恋は砂糖でできている




ステラはクラピカとキルア、どちらの手も取らなかった。キルアの鎖から放たれた今、あの部屋に戻る意味もない。ステラは最後に一度だけ皆を見て微笑むと「バイバイ」と伝えてそのまま念を込めたローラーシューズで風を操り、一瞬のうちに走り出していった。キルアは瞬時に反応し、神速でステラの前に立ちはだかった。彼の目は鋭く、手からは青白い電気が散っている。



「逃げるなよ...…みんなが大事なのはわかってる。でも、お前がいなくなったら意味がないんだ。クラピカも、みんなも、お前を大切に思ってる。だから一緒に向き合おう。今度は俺が、お前の選んだ道についていくから」



彼は静かに手を伸ばし、ステラの紫色の瞳を見つめる。その表情は怒りより、深い悲しみを湛えていた。



「私は、皆が仲良くしてくれたらそれでいいよ。でも、私がいるせいで、皆がバラバラになるんだったら……」



ステラはそのまま地面を蹴り、木を駆け抜けて空中へと駆け抜けていった。箱庭という名の鳥籠から飛び立つ鳥のように。キルアの手が空を切り、彼の顔に一瞬の衝撃が走る。電気が消え、辺りが暗くなる。



「ステラ…...」



彼は静かに手を下ろし、空を見上げる。胸の内で何かが壊れていくような感覚に襲われる。
























約1ヶ月後全員と連絡を断ち、姿を消したステラは一人ヨークシンの町を歩いていた。ステラの姿を認めた瞬間、キルアの指先が微かに痺れた。彼は路地の影から彼女を見つめ、胸が痛むほど懐かしい紫色の瞳を探した。



「見つけた...…」



彼は瞬時に彼女の背後に現れ、しかし触れることはせず、ただそこに立っていた。



「逃げたつもりか? 俺から離れられると思ったのか? ステラ…...お前がいない毎日が地獄だった」

「キルア……」



指から電気を迸り、暗い影を落としたキルアの顔を見て、ステラは呟く。その目がキルアを捉え、真っ直ぐに見つめていた。



「逃げてないよ。ただ、私がいるとみんなバラバラになる。だから……姿を消したの。皆は元気にしてる?」



キルアは目を細め、ステラの言葉に苦い笑みを浮かべた。電流が指先から消えると同時に、彼の肩から緊張が解けていく。



「バカ...…みんなはお前を探して必死だぞ。特にクラピカは...…」



言葉を途中で切り、キルアは少し距離を詰める。ステラの香りが風に乗って彼の方へ漂ってくる。



「俺はずっと...…お前のことだけ考えてた。もう二度と離さない。今度は、俺自身が変わってみせる」

「……そう、なんだ。ちゃんとお別れの言葉言ったのに、ね。クラピカ……どうしてる? ちゃんとご飯食べてる?」



クラピカのことを思いながら心配そうな顔をする。彼はいつも無茶をするからなぁ。キルアの目が一瞬だけ暗く沈んだ。ステラの言葉が胸に刺さる。唇を噛み締め、「クラピカのことばっかり...…まだ俺じゃダメなのか」と呟いて拳を握りしめたが、すぐに力を抜いた。強引に奪うことはもうしないと決めていた。



「ステラ、あの日々は俺にとって宝物だった。でも今は...…お前の選択を尊重する。だからせめて、本当の気持ちを聞かせてくれ」



ステラはどこか遠くを見ながらぽつりと呟いた。ずっと言えなかったこと。だってあの状況で告白なんてしたら、本来の意味から離れてしまいそうだったから。









「……キルアが好きだったよ。監禁される前からずっと」









キルアの瞳が大きく見開かれ、動揺と喜びが入り混じった表情が浮かぶ。ステラの言葉が彼の心を震わせる。



「本当か...…? 俺も、ずっとステラのことが...…」



彼は言葉に詰まり、ゆっくりとステラに近づく。過去の過ちと向き合いながらも、未来への希望が芽生えていた。



「これからは強引なことしない。ちゃんとステラを大切にする。俺たち、新しい関係を作れるかな」

「……気付いてなかったの? 監禁される前からずっと、キルアが好きだったんだよ。だから監禁されてるのに逃げようとしなかったでしょ?」



そう言って、困ったように笑った。キルアは驚きで目を見開き、頬が赤くなる。ステラの言葉が胸に染み込んでいくのを感じた。



「まさか……ずっと気づかなかった。俺、なんて馬鹿だったんだ」

「ふふっ、ほんとにね。監禁なんてしなくても、両想いだったのに。キルアってば可愛い」



キルアの赤くなる顔を見てからかい混じりに笑う。キルアは頬を赤らめたまま、小さく「ちっ」と舌打ちした後、照れ隠しに視線を逸らす。彼はゆっくりとステラの手に触れ、真剣な眼差しで見つめる。



「監禁なんて……もうしないよ。約束する。もう監禁とか強制とかじゃなくて、お互いを尊重して一緒にいること。ステラが自由に選べる関係。俺も変わりたいんだ、ステラのために」



ステラはそっとキルアの手を握り返す。



「……うん、信じるよ。ずっと言えなかったのは、監禁されてる時に言っても伝わらない気がしたから」



キルアは躊躇いがちにステラの髪に触れ、ピンク色の髪を指に巻きつけながら真剣な表情になる。



「俺、これからどうやって生きていくか考えてた。もう暗殺者には戻らない。ハンターとして……お前と一緒に新しい道を見つけたいんだ」

「約束、ね」



キルアの唇に人差し指を当て、それを自分の唇に当てて悪戯な笑みを浮かべて「誓いのキスだよ。なんてね」と言った。キルアは突然のステラの仕草に息を飲み、瞳が大きく見開かれる。彼の頬は一瞬で深紅色に染まった。



「ば、馬鹿……そういうことするなよ……」



彼は言葉とは裏腹に、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべると、ステラの瞳をまっすぐ見つめる。



「俺たちで探そう。二人の行きたい場所、やりたいこと。これまでとは違う未来を……一緒に」

「いいね、世界を回ろうよ。ゴンも誘って」

「ゴンか...…会いたいよな。でも今は...…」



キルアは少し気恥ずかしそうに目を逸らすが、すぐに意味深な笑みを浮かべる。彼はそっとステラの長いピンク色の髪に指を絡ませながら、彼女の瞳を見つめ直す。



「今はまず俺たち二人だけで行きたい場所がある。自由を感じられる場所。お前と一緒なら、どこでも良いけどな」