グッドモーニングを君に


『そしたら、日曜日楽しみにしてます。おやすみなさい』

綴られた文に、おやすみと返事を打って携帯の画面を消す。毎日というわけではないが、あの日から彼女と時々何気ない連絡を取って毎週日曜日に出かけるのが、変わらないいつものルーティーンに最近追加された。
最初はプラネタリウムから始まって、前回はショッピングで今回は話題になってるデザートビュッフェに行く予定だ。この間世間話をしている時に甘いものが好きと言ってたから、嬉しそうに頬張っている姿を想像できて勝手に頬が緩んだ。

思い耽っていると、スタンバイができたとスタッフが呼びに来たので慌てて手で覆ってだらしない頬を隠す。でもどうやらバレていないようなので、気持ちを入れ替えてポケットに携帯を押し込み立ち上がってスタジオ入りした。

『 リスナーたち、いつもこんな時間まで起きて聞いてくれてベリベリサンキューな!今日もPresentMICのぷちゃへんざレディオの時間だ!』

軽快なBGMと共にラジオが始まる。スタッフが厳選してくれたお便りを読み上げてると、もうすぐ夏なので花火や夏祭り系のことがよく綴られていて青春っていいなぁとしみじみ思う。うちの学生達も切磋琢磨しながら仲間達と年相応に楽しそうな姿を見せてくれるので、日々眩しさを感じている。…そう思うって事は、イコールオヤジになったって事を痛感するので自分の年を思い出されて辛くなった。

「初デートに行くのですが、オススメありますか?ッカァー!可愛いお便りだな!Umm…あ、プラネタリウムなんてどうだ?」

初デートならば、彼女と手を繋いで公園を散歩するだけでもさぞ楽しいだろう。しかし、男ならばエスコートしてカッコつけたい気持ちも痛いほどわかる。どうしようかと悩んだが、すぐついこの間行ったばかりの場所を思い出した。

「リスナーたちからオススメされたプラネタリウムに行ってみたんだけどよ、あれは良かったぜ!綺麗だし、何より雰囲気が良い!初デートで緊張するだろうから、あれくらい暗くてゆっくりしてる時間の方が彼女も自分もリラックス出来るんじゃねぇか?だが、いくらムードが良くても、kissはバレないようにな!」

ラジオ越しでは伝わらないが、投げキッスをして見せるとガラス越しのスタッフ達が笑った。煌めく星とBGMは本当に素敵だったし、何より彼女が喜んだ顔を見れたのは良かった。始まる前までガチガチに緊張していた彼女が、プラネタリウムの星たちに負けないくらいキラキラと瞳を輝かせていた。暗がりの中で光に照らされている彼女の顔が綻んで、その時初めて心を開いてくれた気がして此方までその心の熱が伝染したようだった。

初めて会った日から、出かけて連絡してと色々見てきてほぼ確信を得たが、多分、彼女は俺ファン、なんだと思う。
俺のプライベート姿を見てプレゼントマイクと一瞬で気付かれた時に薄々はそうかも?と思っていたが、プラネタリウムに出かけた時に織姫や彦星を見て俺の星座だと言われた。それって、興味がないはずのヒーローの誕生日をわざわざ覚えててくれたってことだろ?

「そしたら次のリスナーだ!ラジオネーム、うさぎりんごちゃん。お、最近当たることが多いな!とんだラッキーガールだぜ!」

次のお便りを取ると、見慣れた字があって嬉しくなった。長年ラジオをやっていれば、毎回お便りを送ってくれるリスナーは覚えてくるものだ。いつも控えめに名前の横にウサギの絵を描いてる彼女は、確か3年前くらいからラジオを聞いてくれていたと思う。ふとそのイラストを見て、赤くなった目で不安そうに見上げてくる初めて会った時の彼女の顔が浮かんだ。頭の片隅で思い耽るだけでなく、小さな出来事でも彼女の跡を追ってしまう程の状態らしい。自分はかなり重症だと内心苦笑いして、改めて手紙に向かい合った。

「こんばんは、マイクさん。…私事ですが、ずっと好きな人がいます。ずっと無理だと思ってたのですが、最近出かけたり連絡取ったりする機会などあり、凄く嬉しいのです」

文字を辿ると、一瞬言葉に詰まるが平然を装って読み上げる。

「好きな気持ちを伝えようかと思ってるのですが、迷惑になりそうで怖いです。男の人って、何にもない女性に告白されるのって、どう思いますか?」

この子の手紙は、就活の悩みや仕事の悩みばかりで今までそんな恋愛の気配はなかったので、いきなり現れたその好きな人の存在にまるで親のような寂しさがある。と、同時に彼女を思い浮かべていた分、彼女は好きな人はいるのだろうか?とついに仕事に関係ないことを考えてしまった。

「甘酸っぱい恋のラブレターサンキューな!こんなに想ってくれて、相手の男性も幸せ者だぜ!それに、そんなずっと想ってくれてるなら男は心の底から嬉しいさ」

今はとりあえずこの悩めるリスナーの為に、思ってる事を述べながら笑って見せる。きっと不安でドキドキしながらまだ見ぬ彼女はラジオを聞いているだろう。心配しなくていいと付け加えながら、BGMの準備をスタッフにアイコンタクトする。

「想ってる事全部伝えれば、大丈夫。幸せになって、ハッピーなお便り待ってるぜ!そんなうさぎりんごちゃんには、この歌をお届けだ!」

夏らしい、恋を応援する歌詞の女性歌手の歌を流して一旦休憩に入る。パイプ椅子にもたれながら目を閉じてその曲を聞いてると、真っ暗な脳裏に誰か知らない男と手を繋いで幸せそうに笑う彼女の姿が浮かんできた。

「好き、か…」

好きな人がいるかとか、むしろ彼氏はいないかとか聞いたことはない。流石に、毎週野郎と出掛けるという事はそういう異性の存在はいないと思うが…俺のファンだという確信もないし、彼女は優しいから助けられた義理を返すつもりでまだ出かけてくれてる可能性も0ではない。それくらい優しく無垢な子だと、出逢って日は浅いが伝わってきた。

「あいてぇな…」

ポツリと溢れた本音に、自分が一番驚いた。幸い、スタッフは次のコーナーの確認をしてるので今の呟きは拾われてないようだった。携帯を開いても、当たり前にもう夜が更けているのでメッセージは届いていない。

「そりゃ、寝てるよな普通」

どうやら、自分もリスナーのみんなの熱に浮かされ感化されてるみたいだ。どうしようもなく会いたいし、照れてる顔や笑った顔ももっと見たい。声が聞きたいし、あわよくば触れたい。まるで高校生のような煩悩に笑ってしまう。

「…よっしゃ、次のコーナーだ!まだまだ眠れないぜ、ついてこいよリスナーども!」

たった一日だけど、日曜日が恋しい。とりあえずこのどうしようもない気持ちを抱いて、日が登ればおはようとでも送ってみようか。この気持ちを伝えたら、君はなんて反応するんだろう。早く夜が明けてほしいと思いながら、その気持ちを声に乗せてテンションを上げてマイクへと向き合った。

- 7 -


TOP