チョコレートに病み付き




キルアは携帯を握りしめ、ステラを見つめる。クラピカの最後の言葉が頭の中で反響している。彼は立ち上がり、窓から漏れる月明かりの中、髪を掻き上げた。目には決意の光が宿っていた。



「奴、お前のこと『誰よりも想ってる』なんて……笑わせるぜ。22時か……まだ時間はある。俺がお前を守る。クラピカは何も分かっちゃいない。だからこそ、会って話さなきゃな」

「えっ? 今から会いに行くの? キルア……お願い、クラピカ達と争わないで。監禁されてる事クラピカに言ったのは、ごめんなさい……でも誰に監禁されてるかは言ってない」



ステラは咄嗟にキルアの服の裾を掴んだ。キルアはステラの手を見下ろし、小さく舌打ちした。彼女の紫色の瞳に映る自分の姿が歪んで見えた。キルアの舌打ちにステラは身を竦ませる。



「心配すんな。ただ話すだけさ。それに……」



彼はゆっくりと膝をつき、ステラの頬に指を這わせた。電気のような触感が彼女の肌をぴりぴりと走る。ステラは言葉を失い、キルアの顔をただ見つめる。



「お前がどこにいるか言わなかったことが、俺にはすげぇ嬉しかったんだぜ。だから今度は俺が、お前を守る番なんだ」



キルアは微笑み、ステラの髪を指で絡めながら、彼女の反応を観察する。彼の目には、不安と愛情が混ざり合っている。



「怖がらなくていい。クラピカも含めて、誰からもお前を守る。たとえ世界が敵になろうとな。覚悟はできてる。もう後戻りはしない……お前のためなら」



立ち上がると、携帯を取り出し、ステラに背を向けた。ステラはベッドから降りて、キルアの後をついていく。



「キルア。クラピカ達は敵じゃない。お願いだから、争わないで……私も、行く……」



ステラは泣きそうな顔をしていた。キルアは急にステラの方を振り向き、瞳に冷たい光が宿る。彼の指先から微弱な電気が走っている。彼はステラの腕を優しくつかみ、不安げな表情を見せた。



「何を言ってる? クラピカはお前を奪いに来る。俺達の邪魔をする奴は皆敵だ。わからないのか? お前がいなくなったら、俺はまた元の暗殺者に戻ってしまう。俺にとってお前は……光なんだ」

「違うよ! なんでそうなるの? クラピカとは付き合ってないんだよ。大切な仲間なんだよ。ねえ、思い出してよ……」



ぼろぼろと涙が溢れる。キルアは一瞬、ステラの涙に動揺した表情を見せるが、すぐに頬を強張らせる。指先の電気が消え、代わりに拳を握りしめた。彼は重い息をつき、ステラの涙を親指でそっと拭った。その動作には、彼自身も気づいていない優しさがあった。



「クラピカもゴンも、みんな俺の大切な仲間だったよ。でも……今はお前しか見えない。俺が間違ってるのは分かってる。でも、怖いんだ。お前を失うことが」

「だったら仲間をもっと大事にして……、あんなに仲間を大事にしてたキルアはどこにいったの? ……キルアが、皆と敵対するっていうなら……今ここで舌を噛み切って死ぬよ」



ステラは泣きながらも決意固くそう言った。キルアは驚愕の表情を浮かべ、一瞬で血の気が引いた顔でステラに詰め寄る。



「バカ……!  そんなことするな!」



震える手でステラの頬に触れ、その目に映るのは純粋な恐怖だった。



「わかった……わかったよ。皆と……話す。でも、お前はそばにいろよ。お前がいなくなるくらいなら、俺は何でもする。一緒に行こう、クラピカのところへ」



ステラとキルアは二人で約束の場所に向かった。クラピカの瞳が一瞬にして緋色に変わり、ステラの手足の鎖跡に視線が釘付けになる。彼の拳は無意識に握りしめられていた。



「ステラ…...」



彼は素早く彼女の側へ駆け寄り、鎖跡を確かめようと手を伸ばしかけたが、途中で止まった。その目に怒りと安堵が交錯している。



「誰がこんなことを...…? 説明してくれ、キルア。なぜステラは拘束されていた?」

「クラピカ! ごめんね、もう大丈夫。さっき、キルアが助けてくれたんだ。皆来てくれてありがとう……」



ステラは素早くクラピカの手を取り、安心させようと微笑んだ。しかしキルアは俯き、視線をステラとクラピカの手が触れ合う場所に落としたまま、言葉を選ぶように沈黙する。



「俺だよ...…ステラを縛ったのは」



キルアは顔を上げ、緋色の瞳に真っ直ぐ向き合った。声は低いが、揺るぎない決意が感じられる。



「失いたくなかった。でも、これ以上ステラを傷つけたくない。クラピカ、お前を恨むわけじゃない。ただ...…彼女を幸せにしてやってくれ」



クラピカの目が一瞬にして緋色に染まり、キルアに向けられた視線に怒りが宿る。しかし彼の目線がステラの手首の鎖跡に移ると、その怒りは悲しみに変わった。



「キルア...…何があったにせよ、彼女を拘束するなど許されない行為だ。大丈夫か、ステラ? もう二度と君を見失わない。約束する」



彼はゆっくりとステラに近づき、その指先で優しく彼女の頬に触れる。緋色の瞳が静かに灰色へと戻っていく。キルアは拳を強く握りしめ、クラピカの言葉に苦々しい表情を浮かべる。ステラの頬に触れるクラピカの指先を見つめ、胸の内で何かが軋む音がした。



「やめろ...…触るな」



一歩前に踏み出したが、ステラの表情を見て足を止める。彼女の目に映る感情に、キルアは自分の行いの重さを再確認した。



「ステラ…...本当にごめん。俺は、お前を守りたかっただけなのに、結局は傷つけてた」



クラピカはキルアの言葉に一瞬驚きの表情を見せるが、すぐに冷静さを取り戻す。クラピカはステラから少し距離を置き、キルアを見つめた。



「守りたい気持ちは理解できる。だが、方法を間違えれば、それは保護ではなく束縛になる。ここで大切なのは、ステラの意思だ。私たちが彼女の代わりに決めることではない」



クラピカの灰色の瞳は静かな決意を宿している。ステラとキルア、二人を交互に見つめながら、クラピカは言葉を選ぶ。緊張した空気の中、キルアもステラとクラピカを交互に見つめる。手が無意識に震えている。



「わかってる...…わかってるよ。俺はステラを自分のものにしようとしてた。でも、本当に大切なのは彼女が何を望むかだった」



彼は勇気を振り絞り、ステラの前に膝をつく。紫色の瞳に真っ直ぐ見つめ入る。



「ステラ、もう縛らない。お前の選ぶ道を...…尊重する。どんな選択でも」

「選択……? なにを……?」



ステラは呆然と呟いていた。クラピカは静かに二人の間に立ち、ステラの混乱した表情を見つめる。彼の灰色の瞳には理解と共感が宿っている。彼はステラに一歩近づき、声を落とす。



「ステラ、キルアは君を守るために行動したが、その方法は間違っていた。君には自分の道を選ぶ自由がある。私は……君を見つけるために長い間探していた。でも、決して強制はしない。君の選択を待つ」

「え……?」



キルアは拳を強く握りしめ、クラピカとステラの間に視線を泳がせる。心の奥に燃える嫉妬と後悔を抑えながら一歩前に出る。彼はゆっくりとステラに手を差し出すが、触れることはせず宙に留まらせる。その手は微かに震えている。



「俺が……間違ってた。ステラを守りたくて、気づいたら檻の中に閉じ込めてた。どこへ行きたいか、誰といたいか……全部お前が決めていい。俺はただ……そばにいたいだけだ」

「どういう……こと……? クラピカもキルアもゴンもレオリオもみんな大切な仲間……だよ……。何を選ぶの……?」



選ぶ?何を?どちらからも告白されたわけではない。けれど二人の態度は明白だった。どちらかを選べば、どちらかとは友達ですらいられなくなる。そんな空気だ。わかってる。本当はわかってる……のに。何を選ぶのか、その言葉の意味を。告白されたわけじゃないからといって、見てみぬふりしてはいけない。それなら……。クラピカは一瞬驚いたような表情を見せた後、やわらかな笑みを浮かべる。瞳に浮かぶ感情は、ステラへの深い友情と、それ以上の何かを映し出していた。



「ああ、もちろんだ。君は私にとって大切な友達であり、仲間だ。それ以上の……」



彼は言葉を途中で止め、窓の外の景色に目をやる。夕陽が彼の横顔を優しく照らしていた。



「どんな時も、君の選択を尊重する。それが友達であり、それが……私の気持ちだから」



キルアはステラの混乱した表情を見つめ、手を握りしめた。彼の瞳には決意と葛藤が交錯していた。



「無理に選ばなくていい。お前の居場所は……お前自身が決めるもんだ。俺が監禁したのは間違いだった……」



彼は静かに息を吐き、指先から小さな電気が走る。



「ただ、お前を守りたいだけだった。どんな選択をしても、俺はお前のそばにいる。それだけは約束する」

「私は、みんな仲良くしてほしい……。ゴンもキルアもクラピカもレオリオも、大事な仲間だから……だから、二人の気持ちは受け取れない、仲間という目でしか見れない。ごめんなさい」