AM1:00のランデブー


今週は本当に色んな事があったので、いつも以上に一週間が長く感じた。週初めに起きたヒーローの熱愛報道事件に対して、職場のみんなは優しさなのか触れないでおいてくれて、金曜日になると気遣って奢るからと飲みに誘ってくれた。彼女たちには言ってないが、その夜に敵事件もあったのであの日は本当に踏んだり蹴ったりな日だった。

「ふぅー…」

みんなの有難いお誘いは申し訳ないがお断りして、私はいつものようにお風呂やご飯を終わらせソファに腰掛けてラジオを聴く準備をしている。ふと、ソファにあるうさぎのぬいぐるみを見て先日のひざしさん…プレゼントマイクが部屋に来たことを思い出した。


あの日、ひざしさんに抱き締められた。背の高い彼は座ってても私より大きくて、抱き締められるとすっぽりと包み込まれてしまった。触れ合う体温がとても暖かくて、首元に擦寄られると息遣いや髪の毛が擽ったくて思わず声が漏れた。どんどん自分の体が熱くなってきて、触れ合う場所から脈打つ鼓動が伝わってしまいそうで無駄に息を止めてみたりした。

「ひざ、しさん…?」

ドキドキで死んでしまいそうで、どうにか声を振り絞って名前を呼ぶと大きな背中が強張った。まるで何時間にも錯覚しそうな小さな沈黙の後に、勢いよく体が離れていってしまった。いきなり温もりがなくなったのが無性に寂しくて、名残惜しくなってしまう私は本当どんどん貪欲になってしまってる。

「…いきなり、ごめんな」

ひざしさんはほんのり赤く染まった頬をかきながら申し訳なさそうに笑った。その顔は初めて見るもので、もう私の頭は溶けてしまいそうだ。そうじゃない、私が欲しいのは、そんな言葉じゃないんだ。


「あああぁぁ…!」

何度思い出しても恥ずかしくて死んでしまいそうで、ぬいぐるみが苦しそうなくらい抱きしめて叫びながらソファに倒れ込んだ。結局、あの日は当たり前だけどひざしさんは帰ってしまって、あれから1日何通か連絡はとるが特にこの間のあの行動についてお互いに触れる事はなかった。ずっと恋い焦がれていた恋心は、弾けそうなくらい膨れ上がっていて隠す事はもう出来ない。

「…好きって、言いたいな。」

ポツリと静かな部屋で呟いた言葉は、誰にも届くことなく溶けていった。そんな葛藤をしているうちに、1時を知らせるアナウンスとテンションの高い音楽がいきなり鳴り始めた。完全に油断していたので聴き慣れたものなのに驚いてしまった。

『オッケーリスナー待たせたな!今日もPresentMICのぷちゃへんざレディオの時間DAAAA!!いやー、それにしても今週はドッと疲れた週だったぜ。なんたって、まさかの熱愛騒動だ!』

私の叫び声は棚に上げて、ラジオの音楽と近所迷惑になりそうなくらいの彼の声が部屋に鳴り響いて慌ててイヤホンを指した。さっきまでうるさかった音も、いつもと同じ音量調節にしてイヤホンをすると鼓膜に直に響いて心地よい。

『全く、お便りもそれ関連の事多くてよー…俺はリスナーみんなのお話を毎週楽しみに待ってるんだぜー?』
「ふふっ。…私も、散々だったなぁ」

大ファンのプレゼントマイクの熱愛報道、死ぬほど泣いてテンション下がってる時に敵に襲われて、それでまさかのご褒美展開。そう考えると一般人の会社員にしては波乱万丈だったなと思う。ラジオ越しで声しかわからないが、彼が肩をすくめてる姿を簡単に想像出来て苦笑いが溢れた。

『まぁ、それはおいといて……こんな遅くまで眠い目を擦ってラジオを聞いてくれてるリスナーたちだけのスペシャル情報!』
「え、なになに!?」

ソファーに寝転んで天井を見上げながら耳元の声に集中してると、思わず反応して少し大きい声が出てしまった。慌てて口を噤んで、ファンとしては気になるスペシャル情報に改めて座り直して姿勢を改めソワソワと待機する。

『あの情報は真っ赤なウソで、俺には心に決めた愛しのスイートハニーがいる!』
「……え?」

予想外の情報に、頭が真っ白になって固まってしまう。愛しのスイートハニーって、ことは、彼女、がいる…ってこと?

『だがしかーし!まだ想いは伝えてないから俺の片想いってやつだな!熱いハートに恋い焦がれる熱い想いを秘めてるのさ』

一気に体を巡る血液がサーっと冷えていくような感触がして、先程入れた紅茶の入ったマグカップに手を伸ばすけれどその指先が小さく震えてた。そんな私なんて関係なしに、電波越しの彼は相変わらず笑ってる。

『真面目で真っ直ぐで、でも時々天然過ぎるから心配になっちまう。笑った顔はキラキラしてるし喜ぶ姿はすんげぇ可愛いから、ついつい彼女が喜ぶ事をしてやりたくなるんだ』

顔が見えなくても、彼がその愛しの彼女の事を想いながら優しい顔をしているのがわかる。だって、声がいつも以上に慈愛を帯びている。やっぱり、そうだよね。正直自惚れていて、もしかしたら私と同じ気持ちなんじゃないかって、思っていた。じわじわと目頭が熱くなってきて、視界が歪んでくる。あぁ、ダメだ、泣くな、わかってたのに。

『見上げてくる瞳はウサギちゃんみたいだし、真っ赤になる頬はまるでリンゴだな!…それほど、俺は首ったけなんだ。それなのに、他の女になんて目移り出来ねぇって!!』

頑張って耐えてた涙は、驚きでパチパチと瞬きを繰り返すと簡単にポロリと落ちて頬を伝った。今のセリフだけ、どこかお調子者のプレゼントマイクが顔をのぞかせた。どことなく早口で言われた台詞に、ちょっとわざとらしく出されたキーワードは私がよく知る、彼に先日教えた私のラジオネームそのもので。

『このラジオが終わったら、愛を囁きに飛んでいくから、暖かいベットでうたた寝しながら待っててくれ』

まるで、それはラジオ越しに囁かれる誰かへ宛てた愛のメッセージ。ちょっと、待って。さっきから全然頭が追いつかない。

『おっと、このリスナーの中に報道陣なんていないよな!?逢引の邪魔だけはしないでくれよー!んじゃ、早速コーナーにレッツゴー!』

さっきまでの優しい声から、またいつもみたいにハイテンションなプレゼントマイクに戻ってしまう。次のコーナーへ移るテンポのいいリズムが鳴り響くが、私はそれどころじゃなくて一度イヤホンを外して膝を抱えて体育座りの体制になった。

「こ…れは、自惚れていいの…?」

もう、頬どころか全身が熱い。まだラジオは始まったばかりで、壁にかけた時計の針は1時過ぎを指している。

「もう、ラジオどころじゃない…」

彼は、本当にズルイ。そんなこと言われたら、また期待してしまう。もしただの勘違いで私じゃない時は、もうその時この恋心はキッパリと諦めよう。もしも、私に宛てたメッセージならば、この溢れそうな想いを伝えよう。少なくとも今の私は到底寝れそうになくて、ボイスヒーロー様が告げた約束の時間までまたイヤホンを付けて待つ事にした。

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