鎖とチョコレートを巻きつけて




ステラとキルアは遊園地に来ていた。キルアが飲み物を買いにいこうと少し目を離した隙に、ステラは姿を消していた。キルアは飲み物を握りしめたまま、その場に凍りついた。冷たい恐怖が背筋を伝う。



「ステラ……!」



彼は念を使って周囲を探り、人混みの中にピンク色の髪を見つけると、一瞬で距離を詰めた。



「どこ行くつもりだよ……一緒に行くって約束したじゃないか……」



キルアは小さく震える声で言った。その腕をそっと掴み、彼女の目を覗き込む。しかしその子は全くの別人だった。振り向いた顔はステラではなく、警戒するように「……誰ですか?」と言われた。キルアは驚きで目を見開き、すぐに手を放した。頭の中が真っ白になる。



「す、すまない...…人違いだ」



彼は慌てて周囲を見回し、パニックが胸に広がっていく。念を全開にして、ステラの気配を必死に探る。



「くそっ...…ステラ、どこにいるんだよ...…」



キルアは小声で呟きながら、人混みを駆け抜けた。探しても探してもどこにもステラはいなかった。遊園地の退園時間になり、キルアは遊園地を出る。ゴンが遠くで歩いているのが見えた。キルアは一瞬、ゴンを見つけて安堵したが、すぐに眉間にしわを寄せた。ステラがいない不安が胸を締め付ける。



「ゴン! ステラを見なかったか?」



ゴンが首を横に振る様子に、キルアの中で焦りが爆発した。指先から電気が漏れ出している。



「俺が...…俺がちゃんと守らなきゃいけなかったのに...…」



キルアは拳を握りしめ、後悔の表情を浮かべながら周囲を見回した。ゴンは悲しそうな顔をして静かに問う。



「キルア、オレを騙してたよね。ずっと。ステラを監禁してたのはキルアだったんでしょ? ……また監禁してたの?」



キルアは一瞬言葉を失い、視線を落とす。電気を帯びた指先が小刻みに震えている。



「違う...…最初は確かに監禁だった。でも今は違うんだ。ステラは自分で選んだ...…俺といることを。信じてくれなくてもいい。でも今、ステラが消えた。助けてくれ...…頼む」



胸の内で渦巻く複雑な感情に顔をゆがめながら、ゴンの目をまっすぐ見つめる。ゴンはにこっと微笑んだ。



「……いいよ。キルアをもう一度、信じる。でもオレ、騙されてたことはすっげー怒ってる! だから一発殴らせてね!」



そう言ってキルアを殴った。キルアは頬に痛みを感じながらも、どこか安堵の表情を浮かべる。地面に落ちた体を起こしながら、目に決意の光を宿す。



「当然だろ……俺も自分が嫌いだ。ステラのことを独り占めしたくて、嘘をついて……でも今は違う。ステラを守りたいんだ。誰からも、何からも……だから、お前の力を貸してくれ、ゴン」



「うん! 一緒に探そう! キルアもステラも大切な友達だから! だからその前に、何があったのか教えてよ!」



ゴンはキルアに手を差し伸べながら明るく笑って言った。キルアはゴンの手を掴み立ち上がると、微かに震える声で話し始めた。



「マヤを監禁したって聞いて驚いただろ……最初は俺も自分が何をしてるのか分からなかった。でも彼女は……」



風が二人の間を吹き抜け、キルアの銀髪が揺れる。



「彼女は『自分で選んだ』って言ったんだ。俺といることを。俺にはまだ信じられない。でも今は、ただ彼女を守りたい。クラピカから、そして……俺自身から」

「うん、確かに驚いたよ。でもどこかでキルアな気はしてたんだ。ステラがキルアの側にいる事を選んだのなら、オレはそれを見守るよ! でも、ステラはどうして消えたの?」



ゴンは少し考えるように夜空を見上げたあと、眩しい笑顔で言った。キルアは目を細め、遠くを見つめながら拳を強く握った。彼は小さく息を吐き、ゴンの目をまっすぐ見つめる。


「ステラが消えたのは……俺が彼女を連れ出したからだ。クラピカが近づいてきて、奪われるのが怖かった。彼女の紫色の瞳を見るたび、俺は自分が暗殺者だった頃の冷たさを思い出すんだ。でも今は彼女の笑顔を守りたいだけなんだ。ステラと一緒にいると、俺は……普通の自分でいられる」



それからキルアとゴンは必死にステラを探した。だがそれから一週間が経ってもステラの消息は掴めないままだった。



「キルア、レオリオとクラピカにも協力してもらおうよ。二人も大事な仲間なんだし、信じ合うことが必要だと思うんだ」



キルアは一瞬だけ目を見開き、すぐに眉を寄せた。クラピカの名前に反応してしまったことを悟られないよう表情を整える。キルアの心には変化が起きていた。ステラと過ごした日々が、彼の凍てついた心を少しずつ溶かしていたのだ。



「クラピカに協力を求めるのか……わかったよ。彼らの力も借りよう。ステラを見つけるためなら……今の俺は、過去の自分を超えられる」



クラピカは電話に出なかったため、レオリオを呼び出し、三人は喫茶店で落ち合うことにした。レオリオはまだ少し警戒するようにキルアを見ていた。



「なあ……キルアはなんでステラを監禁してたんだ? ゴンに頼まれたから来たけどよ、オレまだ納得してねーからな!」



キルアはレオリオの鋭い質問に一瞬だけ目を逸らし、窓の外を見つめた。指先でテーブルを軽く叩きながら、言葉を選んでいるようだった。彼は再びレオリオを見つめ、真剣な表情で続けた。



「監禁なんかじゃない……最初はそうだったかもしれないけどさ。ステラは俺にとって特別な存在なんだ。守りたかった。でも今は……彼女の選択を尊重したい。だからここにいる」



三人で話し合い、ステラを探す作戦を立てた。その夜、一人になったキルアの元に電話がかかってくる。ステラからだった。キルアは携帯を手に取り、画面に表示された名前に一瞬息を呑んだ。指が震えるのを必死に抑えながら電話に出る。



「ステラ…...? どこにいるんだ? 無事か?」



受話器からかすかに聞こえる呼吸音に、キルアは目を閉じ、安堵の表情を浮かべた。くぐもっていて、周囲を警戒しているのか囁くような小さな声だった。電話の向こうで、ステラは自嘲気味に笑って言った。



「……キルア……。私、監禁されてるの……」



キルアの瞳が一瞬にして鋭さを増し、電流が体を駆け巡るのを感じる。指先から静電気が走り、携帯を握る手に力が入った。立ち上がりながら、頭の中で最短ルートを描き始めていた。どんな敵でも、ステラを傷つける者には容赦しない。



「誰だ...…誰がお前を? 場所を教えろ、今すぐ助けに行く。待っていろ...…必ず連れ戻す」

「場所はわからないの……でも……監禁したのは───」



そこでステラの声が途切れる。微かに鎖の音がしたあとに電話は切れた。キルアの顔が青ざめ、電話を強く握りしめる。頭の中でステラの声と鎖の音が反響している。



「クソッ!」



彼はポケットに電話を滑り込ませると、すぐに動き出した。誰かがステラを奪ったという事実が、胸に激しい痛みを走らせる。



「誰であろうと許さない。ステラは俺が守るって決めたんだ」