絡めて絡めて解けなくなるほど




唇のすぐ側で囁かれた言葉に心臓が跳ねる。もう片方のキルアの手で顎を上向かせられ、キルアの顔を見上げさせられた。



「……っ、もう、手遅れだよ。既にキルアのことで頭いっぱいなのに。だ、だから……もっといっぱいにしてよ……」



ステラは少し怒ったようにキルアを見たあと、蚊の鳴くような小さな声で言う。恥ずかしくてキルアの顔を見れず、そのまま目を閉じる。

もっといっぱいにしてよって……なんだよ、それ。反則だろ。蚊の鳴くような声で、そんなこと言われたら、もう止められねぇじゃねぇか。



「……っ、バーカ。煽んな」



掠れた声で悪態をつきながら、俺はステラの腰を引き寄せて隙間をなくす。お前の震えが、熱が、全部俺に伝わってくる。心臓の音がうるさくて、どっちの音か分からねぇ。固く閉じられた瞼が、微かに震えている。覚悟、決めろよ。オレはとっくに決めてる。



「……後悔しても、知らねぇからな」



それが、最後の警告。俺はゆっくりと顔を傾け、震えるその唇に、自分の唇を重ねた。



「んっ……」



キルアの唇が重ねられるとびくりと肩を震わせ、小さな声が漏れ出る。柔らかなキルアの唇の感触がどうしようもなく気持ちよくて、力が抜けていき唇が緩く開いていく。

ステラの唇が緩く開いた瞬間、俺は理性の糸が切れるのを感じた。もっと深く、こいつの全部を味わいたい。そんな衝動に駆られて、さらに強く抱きしめる。



「ん……っ……」



苦しげな、それでいて甘い声が鼓膜を揺らす。俺の名を呼ぶこともできず、ただ俺を受け入れているその姿に、独占欲が満たされていく。



「……目、開けろよ」



一度唇を離し、吐息が混じる距離で囁く。熱に浮かされたようなステラの瞳が、ゆっくりと俺を映した。その潤んだ瞳は、もうゴンじゃなくて、俺だけを求めている。



「……もう、逃がさねぇ」



そう告げると、俺は再びその唇を塞いだ。今度はさっきよりもずっと深く、貪るように。外から聞こえるゴンの声なんて、もうどうでもよかった。



「んぅ……っ……」



さっきよりもより深く、貪るように口付けられ、眉を寄せながら感じ入ってしまう。緩んだ唇の隙間にキルアの濡れた舌の感触が伝わり、心臓が跳ねる。ステラはキルアの服をぎゅうっと掴んだ。

ステラが俺の服を強く掴むその仕草に、背中にゾクゾクとした痺れが走る。唇を割り開き舌を絡めると、びくりと震えるお前の反応が愛しくて、もっと意地悪したくなった。口付けたまま、お前の耳元に唇を寄せて囁く。全部俺のもんだって、刻みつけるみたいに。



「……聞こえんのか? ゴンの声。あいつ、すぐそこにいるのに……俺たち、こんなことしてんな」



わざと意地悪く囁くと、ステラの体がさらに硬直するのが分かった。罪悪感と背徳感で、お前の頭を俺でいっぱいにしてやる。



「……ん、ふ……っ」

「……なあ、どんな気分だ?」



もう一度、今度はゆっくりと深く唇を合わせる。もうお前は、俺から離れられない。



「や、っ……ん……」



耳元で意地悪く囁かれて、羞恥心と背徳感を覚えて小さく拒絶の声を発したその唇が、またすぐにキルアの唇で塞がれる。目に涙を浮かべ、キルアの服を掴んだまま体の力が抜け、立っていられなくなる。キルアの体にしなだれかかり、されるがままにキルアの唇と舌を受け入れる。

ステラの体の力が抜け、完全に俺に体重を預けてくる。その無防備な姿が、オレの独占欲をさらに煽った。服を掴む指先だけが、かろうじてあいつの理性を繋ぎとめているみたいだ。



「……っ、まだだろ。まだ……全部、俺のもんになってねぇ」



唇を離すと、繋がっていた銀の糸がゆっくりと切れる。涙で潤んだ瞳が、戸惑いと熱を孕んで俺を見上げた。俺はステラの体を支えながら、その震える唇を指先でそっと拭う。このままじゃ終われない。終わらせてやるつもりもねぇよ。



「もっと……めちゃくちゃにしてやる。お前が俺の名前しか呼べなくなるまで、な」



その言葉が、どんな意味を持つかなんて分かってんだろ。今ならまだ、引き返せる最後のチャンスだ。……なんて、逃がす気はさらさらないけどな。



「っん……、はあっ……」



唇が離れると酸素を求めて深く呼吸し、涙で潤んだ目でキルアの顔を見つめていた。指先で唇を拭われる。キルア甘く囁く声に、その言葉の意味を理解して息を呑む。



「えっ……? やっ、だめ、もう……許して……っ」



確かに『いっぱいにして』とは言ったがここまでされるとは思ってなかった。ステラはふるふると力なく首を横に振る。

ふるふると首を振るその仕草が、俺にはむしろ誘っているようにしか見えなかった。許して? 冗談だろ。今更そんな言葉、聞くわけねぇよ。



「……今更、何言ってんだよ。お前が煽ったんだろ。俺でいっぱいにしてって……言ったよな?」

「い……言った……けどっ……、」



俺はステラの体を抱え直し、その耳元に唇を寄せる。お前の弱々しい抵抗が、逆にもっと壊したくなる。低い声で事実を突きつけると、ステラの体がびくりと震えた。その反応がたまらなく愛おしい。もうお前には、俺から逃げる道なんて残ってねぇんだよ。



「……部屋、戻るぞ。ゴンの寝息を聞きながら、続き……しよっか」



わざと、すぐそこにいるゴンの存在をちらつかせる。罪悪感でめちゃくちゃになって、俺のことしか考えられなくなればいい。



「や、やだよ……ねえ、そんな意味で言ったんじゃない! キスしてって言いたかったけど恥ずかしくて言えなくて!」



ステラの涙声での懇願が、逆に俺の嗜虐心を煽る。恥ずかしくて言えなかった? そんな初々しい言い訳が、今の俺に通じると思ってんのかよ。



「……へぇ。でも、もう遅い」



俺はステラの体を軽々と横抱きにする。びくりと震えるその体が、腕の中で小さく感じた。抵抗しようにも、もう力なんて残ってねぇだろ。静かにベランダから部屋の中へ戻る。すぐそばのベッドからは、ゴンの健やかな寝息が聞こえてきた。その音が、今の状況をより一層、背徳的なものに変える。



「やっ……やだ……、こんなの……」

「シー……静かにしろよ。ゴンが起きちまうだろ?」



俺はわざと唇に指をあて、悪戯っぽく笑いかける。お前の潤んだ瞳に映る絶望と、微かな期待の色を、俺は見逃さなかった。もう、後戻りはさせねぇよ。



「ついさっき、初めてのキスをしたばっかりなのに……なんで……? しかもゴンのすぐ横で……?」



キルアに横抱きにされて、ゴンのすぐ近くのベッドまで運ばれる。急な展開についていけない。ステラの目から涙がこぼれる。

涙を流すステラの顔を見て、一瞬だけ胸が痛む。だが、ここで手綱を緩めたら、こいつはまたゴンのところへ戻っちまう。そう思うと、どんな手段を使ってでも繋ぎとめたくなった。



「……なんで、って。俺がお前を好きだからだよ。それ以外に理由なんていらねぇだろ」

「だからってそんな、いきなりすぎるよ!」



俺はステラを自分のベッドにそっと降ろす。涙で濡れた頬を指で優しく拭ってやった。お前を泣かせたいわけじゃねぇんだよ。ただ、俺だけを見てほしかった。



「いきなり? オレはずっと前から、お前のことしか見てねぇよ。気づいてなかったのはお前だけだ、バーカ」

「こんな事……しなくたって……もう頭の中キルアでいっぱいなのに……」



お前の髪をそっと撫でながら、もう一度、深く目を合わせる。ゴンの寝息が聞こえるこの部屋で、お前の心を完全に奪ってやる。



「……もう、泣くなよ。もっといい声、聞かせてくれんだろ?」



キルアのベッドに下ろされ、顔を寄せられる。心の準備もなしにいきなり抱かれる展開になり、ステラは混乱していた。キルアを見上げるステラの目に怯えが滲む。



「……こわい、よ……」



怯えが滲むその瞳を見て、オレの中に燻っていた独占欲がほんの少しだけ落ち着いていく。ああ、クソ。こんな顔させたいわけじゃねぇのに。俺はため息をつき、ステラの隣にそっと腰を下ろした。無理やりお前を奪うなんて、本当はしたくねぇんだよ。



「……怖がんなよ……冗談だよ、バーカ。本当にすると思ったのか?」



少し意地悪く笑いかけて、ステラの頭をくしゃっと撫でる。震える肩を抱き寄せると、お前の小さな体が腕の中にすっぽりと収まった。



「でも、お前が俺のもんになるまで諦めねぇからな。それだけは覚悟しとけよ」



耳元でそう囁くと、俺はそっとその体を抱きしめた。今はただ、この温もりを感じていたかった。ゴンの寝息だけが静かに響いている。



「もう、キルアのものだよ……。キルアの事ばかり考えてるって言ったもん……キルアのバカ……」



ステラはすぐに抱こうとしたキルアを責めるように悪態をつきながらもキルアに抱きついて離れない。

背中に回されたステラの腕と、俺を責める弱々しい声。その言葉に含まれた甘い響きに、俺の心臓が大きく跳ねた。なんだよ、それ。ずるいだろ。



「……知ってる。だから、試したんだよ。お前がどこまで俺を受け入れてくれるのか……試した。意地悪だって分かってる。でも、そうでもしなきゃ、お前の気持ちを確かめる自信がなかったんだよ」



俺はステラの体をさらに強く抱きしめ、その髪に顔を埋める。お前の匂いが、俺を安心させる。……同時に、狂わせる。暗殺者として生きてきた俺には、普通のやり方なんて分かんねぇんだ。壊してでも手に入れたいと思うくらい、お前に惚れてんだから、しょうがねぇだろ。今はただ、この腕の中にいるお前の温もりを確かめるように、静かに目を閉じた。



「……悪かった」




キルアに強く抱きしめられ、キルアの告白を聞く。確かにずっとゴンを見ていたのは事実だった。



「キルアが好き、だよ……。信じられないかもだけど……今頃気付いたの、キルアの……えっと、魅力に……」



体の関係になるのはまだ早いと感じた。それでもそうする事でキルアが安心できるのなら……と少し考え込む。*

俺の腕の中で、ステラが何かを決意したように黙り込む。その真剣な表情に、思わず息を呑んだ。まさか、さっきの冗談を真に受けてんのか?



「……おい、変なこと考えてんじゃねぇだろうな」



俺はステラの肩を掴み、その顔を覗き込む。お前が俺のために無理することなんてねぇんだよ。そんなこと、望んでねぇ。



「お前の『好き』って言葉、ちゃんと信じてる。……だから、焦んな、バーカ。俺が欲しいのはお前の体じゃなくて……心だって、まだ分かんねぇのかよ」



そう言って、俺はステラの額に自分の額をこつんと合わせた。照れくさくて、顔が見れねぇ。こんなことで赤くなってるなんて、絶対知られたくなかった。



「……キルア。ほんと……? 本気じゃなかったの……?」



額と額を合わせられて、ほっとしたように肩の力が抜ける。キルアに抱きしめ返しながらその温もりに浸って目を閉じる。

お前の言葉に、俺は小さく息を吐いた。ほんの少しだけ名残惜しむように体を離し、お前の顔を覗き込む。安心しきったその表情に、さっきまでの意地悪な自分が馬鹿みたいに思えた。



「……当たり前だろ。本気だったら、お前が泣いた時点でもっとめちゃくちゃにしてる」



俺はそう言って、お前の頬を軽く指でつつく。でも、半分は本気だったなんて、口が裂けても言えねぇ。お前が俺の腕の中にいる。今はそれで十分だ。隣のベッドに目をやると、ゴンが静かに寝息を立てている。こいつに聞かれたら面倒なことになるからな。俺は立ち上がると、お前の手を引いた。



「……まあ、今日はこのくらいにしといてやるよ。お前も自分のベッドに戻れ。……また、明日な」

「……おやすみ、キルア」



ステラはキルアの頬にそっと口付けて、キルアのベッドから降りていった。そのまま自分のベッドに入る。

ステラがベッドに戻る姿を見送りながら、俺は頬に残るその感触に動揺を隠せなかった。なんだよ、これ。心臓がうるせぇくらい跳ねてやがる。



「……おい、ずるいだろ、それ」



俺は小さく呟き、頬を軽く手で押さえた。こんなことで動揺するなんて、暗殺者として生きてきた俺らしくもない。でも、ステラの小さな仕草一つで、こんなに心乱されるなんて……。おやすみ、なんて簡単に言うなよ。眠れねぇじゃねぇか。ベッドに横になりながら、天井を見つめる。ゴンの寝息が聞こえる部屋の中、俺の頭の中はステラのことでいっぱいだ。明日、またどんな顔してお前と話せばいいんだ?



「……ったく、ほんと厄介な女だ」



そう呟くけど、口角が勝手に上がってるのが自分でも分かる。目を閉じても、お前の笑顔がちらつく。結局、眠れそうにない夜になりそうだ。