パウリー



『ひまわりを君に』

「ふぅ……今日も暑いな…」
外で作業をしているとまだ朝早いのにジリジリと日差しが照り付けてきて、これが作業時間が長いと最早痛く感じるようになってきた。遠くではカモメが高く飛んで気持ち良さそうに鳴き声を漏らしていた。昔からインドアの自分には参ってしまう季節で、そそくさと日差しに弱い鉢植えを店内に運び込んだ。
外は暑いが今日もいい天気で、太陽の光が店のガラス窓を透かして花々を煌めかせている。室内にいれば、やっぱり曇りより晴れの方がお花達が気持ち良さそうだから私も嬉しい。クーラーの風を浴びながらそんな事を考えていれば、ドアベルが軽やかに鳴ってほんのり潮風の香りも一緒にやってきた。
「いらっしゃいませ!」
「あ、あの……!」
入ってきて早々大きな声を放つその男性は、見知った姿だった。
「花束を、作っちゃくれねェか…!?」
ガレーラカンパニーの1番ドックの職長であるパウリーさんは、顔を真っ赤に染めて拳を強く握り締めながらそう叫んだ。
「かしこまりました!贈り物でよろしいですか?」
あまりの勢いに唖然としていたが、彼の真っ赤な顔がこのままでは爆発しちゃうんじゃないかとハッとして慌てて営業モードに切り替えた。パウリーさんは無言でコクコクと頷くので、贈り物で間違いなさそうだ。贈り物で花束、となると色々あるけれど…
「…ちなみに、どんな方にお渡しするか聞いても?」
「ハァ!?」
私が問い掛ければ、パウリーさんはまた大きな声で驚愕の声を上げた。自分もお淑やかな方ではないが、小さなこの店で大声を上げる人はあまりいないから耳が痛くなってきそうだ。といっても彼はお客様な訳だし……それに、パウリーさんがちょっとした事でハレンチ!と騒いでいるのは街中でよく見かけるからこの島のみんなが知っている。そんな彼が顔をこんなに真っ赤にして花束を頼みにくるなんて、きっとそういう事、なんだとは思う…!
「すみません!お話ししたくなければいいんですが…!……その方がどんな方なのかとか、関係性とか、どんな気持ちをお伝えしたいかで花を選んで作っていくと、想いが伝わるものがより出来ると思ってまして…」
そうなれば花屋として全力で最高なものを作りたい。パウリーさんが恥ずかしがり屋さんな事は百も承知だがイメージに沿うものを作りたくてどうにか聞き出せないかオドオドとしていると、パウリーさんはグッと息を飲むと俯いてしまった。
「…元気で、時々危なっかしいから目が離せねェヤツ…だな。……伝えてェのは、なんか遠回りしてぐだぐだしちまったけど、今日、だなァ…!」
彼は頭を掻きながら、顔を赤く染めてボソボソと言葉を紡ぐ。手持ったロープをくるくると職人らしい手で弄りながら落ち着かない様子で視線を泳がせて、最後は羞恥で耐えられなくなったのかグゥゥと唸って押し黙ってしまった。
「わかりました、お任せください!!」
でもここまで聞ければ満足だった。別に百まで全て聞きたい訳じゃない。それだと逆に固定概念に囚われて、面白みのないものになってしまう。ここからは私の腕の見せ所で、ニッと笑って気合を入れて腕捲りした。

「出来ました!!…いかがですか…?」
私が花が並んだ棚でウンウン唸ったり、パタパタと棚と作業台を行き来しているのをパウリーさんは木の丸椅子に座って静かに眺めていた。キュッとリボンを結べば私渾身の花束が完成して、大満足で顔を上げたがあまりにもパウリーさんが真っ直ぐ真剣な顔で作業台の花束を見ているものだから最後語尾が消えていきそうになってしまった。
「…なんつーか、可愛い…と思う。」
さっきまでの大声が嘘みたいに、パウリーさんはしみじみと一言を噛み締めるように呟く。花を映す彼の瞳も柔らかく、声も普段よりちょっと優しく感じてホッと肩の力が抜けた。
「お話に聞いた女性もだし、パウリーさんも元気でフレッシュなイメージなので、向日葵を主軸に考えました!向日葵の花言葉は、あなたは素晴らしい、あなただけを見つめる…って意味もあるんです!」
「おぉ…!」
喜んでいただければ後は花大好きな私は意気揚々と調子に乗ってしまい、花束のメインになっている向日葵を指差していつもの花言葉知識を披露する。ラッピングには色味が喧嘩しないように透け感のある白のペーパーを選び、向日葵の間には白いカスミソウや青いブルースターを添えた。どことなくパウリーさんの作業服の色合いのインスピレーションにお借りして、明るさと爽やかさがある花束は夏の潮風を連想させる印象になった。夏の陽を浴びて大きく育った向日葵の花びらは、まるで笑っているみたいだ。パウリーさんは花束を見下ろして感心したように声を漏らしていて、心がうずうずしてくる。
「この青い小さなお花はブルースターで、花言葉は幸福な愛です!あと、向日葵は本数でも意味が変わってきて……本当は11本だと最愛って意味があるんですが、最初の告白なら3本で愛の告白の方がいいかなと思いまして!」
その反応が嬉しくてついついルンルンでそういうと、折角いつも通りだったパウリーさんの頬がボッと赤くなってしまった。
「すみません、ついテンション上がりすぎちゃって…!」
「い、いや!助かる!それで頼む!!」
お互いがワタワタと手振り身振りしてしまい、顔を見合わせて笑ってしまった。パウリーさんとお話しするのは初めてだけど、普段はハレンチ!って怒鳴ってたり職人らしく凛々しい顔をしている所しか見た事なかったからこんなフランクな人だって知らなかった。暑い暑いと嘆いていたけど、今日は良い日なのかもしれない。
「…アイスバーグさんに此処の花屋を勧められたんだ。きっといいモン作ってくれるぞって。」
お会計をしているときに、パウリーさんがボソリと呟いたので驚いてベリーを落としてしまった。慌ててレジから新しいベリーを取り出してパウリーさんに手渡す。そうか、アイスバーグさんが……花屋として認めて、そして大切な仲間に勧めてもらえたのが嬉しくて胸が熱くなってきて、ちょっと猫背気味だった背中をしゃんと伸ばした。
「ただ、花がすっごく好きなんです!…それでつい時々熱量が高くなっちゃいますけど…!パウリーさん、今日は頑張ってください!」
大好きな気持ちを込めて花束を差し出すと、パウリーさんは花束に負けないくらいの笑顔を浮かべて受け取った。
「助かったぜ。此処に来て良かった。ありがとな!」
その声色で、この花束を渡す人への想いが漏れてこちらにも伝わってくるようだった。彼が花束を大事そうに抱えて店を出るのを見送って、その姿が見えなくなると一人小さくガッツポーズした。
「あー……花屋やってよかったー!」
今日はとてつもなく良い日だ。花束を選んだ私の方が幸せな気持ちにさせてもらった。ふと、作業台の下に黄色い花びらが一つ落ちていて拾い上げた。血は通ってないのに花びらは少し温かい気がして、まるで彼の想いが残っているみたいだった。



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