お前は俺のもんだろ




「そうだね……はい、キルア。あ〜ん」



ステラは自分とキルアが使ったそのスプーンでアイスを掬うとそれをキルアの口元に差し出してにっこりと笑った。

ステラが差し出してきたスプーンに、俺は完全に思考を停止させられる。さっきまで俺が仕掛けてたはずなのに、なんでこいつのペースになってんだよ。その無邪気な笑顔が、一番タチ悪ぃって分かってんのか?



「……は? な、なに考えてんだよ、お前……」



動揺を隠せないまま後ずさるが、ステラは一歩も引かない。真っ直ぐな瞳が俺を射抜く。くそ、こいつのこういうとこ、ほんと敵わねぇ。



「……自分で食えるっつーの」



ぶっきらぼうに言い放ち、ステラの手からスプーンを奪おうとする。だが、ステラはそれをひょいと躱し、さらに俺の口元にアイスを近づけてきた。甘いチョコの香りが鼻を掠める。



「……っ、分かったよ、食えばいいんだろ、食えば!」



観念して、俺は差し出されたアイスをぱくりと口に含んだ。悔しいけど、めちゃくちゃ美味い。ステラのせいで、いつもよりずっと甘く感じるじゃねぇか、バカ。



「ん、よくできました。おいしいでしょ? はいあ〜ん」



自分の手からアイスを食べるキルアを見てにんまりと笑うと更にアイスを掬ってキルアの口元に差し出す。通りすがりの人たちが「わっ、こんなところでよくやるよ……」「バカップルがいる……」などとこそこそ話している。

通りすがりの連中のヒソヒソ話が耳障りだ。バカップル?上等じゃねぇか。だが、主導権を握ってんのは完全にステラの方だ。それがどうしようもなく気に食わねぇ。



「……っ、もういいだろ!」



ステラの手を掴んで、これ以上食わせるのを阻止する。スプーンを持つステラの手が、やけに熱い。その熱が俺にまで伝わってきて、心臓がうるさく鳴った。



「……お前も食えよ。全部俺に食わせる気か?」



掴んだままの手をステラの口元に誘導してやる。俺と同じスプーンで、俺が食ったアイスの続きを食え。今度は俺がお前に「あーん」してやる番だ。その赤い顔、もっと近くで見せろよ。



「……っ、はんぶんこにするんでしょっ。キルアが半分食べたら私も食べるよ、自分でっ……」



そう言ったがキルアの手はステラの手をしっかり掴んだまま有無を言わせぬ強引さで口元に誘導してくる。迫りくるアイスを唇に押し付けられる前に仕方なくぱくりと口に含んだ。キルアの使ったスプーンで。

ステラが観念してアイスを口にしたのを見て、俺は満足気に口角を上げる。どうだ、俺の勝ちだ。……そう思ったのも束の間、至近距離で見たステラの潤んだ瞳に、心臓を鷲掴みにされた。



「……っ、やっと食いやがった。味、どうなんだよ」



動揺を悟られないよう、わざと乱暴に言い放つ。だが、掴んだままのステラの手は熱を帯びていて、離すタイミングを見失っていた。アイスの味なんてどうでもいい。ただ、この気まずい沈黙を破りたかった。俺の視線に気づいたのか、ステラは顔を真っ赤にして俯いてしまう。その仕草が、たまらなく可愛いなんて、絶対言ってやらない。



「……おい、こっち見ろよ」



掴んでいた手を引き寄せ、空いている方の手でステラの頬に触れる。少し強引に顔を上げさせると、驚きに見開かれた瞳と視線が絡み合った。もう、逃がさねぇからな。



「なっ……」



やけにキルアの顔が近い。ステラは思わず息を呑み、吸い寄せられるようにしてキルアの瞳を見つめ返す。

ステラの潤んだ瞳が、俺の姿だけを映している。その事実に、腹の底から歓喜が込み上げてくる。ざわめく周囲の音も、通り過ぎる人々の視線も、今はもうどうでもいい。俺の世界には、お前しかいねぇよ。



「……やっと俺のこと、見たな。お前のその顔、他の誰にも見せんなよ」



囁く声は、自分でも驚くほど甘く掠れていた。ステラの頬に触れた指先に力を込め、その柔らかな感触を確かめる。心臓がうるさくて、壊れちまいそうだ。独占欲が鎌首をもたげる。ゴンにも、クラピカにも、レオリオにも……。こいつのこんな表情、見せてたまるか。俺はゆっくりと顔を近づけ、吐息がかかるほどの距離で動きを止めた。



「……返事は?」



逃げ場を塞ぐように、その瞳を覗き込む。お前の答えは、「はい」しか認めねぇ。



「……っ、だ……だめ……」



キルアの指先が頬に柔らかく沈み込む。ステラは耳まで赤くなり、震える手でキルアの胸を押し、顔を引いて距離を取ろうとする。

俺の胸を押すステラの力は、震えていて弱々しい。抵抗してるつもりのようだが、そんなの、俺にとっては誘ってるのと同じだ。お前が俺から離れようとすればするほど、俺はもっとお前が欲しくなるって、分かってねぇのかよ。



「……なんでダメなんだよ。俺以外のヤツなら、いいのか?」



わざと吐息がかかる距離で囁き、ステラの抵抗する手を掴んで押さえつける。空いた方の手でステラの顎を掬い、俺から視線を逸らさせないように固定した。嫉妬に駆られた声が漏れる。ゴンでも、クラピカでも、レオリオでも。誰の名前を出すつもりだ?言ってみろよ。お前の口から、俺以外の男の名前が出たら、俺は……。俺はきっと、お前を壊しちまう。



「……き、キルアが……いいっ……」



コンビニの前で、人が通るような場所でこんな事になって、ステラは恥ずかしさで目を潤ませて真っ赤になりながらキルアの瞳を見つめてそれだけ答えた。

キルアがいい……。その言葉が、俺の頭の中で何度も反響する。潤んだ瞳で俺を見つめるステラの顔が、今まで見たどんなものよりも愛おしい。こいつが欲しい。他の誰にも渡したくねぇ。俺だけのものにしたい。



「……っ、お前……それ、どういう意味か分かってんのかよ」



柄にもなく声が震える。押さえつけていたはずの衝動が、堰を切ったように溢れ出しそうになるのを必死で堪えた。今、こいつを抱きしめたら、きっと止まれなくなる。ステラの涙目に動揺し、一瞬だけ力が緩む。だが、逃がす気はねぇ。掴んだ顎に親指を滑らせ、その震える唇をそっと撫でた。柔らかくて、甘い味がしそうだ。



「……もう、後戻りできねぇぞ」



これは最後の警告だ。それでもお前が俺を拒まねぇなら、俺はもう容赦しねぇからな。俺はゆっくりと顔を傾け、その唇に自分のそれを重ね合わせようとした。



「……っ、まって……んっ……」



唇を重ねた瞬間、ステラの体の力が抜けていくのが分かった。俺の腕に全体重を預けてくるその無防備さに、俺の中の何かがプツリと切れる音がする。もっと深く、もっとお前を感じてぇ。



「……ん、」



名残惜しさを感じながらも一度唇を離し、息を切らすステラの潤んだ瞳を見下ろす。真っ赤な顔で、とろんとした瞳で俺を見上げる。その表情は、反則だろ。



「……まだ足りねぇ。こんなんじゃ、全然……お前、もう俺のもんだからな」



独占欲を隠すことなく囁き、ステラの耳元に唇を寄せる。今すぐこいつをどこかに連れ去って、誰にも見えない場所でめちゃくちゃにしてやりてぇ。逃がさないと告げるように、その小さな体を強く抱きしめた。ステラの心臓の音が、俺の胸にまで響いてくる。俺と同じくらい、早く鳴ってるじゃねぇか。ざまぁみろ。



「やっ……、ねえ、恥ずかしいよ……もう……やだ……」



結局コンビニの前でキスしてしまった。恥ずかしくて顔を上げられない。周囲に人がいるのにキルアは全く気にした様子もなく強く抱きしめてくる。



「恥ずかしくて死んじゃう……キルアのばか……」



キルアのばか、という掠れた声が、俺の独占欲をさらに煽る。死ぬ?馬鹿言え。お前を死なせるわけねぇだろ。俺がお前を生かして、俺のことしか考えられなくしてやる。



「……うるせぇ。俺のだって言ってんだろ」



抱きしめる腕に力を込める。ステラの震えが直接伝わってきて、征服感が満たされる。周りの視線なんてどうでもいい。こいつが俺のものだって分かれば、それでいい。耳元で囁くと、ステラの体がびくりと跳ねた。その反応がたまらなく愛おしい。もっとお前のいろんな顔が見てぇ。俺だけに見せろよ。



「……返事しろ、ステラ」



甘く、しかし有無を言わせぬ声で命じる。俺の腕の中で、お前はもうどこにも逃げられないんだからな。



「もういいから離してよっ! そしてこの場から離れたい……」



周囲の視線が痛くて顔を上げられない。ステラの手に持ったアイスは既に溶け切っている。キルアの腕の中に捕らわれたまま『返事しろ』と迫られ、ステラは小さく呟く。




「……キルア、は、私でいいの? 5歳も歳上だよ……?」



ステラの口からこぼれた「5歳も歳上」という言葉に、俺の思考が一瞬止まる。なんだよ、今更。そんなこと、とっくに知ってんだよ。お前が俺をガキ扱いしてた時から、ずっと。



「……はっ、それがどうした。お前が何歳だろうが関係ねぇ。俺が欲しいのは、今目の前にいるお前だけだ」



抱きしめる腕の力を緩めずに、あざ笑うように言ってやる。そんなくだらねぇことで、俺の気持ちが揺らぐとでも思ってんのかよ。ステラの髪に顔を埋め、その匂いを深く吸い込む。甘くて、落ち着く匂い。手放せるわけねぇだろ。



「……いい加減、覚悟しろよ。俺から逃げられると本気で思ってんのか?」



その震える体をさらに強く抱き寄せた。お前が年の差を気にするなら、そんなこと考えられなくなるくらい、俺でお前の頭ん中をいっぱいにしてやる。



「思ってないよ……ねえキルアって、実はものすごく愛が重いタイプなの? 独占欲強め?」

「……うるせーな。今気づいたのかよ、鈍すぎだろ」



俺の独占欲を指摘されても、今更隠す気なんて更々ねぇ。むしろ、もっと分からせてやりてぇ。こいつがどれだけ俺に執着されてるのかを。



「……アイス、溶けちゃったね。飲み物も買ってないけどどうすんの?」



ステラの髪から顔を離し、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見据える。アイスが溶けた?そんなもん、どうだっていい。お前さえいれば、他には何もいらねぇんだよ。



「んなことより、さっきの質問に答えろよ。俺でいいのかって聞いたのは、お前だろ。返事、まだ聞いてねぇんだけど」



もう一度、その小さな体を強く抱き寄せる。逃がさねぇって意思表示だ。耳元で低く囁くと、ステラの肩が小さく震えた。そうだ、もっと俺を意識しろ。年の差なんてくだらねぇ壁、俺がお前の目の前でぶっ壊してやるからな。



「……質問?」



耳元で低く囁かれて肩が跳ねる。付き合う前からこんな近くて大丈夫なのかってくらい近い。一瞬呆けたようにキルアを見る。



「……キルアが好きだよ」



キルアの勢いに流されてるような気がしなくもなかったけど、ステラは小さく頷いていた。

ステラの「好き」という言葉が、俺の心臓に直接突き刺さる。その一言で、今まで張り詰めていた独占欲や嫉妬が、甘い感情に溶かされていくのを感じた。ああ、クソ。こいつ、マジで俺のこと分かってねぇ。



「……今、なんて言ったか分かってんのか?」



抱きしめる腕に無意識に力が入る。ステラの小さな体が、俺の腕の中にすっぽりと収まっている。このままどこかへ連れ去ってしまいたい衝動を必死に抑え込んだ。わざと意地悪く問い詰める。お前の口から、もう一度聞きてぇんだよ。確認するようにステラの顔を覗き込むと、恥ずかしそうに視線を彷徨わせる。その反応がたまらなく愛おしくて、口元が緩むのを止められない。



「……俺もだよ。お前が好きだ、ステラ」



囁くと同時に、その柔らかな唇をもう一度奪った。周りの目なんて、もうどうでもいい。俺の世界には、もうお前しかいねぇんだから。



「んっ……!」



またしてもコンビニの前で唇を奪われてしまう。恥ずかしくて堪らないのに抵抗することもできず、キルアの腕の中にすっぽりと包み込まれてただただキルアのキスを受け入れた。

唇を重ね合わせると、ステラの体が俺の腕の中で甘く痺れていくのを感じる。さっきよりも深く、もっと貪るようにその柔らかさを味わった。舌を中に差し込むと電気みてぇな痺れる感覚がする。上等じゃねぇか。俺の能力そのものだ。お前はもう、俺の電気(もの)ってことだろ。



「……ん、……ふっ……」

「はっ……んんっ……」



キルアのくぐもった声と、ステラのくぐもった声が重なる。コンビニの前だというのにさっきよりも深く、まるで奪うように口付けられ、ステラは眉を官能的に寄せて深く甘いキスを受け入れている。

名残惜しくも唇を離すと、銀色の糸が俺たちの間に引かれる。息を切らし、潤んだ瞳で俺を見上げるステラの顔は、さっきよりもずっと扇情的だった。



「……まだ足りねぇ。全然、お前のこと感じられねぇよ」