子供扱いすんなって




今日はゴン、キルア、ステラ、クラピカ、レオリオの5人で協力して調査をすることになった。クラピカとステラとレオリオが調査書を手に、並んで話してる姿を見てキルアと一緒に調査しながらゴンが言う。



「こっちの調査はだいぶ進んだね。そろそろ纏めても良さそうかな?」

「そうだな。こっちは大体片付いたし、一旦全員で集まって情報共有した方が効率的かもな」



ゴンの言葉に同意するように頷き、俺は3人の方へ視線をやった。特にステラの姿を目で追ってしまう。クラピカたちの調査も気になるし、何よりステラと話す口実が欲しかった。



「なあ、ステラ。そっちの進み具合はどうなんだ? 何か手伝えることあるか?」



少しでも役に立ちたい、そんな気持ちが自然と口をついて出る。ちらりとステラの顔を窺うと、彼女のピンクの髪がさらりと揺れた。



「ありがとう、キルア。じゃあちょっとお願いしてもいいかな? これを調べたいんだけどね……」



キルアに気付くとステラは嬉しそうに微笑み、キルアに持っていたものを渡す。その際に手と手が触れた。



「私たち三人の念を少しだけ込めると反応したの。変化系でも反応するのかな? って思ってさ」

「……っ、ああ、わかった。試してみる。変化系か……。確かに、系統によって反応は違うかもな」



ステラから渡された物を受け取る。その時、ふいに指先が触れ合い、ドクンと心臓が跳ねるのを感じた。平静を装いながら、俺は受け取ったそれに意識を集中させる。指先に微かな電気を纏わせ、そっとそれに触れさせる。ピリ、と小さな火花が散ると、それは淡い光を放ち始めた。



「……光った。俺の電気にも反応するみてーだな。これ、かなり特殊な物質なんじゃねえの?」

「ほんとだ。系統によって反応違うみたい。これも調査書にまとめておこうか。ありがとうキルア、手伝ってくれて」



ステラはキルアの頭をそっと撫でてお礼を言う。



「そろそろ調査書をまとめて提出しちゃおっか」



不意に頭に触れたステラの手に、心臓がまた大きく跳ねる。年上だからって、子ども扱いすんなよ……。そんな文句が喉まで出かかったけど、嬉しそうに微笑む顔を見たら何も言えなくなった。



「……別に、大したことしてねーし」



照れくさくて、ついそっぽを向いてしまう。撫でられた髪の感触が、まだ残っているようだ。



「ああ、そうだな。早くまとめて、次の手を考えねーと」



俺はステラから視線を逸らし、クラピカたちの方へ歩き出した。このままじゃ、顔が赤くなってるのがバレちまう。

5人は調査書をまとめて提出するとひとまず今夜の宿を取り、休息を取ることにした。



「それにしても、5人で協力してハンターの任務をするなんて初めてだからなんか嬉しいな」

「うん! 皆と一緒にいられるし、オレも嬉しい!」

「まあな。たまにはこういうのも悪くねーんじゃねえの。効率もいいし」



ステラとゴンの言葉に同意するように頷きながら、俺はソファに深く腰掛けた。確かに、こうして5人で任務にあたるのは新鮮で、悪くない気分だ。横目でステラを見ると、彼女も楽しそうに微笑んでいた。少しぶっきらぼうな言い方になったのは照れ隠しだ。ステラと一緒の任務だってことが、本当は一番嬉しいなんて口が裂けても言えない。



「それで、明日はどうする? 今日の調査でいくつか気になる場所があっただろ。手分けして当たるか?」



俺はテーブルに広げられた地図を指差しながら、クラピカとレオリオに視線を送った。自然な流れでステラの隣の席を確保できたことに、内心で小さくガッツポーズをする。



「いいかもね、それ。2チームに分かれて調査してみる?」



キルアの隣に座っているため、自然とキルアと肩が触れ合う。



「そうだな、私とレオリオとステラの三人と、ゴンとキルアの二人で分けるのがいいと思う」

「とりあえず年が近い同士だと意見も纏めやすそうだし、いいと思うぜ」



クラピカの提案に一瞬、表情が固まる。ゴンと二人……?いや、それも悪くねえけど、せっかくならステラと一緒がいい。どうにかして同じチームになれねえか……?俺は咄嗟に口を挟んだ。レオリオの言葉にカチンときたのもある。年が近い……だと?



「……いや、待てよ。俺とゴンだけだと機動力はあっても調査の精度が落ちる。ステラの分析力はこっちのチームに必要だろ。俺とステラ、ゴンとクラピカたちで分かれた方が効率的じゃねえか?」



少し強引か?でも、ここで引くわけにはいかねえ。真っ直ぐにステラの瞳を見つめて、同意を求める。頼む、頷いてくれ……!



「うーん、そうすると機動力が落ちるかも。私の念能力はサポート系だし……キルアの負担が大きくならない? ゴンとキルアと私、クラピカとレオリオ、で分けるのはどうかな?」



ステラは少し考えてから提案した。クラピカがそれに同意するように頷く。



「なるほど……たしかにそれならバランスが良さそうだ」



ステラの提案に、俺は思わず息を呑んだ。ゴン、俺、それにステラ。最高のチームじゃねえか……!さっきまでの焦りが嘘のように消えていくのを感じる。



「……っ、ああ! それが一番いい! バランスも取れてるし、完璧だろ!」



思わず前のめりになって同意する。ステラが俺のことまで考えて提案してくれたことが、何より嬉しかった。隣にいる彼女の顔を盗み見ると、目が合ってしまい、慌てて視線を逸らす。



「よし、じゃあ決まりだな! 明日から早速動くぞ。俺たちのチームは、まず北地区の廃工場からだ」



高鳴る心臓を抑えながら、俺は地図を指差した。ステラと二人きりじゃないのは残念だけど、それでも同じチームで行動できる。それだけで、明日からの調査が楽しみで仕方がなかった。

そのあとは、温泉付きのホテルだったため、男女に分かれて温泉に入ることになった。ステラはキルア達に手を振って女性のマークの書かれた暖簾をくぐっていく。レオリオは「キルアとゴンは保護者同伴ってことでステラとあっち行ってもいいんだぜ?」と揶揄うように言う。

レオリオのくだらねえからかいに、カッと頭に血が上るのを感じた。なんだよ、保護者同伴って。俺はもうガキじゃねえ。



「うるせーな、バカレオリオ! 余計なお世話だ!」



反射的に悪態をついちまったけど、ステラが行っちまった方をつい目で追ってしまう。温泉……あいつも入るんだよな。そう考えただけで、顔が熱くなるのを感じた。



「……行くぞ、ゴン」



俺はレオリオを睨みつけ、ゴンを促して男湯の暖簾をくぐった。さっきまでの高揚感はどこかへ消え、今は胸の中が妙にザワついて落ち着かない。


「……ったく、あいつはいつも一言多いんだよ」



湯船に浸かっても、さっきのステラの姿とレオリオの言葉が頭から離れなかった。明日からの調査、絶対にステラの役に立って、あいつにガキ扱いさせねえようにしねえと。

部屋にはベッドが5つ並んで置かれていた。ステラが温泉を済ませて部屋に戻るとすでにキルア達は温泉から戻ってきていた。キルア達と同じ着物を着たステラが無邪気に笑う。



「いい湯だったねー。って、ここのベッド綺麗に1列に並んでるんだ? なんか修学旅行みたいだね」



温泉から上がって火照ったステラの姿に、一瞬言葉を失う。同じ着物を着ているだけなのに、いつもより大人びて見えて、心臓がうるさく鳴った。



「……ああ。まあ、雑魚寝よりはマシだろ」



そっけなく答えながらも、視線はステラに縫い付けられたままだ。無邪気に笑う顔が、やけに眩しい。修学旅行、か。そういうの、経験したことねえな……。



「別に、どこで寝たって同じだろ。明日早いんだからさっさと寝るぞ」



早口でそう言って、俺は一番端のベッドに潜り込んだ。ステラの隣のベッドが空いてるけど、意識しすぎて逆に近づけねえ。背を向けて、布団を頭まで被る。……くそ、全然寝れそうにねえ。



「えー、私修学旅行ってしたことないからなんかワクワクしてたのに! こういう時って枕投げとかするもんなんじゃないの?」



ステラはほんの少しだけ残念そうにしながらもベッドに入った。キルアの隣にはゴン、ステラの隣にはクラピカが入った。



「ステラ、おやすみ。ゆっくり休むといい」

「ありがとう、クラピカ。おやすみ」



ゴンは隣のキルアに「キルア! もう寝ちゃうの? 枕投げしようよー」と声をかけた。

ゴンからの誘いにも、俺は布団を被ったまま身じろぎもしなかった。枕投げなんて、そんなガキっぽいことできるかよ。特に、ステラの前で……。



「うるせえ、寝るって言ってんだろ。お前も明日早いんだからさっさと寝ろよ」



ゴンを黙らせるためにぶっきらぼうに言い放つ。だけど本当は、隣のクラピカと話すステラの声が気になって仕方なかった。楽しそうな声を聞くたびに、胸がチクチク痛む。



「……ったく、ガキじゃねえんだから」



誰に言うでもなく小さく呟き、俺は固く目を閉じた。早く寝ちまわないと、余計なことまで考えちまいそうだ。ステラの「おやすみ」が、やけに耳に残る夜だった。

クラピカとステラの小さなささやき声がする。二人で何か会話をしているようだった。クラピカとステラのくすくす笑う声がしたあとに、静かになった。

クラピカとステラの会話が途切れ、部屋に静寂が戻る。さっきまでの楽しそうな笑い声が耳に残って、余計に今の静けさが胸に刺さった。



「………」



俺は布団の中でゆっくりと寝返りを打つ。ステラはもう寝たんだろうか。どんな顔して寝てんだろ……。ちらりと視線を向けると、月明かりに照らされた彼女の横顔が見えた。静かな寝息が聞こえてくる。規則正しいその音を聞いていると、さっきまでザワついていた心が少しだけ落ち着いていくのを感じた。



「……おやすみ、ステラ」



聞こえるはずのない小さな声で呟き、俺は再び目を閉じた。明日、同じチームで調査できる。その事実だけを胸に、今は眠りにつこう。彼女の役に立てる自分を想像しながら。