だって恋する乙女ですので


仕方ない。寧ろ、今までが幸せすぎたんだと思う。

『本当ごめん!応援要請入った』

何度も朝届いたメッセージを見ては、溜息を吐き出す。仕方ない、彼は本業はヒーローなのだから、ラジオ以外も万年仕事みたいなものだ。誰かと代わりに行ってきてくれと言われたけれど、そんな気にもなれなくて申し訳ないがビュッフェはキャンセルした。ぽっかり予定の空いた日曜日は一日家事をしたりテレビ見たりゴロゴロして、届くはずのないメッセージを期待しては携帯の真っ暗な画面を見て、また溜息を吐くのエンドレスだ

「あぁー…日曜日って、いつもなにしてたっけ?」

最近、日曜日に浮かれて毎日を過ごしていたから、いざ予定がなくなると何をしていいかわからなくなる。今日の為に土曜日に平日に溜めていた家事は済ませてしまったので、家の中を歩き回ってもする事が見つからなくなってきた。たかが数回出かけただけなのに変なのと自分でも笑ってしまう。だけど、それほど彼との時間が大切な時間だった。ふと目を閉じると、笑う彼の姿が簡単に浮かんできてしまう位だ。
楽しそうに笑ってる顔、少し驚いたような顔。そして、プラネタリウムで見た優しげに目を細めた顔。思い出しただけで顔が熱くなってきて、両手で頬を包んでソファに倒れ込んだ。クッションに埋もれて行き場のない気持ちを意味もない言葉を発してぶつけてみたけれど、それはどこにも逃げる事なく寧ろ私の心でムクムクと成長してる一方だ。

「あー…好きだー会いたいよぉ…」

胸の内を吐き出してしまえばそれもそれで何だか気恥ずかしくて、ばたばたと足を動かしながらクッションに呻き声を上げる。私は、どんどん欲張りになっている。前まではラジオで彼の声を聞くだけでよかったのに、今では会いたいしお話ししたい。恋は尽きる事なく人を貪欲にさせてしまうみたいだ、恐ろしい。

「告白、かぁ…」

一昨日のラジオで、またお便りを読んでもらえた。多分裏でラジオの人が適当に選んでいるだけだとわかってるけど、沢山の手紙のものから私の気持ちを読んでもらえるのは素直に嬉しい。プレゼントマイク…ひざしさんがうさぎりんごが私と知らないとは百も承知だが、その想いを肯定してもらえた。恋するリスナーはたったそれだけで単純に勇気をもらえるのだ。
この関係に、いつまでも甘んじるのも彼はプロヒーローで芸能人だから申し訳ない。もう踏ん切りをつけるために、断られるのは大前提だが本当は今日にでも告白してしまおうかと思ってた。それで玉砕して、また次に向かって頑張ろうかと。でも、今日キャンセルになってちょっと安心した自分もいて、矛盾だらけな自分が訳が分からなくなってしまう。

「…次、いつ会えるかな」

相変わらず通知なしの携帯の画面を見て何度目かわからない溜息を吐き出そうとした瞬間、ポップな音楽を軽快に鳴らしながら携帯が震えて思わず手から滑り落ちそうになった。慌ててキャッチして画面をみると、今まさに恋い焦がれた名前が表示されていて心拍数がいきなり激しくなる。

「…も、もしもし?」
『あ、もしもし。いきなりごめんな。今外か?』

直接お話してる時や、いつも聞くラジオともなんとなく違う大好きな声が機械越しに鼓膜に響き擽ったい。相手に見えないのに、首が取れそうなくらい横に振って見せながら、改めて携帯を持ち直して意味もなくソファに体育座りした。

「いえ、家にいました!」
『…もしかして、ビュッフェ行ってねぇの?』

元気に返事したが、少し間をおいてから探りを入れてくるような声色に、しまったと後悔した。今の時間に家にいるのは、ビュッフェを食べて直帰しても少し早い。気を使わせないようにメッセージやり取りしていたのに、すんなりと嘘がバレてしまいどうしようかと回らない頭でぐるぐる考えていると、電話越しに溜息の気配がする。

『すまねぇ、行きたがってたのに俺のせいで…』
「いえ!気にしないでください!!それよりお仕事、終わったんですか?」
『…あぁ、今報告書出してひと段落したとこ』

申し訳なさそうにしてるひざしさんがリアルに目に浮かんで、私の想像力って凄いなと少し自分で引いてしまった。会話を変えようと問いかければ、疲れた声色を隠さず相槌を打ってくれる。ラジオなどではハイテンションだから、なんだか素を出してくれている気がして胸が擽ったくなった。

『あー…もしよかったら、晩飯とかいかね?』
「…もちろんです!!」

 言葉を濁しながら、紡がれた言葉が最初よくわからなくて沈黙してしまったが、すぐに理解できて思わず勢いよく立ち上がってしまった。その拍子で机の角に足をぶつけてしまって大きな音を立てながら呻いてると、心配する声と小さく笑い声が聞こえてくる。

『そしたら、遅くなると危ねぇし、そっちの駅の近くとかでどうだ?なんか食べたいものある?』
「なんでも好きです!ひざしさん、お腹減りました?」
『あーもうぺこぺこ』

なんだか、まるで恋人みたいな会話じゃないかと緩む頬が引き締められない。電話越しだから彼に見えないのがとてつもなく救いだ。時計はもう夕方近くを指してはいるが、季節は夏に近づいているせいか空はまだ明るい。今日は出かける予定もなかったからまだ寝癖も付きっぱなしで、慌てて洗面台に向かった。

『いつも行くお店とか、オススメのところ連れてってくれよ』

櫛で髪をとかしながら、突然の提案に固まってしまう。たしかに、前回も全部ひざしさんが行きたいところやオススメの所に連れて行って貰ってた。とは言っても、私のオススメと言われてもすぐに良いお店が浮かんでこない。

「私、お洒落なお店なんていかないですけど…」
『ハハッ、俺、そんなお洒落なとこしか行かないイメージ?ただのおっさんだから、小汚い店とか大好物だぜ』

だって、彼は有名人だから確実に私なんかよりもセレブな生活だろう。そんなこと言ったって、私みたいな庶民の生活とはかけ離れてるはずだ。困ってしまったけど、そう言われたら断れない。候補を頭の中で探しながら、早足でクローゼットに小走りで移動した。

「そしたら、お待ちしてます」
『あぁ、じゃあ後でな!』

名残惜しいが、通話終了のボタンを押してメッセージで最寄駅を送信すればすぐに了解。と返事が来る。待ち合わせまであと1時間もない。ここからが勝負だ。

「どうする私。何着よう…!」

今日の最初考えてたコーディネートは、デザートビュッフェに行く程のだから近所の居酒屋だと気合が入りすぎだ。確実に浮いてしまうだろう。かといっても、適当過ぎても女子力ないなーって思われちゃうかもしれない!
テーマはラフだけど女子力ある、だ。慌ただしい私を見て笑う人がいるかもしれないけど、やっぱり好きな人には可愛いって思われたいし、あわよくば意識してもらいたい。なんて。明日の自分に心の中で何回も謝りながら、とりあえずクローゼットの中身を漁る事から始めた。

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