう彼にとってお祭りの時間は終わったようだった。さっきの建人の言葉を脳内にリピートさせると、じわじわと頬に熱が集まってきてしまってにやける口元が止められない。
「奥さん、だってさ」
「間違ってますか?」
「ううん、正解です」
最初の目的のスーパーに向かいながら、嬉しくて呟くと相変わらずのさらりと余裕の態度で返される。本当に建人は、私を喜ばせるのが上手だ。いつもドキドキさせてくれるし、ずっと変わらない好きをくれる。
「建人、これからもよろしくね」
「…こちらの台詞です。」
握った手越しに指にはめている指輪のちょっとだけ冷たい感覚を味わいながら言葉を呟くと短く返事してくれる。でもそれが照れ隠しなのも、私も知ってる。今日はうんと美味しいご飯を作ってあげよう。そして晩酌でもしながら、しあわせな夢を一緒に見よう。
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