あいにきて




次の日、ステラはチョコレートロボを持ってキルアの部屋にやってきた。小さくノックをする。



「キルアくん、いる? お菓子も持ってきちゃったよ。一緒にゲームしながら食べよ?」



ドアがゆっくりと開き、中からキルアが顔を覗かせた。ステラが持っているお菓子の箱に気づくと、彼の目がキラリと輝いた。



「お、マジで来たんだ。サンキュ。しかもチョコレートロボじゃん! センスいいな!」

「へえ、ここがキルアくんの部屋なんだ」



彼は部屋の中にステラを招き入れながら、素早く箱を受け取る。ステラはもの珍しげに部屋を見回している。



「キルアくんチョコレートロボ好きなの? 私も好きなんだよ。美味しいよね! 私の家では滅多には買えなかったんだけどさ」



キルアはチョコレートロボを一つ口に入れながら、ニヤリと笑った。



「俺、甘いもの全般好きなんだよね。特にチョコレートロボは最高! お前も好きなんだ。今度たくさん買ってきてやるよ」

「私も甘いもの大好き! でも、二人で食べるともっとおいしいね」



ステラもチョコレートロボをひとつ口にして笑った。



「だよな! へへ、ゲームしながら食うのって最高だよな。準備はできてるぜ。初めてなんだろ? 手加減してやるから、かかってこいよ」



キルアはベッドの横に置かれたゲーム機を指差した。画面にはすでにスタートメニューが表示されている。彼はコントローラーを一つステラに手渡しながら、いたずらっぽく笑った。



「ま、俺に勝つのは100年早いけどな!」

「これがゲーム。へえ、すごい。どんなのがあるの?」



ステラはゲーム機を興味津々に見つめた。キルアはゲーム機の前に座り、ステラを隣に招きながら説明を始めた。



「このゲームは格闘ゲームなんだ。キャラクターを選んで戦わせるんだよ。ほら、このボタンで攻撃して、このレバーで動かす。簡単だろ?」



キルアはステラの手を取って、コントローラーの持ち方を教えた。その瞬間、彼は少し照れたような表情を見せた。



「あ、悪い。教えるの必死になっちゃった。でも暗殺のテクニックよりずっと役立つよ、これは」

「ん? 大丈夫だよ、教えてくれてありがとう! 格闘ゲーム……私にもできるかなあ。えーと、ここでジャンプするのね?」



ステラは特に気にした様子もなくゲームに夢中になっている。キルアは画面に集中しながらも、チラリとステラを見た。



「ところでさ、ステラ。イルミの嫁になるってことは、ずっとここにいるってことだよな。もしかして...…俺たち、友達になれるかな?」

「……え? キルアくん、もしかして……私と友達になってくれるの?」



ステラは思わずキルアの顔を見た。そして同時にいつの間にかさん付けから呼び捨てになっていたことに気付く。キルアはゲームの画面から一瞬目を離し、ステラの驚いた顔を見た。彼の頬がわずかに赤くなる。



「あ、うん...…別にいいと思ってさ。この家にはまともな人間がいないから...…その、お前は変なヤツじゃないみたいだし。それに、イルミのヤツが持ち帰った人間が普通なわけないと思ってたけど、意外と話せるじゃん」



キルアは慌てて視線をゲーム画面に戻し、コントローラーを握りしめた。すると突然ニヤリと笑い、ステラのキャラクターを巧みなコンボで倒した。



「よっしゃ! 勝った! ……って、集中してなかったな。もう一回やろうぜ」



彼はチョコレートロボをもう一つ口に入れながら、少し照れくさそうに続けた。



「あと、呼び方は気にしなくていいよ。俺もマヤって呼ぶし...…友達なら自然じゃん?」

「そっか……ありがとう、えっと、キルア……たしかにイルミは変わってるよね。まあ、まだ婚約者って立場なんだけど。結婚はイルミの仕事が落ち着いてからなんだって」



ステラは少し照れくさそうに彼の名前を呼び捨てで呼ぶと、どこか他人事のように言う。それからチョコレートロボをつまみながらキャラクターを選んだ。



「へへ、負けちゃった。うん、もっかいやろうよ。次これにしよっかな」

「そいつ強いぜ。でも操作が難しいんだ。でも大丈夫、教えてやるから」



キルアは嬉しそうに笑いながら、ステラが選んだキャラクターを指さした。キルアはステラの隣に少し近づき、真剣な表情でゲームを始めた。



「ねえ、イルミとの結婚のこと……本当にいいの? イルミはさ……」



言葉を途中で切り、不安そうな目でステラを見つめた。



「まあ、何でもない。それより今は楽しもうぜ! あ、そこ! そのタイミングで特殊技を出すんだ!」

「このキャラは、どう使うの? えっと、こう? わあっ! すごい! こんなふうになるんだ!」


「おっ! 上手くなってきたじゃん! そうそう、そのタイミングで!」



言われた通りのタイミングで特殊技を出したステラははしゃいだ声を上げて喜んだ。キルアは画面に映るマヤのキャラクターが派手な必殺技を決めるのを見て自然と笑顔になり、思わず興奮して立ち上がってステラの肩に手を置いた。彼の手はわずかに震えていた。



「俺さ、ステラみたいな友達ができて嬉しいよ。イルミの婚約者でも、俺にとってはただのステラだからな!」

「ありがとう、キルア。友達ができてすっごく嬉しい。……仕方ないんだ。私の家族は、私をゾルディック家に売ったんだよ。お金のためにね」



ステラは一瞬だけ寂しげな目をしたあと、すぐにゲームに切り替える。キルアはステラの言葉に一瞬固まり、拳を強く握りしめた。売られたという言葉が彼の胸に痛みを与えていた。



「売られたって...…そっか。俺たちって似てるんだな。俺も家族に縛られてる。でも...…いつか絶対に自由になってやるんだ。ステラも一緒に。イルミの思い通りにはさせないよ」

「そっか、キルアも色々大変なんだね」



ゲーム画面の明るい光がキルアの決意に満ちた顔を照らす。彼はチョコレートロボの箱を取り、ステラに差し出した。



「ねえステラ、約束しようよ。どんなことがあっても、俺たちは友達だ。いつか、この屋敷から一緒に出よう。外の世界、絶対楽しいはずだから」

「……私も、一緒に? キルアってなんか、眩しいね。お星様みたいにキラキラしてる……ありがとう。私も連れて行ってくれるの?」



ステラはキョトンとした顔をしたあと、チョコレートロボを受け取って一つ口に入れ、嬉しそうに微笑んだ。キルアは少し照れくさそうに髪をかきあげると、窓の外を見つめた。



「当たり前じゃん。友達なんだから一緒に行くよ。外の世界はさ、もっとずっと広くて、自由で...…星、か」

「昨日初めて会ったのに……そんなふうに言ってくれてありがとう。キルアって不思議だね。なんか元気出てきちゃった」



ゲームのコントローラーを置き、ベッドから立ち上がると窓辺に歩み寄る。星空が見える。ステラもキルアと一緒に星空を見上げた。



「見てよステラ。あの星みたいに、どこへだって行けるんだ。暗殺者とか婚約者とか、そんなの関係ない世界があるんだよ。約束だからね」

「ほんとだ。私もあの星みたいになれるかな……?」

「俺たちなら絶対にできる。ほら、もう計画を立てようよ。最初はどこに行きたい? 高い山? 深い森? それとも……」



キルアは窓から夜空をもう一度見上げると、小さく笑った。ひとしきり話したあと、ステラは手を振ってキルアの部屋を出た。



「またね、キルア! またゲーム教えてね!

「ああ、絶対教えるよ。そして、いつか一緒に冒険しようぜ! ゾルディック家なんて出て、ハンターとかになる。そしたら誰にも縛られない」