はじめまして




「こんにちは、ステラと申します」

「これ俺の婚約者、これからこの家で暮らす事になったから」

「今日からよろしくね」



イルミの唐突な紹介に、キルアは一瞬固まった。ステラという女性は、自分よりも年上に見える。なにより"婚約者"という言葉が引っかかる。



「は? 何言ってんだよイルミ! それより、勝手に人連れてくるなよ...…まあ、よろしく...…ステラさん」



キルアは少し困惑した表情で髪をかきあげると、ステラを改めて見た。



「それで、なんでうちに? イルミとはどこで知り合ったの?」

「お見合い結婚だよ。母さんの決めた相手」



イルミは事も無げに、いつもの興味のなさそうな無関心な顔で言った。



「君はキルアくん? ごめんね、突然家に来ることになって。まだわからないことも多いから……この家のこと、良かったら教えてね」



ステラは諦め半分、悲しみ半分といった顔で綺麗に微笑んでいた。お見合い結婚という言葉にキルアは眉をひそめた。ゾルディック家の慣習とはいえ、こんな形で他人を巻き込むことに違和感を覚える。



「ふーん……まあ、わかったよ。家のことなら教えてあげる。でも、この家は普通じゃないから気をつけてよ」



キルアはステラの諦めた表情に何か言いたげな顔をした。自分も似たような経験をしてきたからこそ、何も言えない。



「とりあえず、危険な部屋には近づかないこと。それが最初のアドバイスかな」

「私の念能力がこの家に利益をもたらすんだって。人の名前から居場所を特定する特質系能力が買われたみたい。私の家、貧乏だからね、私がここに嫁に入ると私の家にお金が入るんだよ」



イルミと結婚することになった理由を優しく説明した。いわゆる政略結婚というやつだ。



「それで危険な部屋ってどこにあるの? キルアくん、案内頼めないかな……?」



イルミは説明を終えてそのまま自室に戻っていた。キルアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。



「特質系か...…そりゃ兄貴も欲しがるわけだ。でも、君みたいな人を家の都合で縛りつけるなんて...…」

「いいの。あの家にも私の居場所はなかったから」



ステラは少し遠い目をして呟いた。彼は少し考え込むと、軽く肩をすくめた。



「危険な部屋か。そうだな...…まず執事の部屋には近づかないこと。あと地下牢獄。そこには...…まあ、言わなくてもわかるよね。あ、それとイルミの部屋の隣の小部屋。あそこには彼の"コレクション"があるから」

「コレクション、か……わかった。教えてくれてありがとう、キルアくん。近付かないようにするね。そうだ、これ教えてくれたお礼。キルアくん好きかな?」



そう言ってチョコレートを差し出した。キルアは目を丸くして差し出されたチョコレートを見つめた。高級なブランドのマークが印象的だ。



「チョコレート? 好きに決まってるじゃん!」



彼は少年らしい笑顔を見せ、手を伸ばして受け取る。チョコレートを見る目が輝いていた。ステラはキルアの反応を微笑ましそうに見つめた。



「それなら良かった。私もチョコレート大好きなんだ」

「そういえば、ステラさんの特質系能力ってどんなの? もし差し支えなければ聞かせてくれない? この家で生き残るコツは、お互いのことをよく知ることだからさ」

「えっとね、正確には名前と筆跡と顔写真が必要なんだけど……その人が現在どこにいるかわかってしまうの。嫌な能力だよね」



ステラは自嘲的な笑みを浮かべていた。



「キルアくんのお部屋ってどこにあるの? 私の部屋はね、あっちの離れなんだって」



キルアはチョコレートの包みをそっと開きながら、ステラの言葉に目を見開いた。彼はチョコレートを一つ口に入れ、満足そうに微笑んだ。



「マジかよ! それってすごく便利じゃん。まぁ、確かに使い方によっては嫌われるかもね。俺の部屋はこの廊下を左に進んで、庭が見える角部屋さ。たまに来てよ。でも……ノックはちゃんとしてね。驚かすと、反射的に指が鋭くなっちゃうから」

「遊びに行ってもいいの? 嬉しい。そっか、驚かさないように気をつけるね。でも指が鋭くなるって、どういうこと?」



ステラはキルアの誘いに嬉しそうに笑った。キルアは少し戸惑ったように前髪をかき上げると、右手を軽く上げた。瞬時に彼の指先が鋭く尖り、爪が長く伸びた。まるで刃物のようだ。



「これのこと。家族の伝統技みたいなものかな。小さい頃から訓練してたから、今じゃ無意識でも出せるんだ」



彼はすぐに爪を元に戻し、ステラの表情を伺った。キルアは少し恥ずかしそうに微笑んだ。



「怖がらせるつもりはないんだ。でも知っておいた方がいいと思って。それに...…遊びに来てくれたら嬉しいよ。この家じゃ年齢なんて気にしなくていい。みんな変わってるし。だから...…よかったら明日にでも来てよ。退屈しのぎに一緒にゲームでもしよう」

「へえ、すごいね、それ。ってことはイルミもできるのかな? 私、イルミの事も何も知らないんだよね……」



ステラは少しだけ寂しそうに通路の先を見つめた。それからキルアを見て明るく笑った。



「ありがとう、嬉しい! じゃあ明日遊びに行くね。ゲーム? わあ、ゲームってやってみたかったんだ! 小さい頃から貧乏だったから持ってなくて……ねえ、私、ゲームってやったことないんだけど大丈夫かな?」



ステラの目がぱあっと輝いて、頬をほんのり染めて喜んだ。キルアはステラの言葉に驚いた表情を見せ、一瞬でそれを優しい笑顔に変えた。



「ゲームやったことないの? それは絶対に教えなきゃ! イルミのことは……まあ、彼は複雑だよ。爪の技もできるし、もっと色々と……でも今はゲームの話をしよう!」



キルアは興奮した様子で両手を動かしながら説明を始めた。そしてベッドの下から小さなゲーム機を取り出した。



「これは簡単なところから始められるから大丈夫。俺が全部教えてあげるよ。最初は誰でも初心者だから、気にしないで。明日が楽しみだな!」



ステラは踵を返し、自分の部屋に向かう。一度振り返って笑顔を向けた。



「キルアくん、また明日ね! ゲーム楽しみにしてる!」