きっとあの子はお菓子で出来ている




ハンター試験後、久しぶりにゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ステラで集まってボーリングをする事になった。



「久しぶり! クラピカ〜!」

「のわっ!」


ステラはクラピカに飛びつき、クラピカは驚いたものの微笑みを浮かべて「ステラは相変わらず元気だな」と受け止めていた。ステラとクラピカが仲良さそうに話しているのを、少し離れた場所から腕を組んで見ていた。



「……ったく、あいつは相変わらずだな」



そう小さく呟く声には、呆れと少しばかりの嫉妬が混じっている。ゴンが「キルアも混ざろうよ!」と背中を押すが、素直になれない。



「るっせーな。別に羨ましくなんかないっつーの」



少し顔を赤らめながらも、チラチラとステラの方に視線を送ってしまう。二人の輪に入りたい気持ちと、照れ臭さがせめぎ合っているようだ。ステラはクラピカの手を引いて二人並んで椅子に座る。それからゴンとキルアとレオリオに手を振った。



「また皆とこうして集まれるなんて嬉しいな!」

「ああ! ステラは相変わらずクラピカ大好きっ子だよなァ、見てて妬けちまうぜ」



レオリオはそう言って肩を竦めた。



「まあね! 懐いてるからね! ふふっ、ゴンとキルアも相変わらず仲良しだね」



レオリオとステラの会話が聞こえて、思わず顔をしかめる。



「別に……。こいつが勝手についてくるだけだって」



横にいるゴンを肘で軽くつつきながら、ぶっきらぼうに答える。ステラがこっちを見ていることに気づき、慌てて視線を逸らした。



「それより、さっさと始めようぜ。ボーリングなんて久しぶりだし、俺が一番に決まってんだろ」



強気な言葉とは裏腹に、ステラの隣にいるクラピカを意識してしまう。負けず嫌いな性格に火がつき、ステラにかっこいいところを見せたいという気持ちが湧き上がってきた。



「あははっ、確かに! キルアボーリング得意そうだよね。がんばれ〜!」



トップバッターはキルアということでステラはキルアに声援を送る。自分に向けられたステラの声援に、キルアは少し照れくさそうに頭をかく。



「へっ、当たり前だろ。ゾルディック家の修行に比べたらこんなの余裕さ」



ボールを手に取り、レーンに向かって立つと、真剣な表情に切り替わる。キルアは軽やかな動きでステップを踏み、鋭い目線でピンを狙い定めた。



「見てろよ、ステラ。スペアなんかじゃ終わらせないからな!」

「見てるよ〜!」



キルアの投球を、全員が見守っていた。キルアは集中力を高め、その指先から微かな電気がパチパチと音を立てた。



「いくぜ……神速(カンムル)!」



冗談めかしてそう呟くと、彼の腕がしなり、ボールは稲妻のような速さでレーンを疾走する。轟音と共に全てのピンが弾け飛んだ。



「な、ストライクだ。次はステラ、お前の番な」

「すっごーい! キルアかっこい〜!」



ステラは立ち上がって拍手を送り、キルアが来るとハイタッチをしようとする。キルアはステラのハイタッチに応え、少し照れながらも嬉しそうな笑みを浮かべた。その頬には微かな赤みが差している。



「ま、こんなもんさ。本気出したらもっとすごいところ見せられるけどな」




彼はそう言いながらステラの方をちらりと見て、少し小声で付け加えた。



「お前も頑張れよ。応援してるからな」

「うん! ありがとうキルア! よーしいくよー! クラピカ〜! 見ててね〜!」

「ああ、見てる。頑張れ、ステラ!」

ステラは一度振り返りクラピカに見てもらいたい一心で手を振る。クラピカは笑顔で応えた。レーンに向かって立つと真っ直ぐに前を見る。軽くステップを踏んで投球したボールが軽やかにピンを倒していく。二つ残ったピンを二回目で倒してスペアを決めた。

キルアは思わず立ち上がり、両手を上げて喜んだ。ステラのスペアに心から嬉しそうな表情を浮かべている。



「おお! すげえじゃねーか! スペア決めるなんて!」



彼はステラが戻ってくると肩を軽く叩き、親指を立てて見せた。目は確かに喜びで輝いていた。



「初めてにしちゃ上出来だぞ。こりゃ俺も本気出さないとな。次はゴンの番か? あいつどんな投げ方するか楽しみだな」

「ありがとう! 嬉しいよ〜!」



ステラはクラピカの隣に戻るとクラピカとハイタッチをした。



「よくやった、ステラ。私も負けてられないな」

「クラピカはクールに決めそうだよね!」



ゴンは強化系らしくパワフルかつ豪快にボールを投げ、飛びすぎたボールが壁を破壊して飛んでいった。キルアは目を丸くして口をポカンと開けたまま、壁に空いた穴を見つめている。一瞬の沈黙の後、彼は爆笑した。



「おいおいゴン! ボーリングの壁まで壊すなんてお前らしいぞ! 強化系バカめ!」



彼はステラの方を見ると、困ったように肩をすくめながらも楽しそうに笑みを浮かべた。



「これ、店の人に弁償させられるよな……まぁ、ハンター試験より安上がりか」

「あははっ! うん、やる気はしてたよ。ゴンらしいよね」

「相変わらずだな、ゴンは」

「次はクラピカだよ! 見てるからね! もうまばたきもしないから!」



クラピカはくすっと微笑んでレーンに立つ。キルアはステラの熱心な様子を見て、にやりと笑う。同時にゴンの破壊力を思い出してクラピカに警告するように声をかける。



「おい、クラピカ! ステラがちゃんと見てるって。ゴンみたいに建物破壊とかせず、かっこよく決めろよ!」



キルアはステラの横に滑り込むようにして座り、小声で囁く。



「でもさ、クラピカの方が器用だから、きっとストライク取るぜ。賭けてもいい? 負けたら俺のチョコロボあげるよ」

「ん? うん当たり前だよ! クラピカだもん。クールにストライク決めるに決まってるじゃん! 賭けるって……どっちもクラピカがストライクに賭けたら意味ないんじゃ?」



ステラは隣に滑り込んできたキルアにキョトンとする。それからクラピカを見つめる。



「クラピカ〜! 頑張って〜!」



キルアはステラの言葉に一瞬ぽかんとした表情をし、それから額を軽く叩いた。



「あ、そっか! そりゃそうだよな。じゃあ俺は...…クラピカがミスするって賭けるよ。負けたら俺のチョコロボ全部あげる!」

「ええっ? いいの? 絶対クラピカストライク取るのに……。キルアの大好きなチョコロボ…私もチョコロボ好きだから嬉しいけど」

「チョコロボはまあ、ステラが喜ぶなら別にいいよ」



クラピカはボウリング球を両手で持ち、集中力を高めている。キルアはそれを見て、ステラの肩にひじで軽く触れた。



「でも見ろよ、あの真剣な顔。怒らせたらマジでヤバいタイプだけど、こういう時のクラピカってなんか好きだよな」

「うん、すっごくかっこいいよね! あの真剣な顔! キルアもそう思う!?」



ずいっとキルアに迫りながら力強く頷く。キルアは少し頬が赤くなり、ステラが近づいてきたことに慌てて後ずさる。



「お、おう……かっこいいっちゃかっこいいけど」



ちらっとステラの表情を見てから、急いでクラピカに視線を戻す。



「それにしても、クラピカの集中力って凄いよな。俺たちがこんなに騒いでるのに、全然気にしてないし……ほら、いよいよ投げるぞ!」



クラピカは正確にボールを投げ、ストライクを決めた。



「きゃー! クラピカー! かっこいーよー!」



ステラはキルアのときと同じように立ち上がって拍手を送り、戻ってくるクラピカとハイタッチをする。クラピカは自分が座ってたところにキルアが座っているのをちらりと見たあと、別の椅子に座った。



「やっぱりストライクだったね! キルア!」



キルアは大げさに肩を落とし、ポケットからチョコロボの箱を取り出した。しかし、その表情は不思議と嬉しそうだ。



「やっぱりな。クラピカはこういうの得意だよな。約束通り、はいチョコロボ。全部あげるよ」



箱をステラに手渡しながら、クラピカに向かって拍手を送る。



「さすがクラピカ! 冷静沈着で流石だぜ。でもステラがそんなに喜ぶなら、俺のチョコロボ全部なくなっても惜しくないよ」

「わあっ、ありがとうキルア。じゃあさ、チョコレートじゃないけど私のお気に入りのキャンディあげる!」



チョコロボを嬉しそうに受け取るとステラもポケットからキャンディを取り出して数個、キルアに渡した。キルアは驚いた表情でステラからのキャンディを見つめ、両手を差し出して受け取る。



「おっ、これ見たことないキャンディだな。どんな味なんだろ? ……うっま! これやばいな、ステラのお気に入りってだけあるぜ! 俺も気に入ったよ」



好奇心いっぱいの表情で一つ開け、口に入れた瞬間、目をぱっと大きく見開く。レオリオが準備を始める様子を見ながら、キルアはゆっくりとキャンディを味わっている。



「これだよー、おいしいでしょ?」



ステラの出したキャンディのパッケージには『魔法のようにため息まで可愛くなるキャンディ、ベリーベリーローズ味』と書いてある。キルアは思わず「ベリーベリーローズ味」の包み紙をもう一度確認し、顔をしかめた。



「うっ...…こんな乙女チックな名前のキャンディ食べてたのかよ! でも、まあ...…美味いからいいけどさ」



そう言いながらも、もう一つキャンディを口に入れる。



「えーっ、なによー。乙女チックな名前って! 可愛いし美味しいもん」



ステラはキルアの反応に不満げだ。しかしキルアはステラに少し体を寄せ、こっそり声を潜める。次の投球者に目を向けた。



「次はレオリオか? あいつはまた別の意味で面白いことになりそうだな。壁は壊さないだろうけど、自分の足でも踏みそうだ」

「ふふっ。私は、滑って転ぶ! に賭けようかな」

「滑って転ぶかぁ...…確かにありそうだよな。でもさ、意外と真面目に決めたりして。レオリオって時々そういうギャップあるし」

「確かに意外とストライク決めるかも……そしたらストライク取ってないの私だけになっちゃうね」

「でも転んだら絶対笑うよな、俺たち。そしたらまた医者の威厳がどうのって怒るんだろうな」



レオリオは準備運動をしている。レオリオの方を見ると、彼は妙に力んだ様子で準備運動をしていた。



「おいおい、あいつ気合い入れすぎだろ。肩凝らせてるし...…あれはやばいな」



キルアはステラに小声で囁く。



「見てみろよ、レオリオ、ボールを持つ手が震えてる。あ、これはマジで...…」



言葉が終わらないうちに、レオリオがボールを持って前に踏み出した瞬間、足がもつれて前のめりに。ボールは手から離れ、天井に向かって飛んでいく。



「うわっ! 逃げろ!」

「キャー!」



天井にぶちあたったボールはそのまま跳ね返ってレオリオの頭に落ちた。



「れ、レオリオ!」



ステラは慌てて立ち上がる。キルアは笑いをこらえきれず、チョコロボを置いて両手で腹を抱えた。



「ぷはははっ! 自分の頭に直撃とか最高のオチだ! おい、レオリオ、大丈夫か? 医者なのに自分が患者になっちゃったぞ!」



しかし、ステラが心配そうに立ち上がるのを見て、キルアも少し態度を改める。



「あー...…でもマジで大丈夫かな。頭固いとは思うけど...…おい、何本指に見える?」



キルアは席を立ち、頭を押さえるレオリオに近づいた。それからそっとステラの方を見て、小声で付け加える。



「それと...…ベリーベリーローズ、悪くないよ。美味いし...…可愛いのは...…ステラに似合ってるよ」

「良かった、大丈夫そうだね」



ステラもそっとレオリオに歩み寄り、ハンカチをペットボトルの水で濡らしてレオリオに差し出した。



「……そ、そう? でもこれ美味しいだけじゃなくてため息まで可愛くなるんだよ。ほら。すごいでしょ?」



キルアに吐息がかかるくらい顔を寄せる。キルアは突然近づいてきたステラの顔に一瞬たじろぎ、頬が赤くなるのを感じた。



「お、おい...…急に近づくなよ」



ステラの吐息が彼の顔にかかり、かすかに甘い香りがする。キルアは思わず息を止めた。



「た、確かに...…いい匂いする...…けど」



慌てて少し距離を取ろうとしたとき、レオリオの大声が響いた。



「おい! 二人とも! いちゃつくのはそこじゃねえだろ! 俺が痛い思いしてるのに!」



キルアはすかさず反撃する。



「うるせえな! 看病してるんだよ。それより、そのボールの投げ方は何だったんだよ。ゴンでも笑うレベルだぞ」



周りの笑い声の中、キルアはステラに小声で。



「まあ...…次は俺の番だな。ちゃんとストライク取って見せるよ」

「えっ? いちゃついてないよ、そうだ、レオリオも試す?」



ステラはキャンディをレオリオにも差し出す。レオリオはステラの手ごとキャンディを受け取った。



「キルアならもう全部ストライク取っちゃいそうだね! 見てるから頑張ってー!」



ステラはキルアに手を振って見送った。キルアはレオリオがステラの手に触れるのを見て、何故か胸のあたりがムズムズする感覚に戸惑った。



「おいおい、手ごと取るなよ、医者のくせに」



そう言いつつも、ステラが自分に期待を寄せる言葉に背筋が伸びる。ボールラックから気に入りの一つを選び、レーンに向かう。



「ストライク取ってやるぜ。見てろよ」



キルアは集中し、電気を帯びたような精度でボールを放つ。ピンが見事に全て倒れる様子に、会場からどよめきが起こった。



「ほら見ろ、簡単だろ?」



振り返ると、ステラが拍手して喜んでいる姿が目に入り、普段の冷静さを忘れて思わず笑顔になる。



「さすがキルア〜! かっこいい!」



ステラは笑顔で拍手を送った。レオリオの看病から戻ったステラはクラピカの隣に座っていた。クラピカも笑顔で「さすがだなキルア」と言って拍手を送っている。キルアは満足げに両手を軽く上げ、肩をすくめる。ステラの笑顔と拍手が嬉しくて、つい得意げな表情になる。



「へへっ、これくらい余裕だぜ。暗殺の訓練で投擲は完璧に仕込まれてるからな」



レーンからステラとクラピカの方へ戻りながら、キルアはさりげなくステラの隣の席を目で探す。しかし、すでにクラピカが隣に座っているのを見て、少し残念そうな表情を一瞬浮かべた。



「クラピカも褒めるなんて珍しいな。次はお前の番じゃねーか?」



ソファに腰掛け、チョコロボを一つ口に放り込む。ステラの方をちらりと見る。



「ステラ、お前も次やってみろよ。コツ教えてやるから」

「いや、次はステラの番だな」

「よーし私もストライク取りたいな……。キルア教えてくれる?」



ステラはクラピカの隣から席を立ち、レーンに向かっていきながらキルアを振り返る。キルアはステラの言葉に待ってましたとばかりに立ち上がり、にやりと笑った。



「おう、任せとけって。俺が直々に教えてやるよ」



レーンに向かうステラの後ろに回り込み、キルアはボールの持ち方から教え始める。



「まずボールの穴に指を入れるだろ? 親指、中指、薬指だ。で、腕の力だけじゃなくて、体全体の力を使うイメージで……」



キルアはステラの手をそっと取り、正しいフォームに導く。その距離の近さに、ステラから香るベリーベリーローズの甘い香りがして、キルアは少しドキッとする。キルアはステラの耳元で囁くように続けた。



「……こう、腰を少し落として、狙いを定めて……まっすぐ振りかぶるんだ。大丈夫、俺がついてる。お前なら絶対ストライク取れるよ」



ステラはキルアに教わった通りに投球し、ストライクを決めた。



「きゃー! やったー! 嬉しい! キルアありがと〜! キルアのおかげだよ!」



ステラは嬉しさのあまりにキルアに抱きついた。突然のことに驚いて一瞬体が固まるが、ステラの弾むような声と嬉しそうな笑顔を見て、自然と口元が緩む。



「……っ! お、おう。言っただろ? お前ならできるって」



腕の中で喜ぶステラの体温を感じ、キルアの心臓が少し速く脈打つ。そっと背中に手を回しかけたが、レオリオたちの視線に気づいて慌てて止めた。



「ま、まあ、俺の教え方が良かったからな!」



キルアから体を離して嬉しそうに笑いながらクラピカにも抱きついた。



「クラピカ〜! 今の見た? 私もストライク決めたよ!」



クラピカはステラの頭を撫でながら優しく微笑んで「そうか、良かったな」と言った。さっきまで自分に向けられていたはずの笑顔と温もりが、今はクラピカに向けられている。その光景に、キルアは胸の奥がチリっとするのを感じた。



「……別に、教えたのは俺なんだけど」



聞こえるか聞こえないかくらいの小声で呟き、面白くなさそうに頬を膨らませる。クラピカがステラの頭を撫でるのを見て、無意識にポケットのチョコロボを握りしめていた。



「な、なんだよ。お前ら、仲良いんだな」



そっぽを向きながらぶっきらぼうに言う。だがすぐにステラの方を向き直り、わざと明るい声を出した。



「ま、とにかくストライクおめでとう!」



レオリオがキルアの顔を見てニヤニヤしながらわざとらしくステラの肩を抱き寄せた。



「おめでとさん! いや〜やっぱマヤのセンスがいいからだな!」

「ううん、キルアが教えてくれたからだよ! ねっキルア!」



レオリオのわざとらしい腕とニヤついた顔に、キルアの眉がピクリと動く。しかし、ステラが自分を見てくれたことに気を良くし、すぐにいつもの調子を取り戻した。レオリオからステラの肩を自然に引き離し、自分の隣に立たせる。



「……当たり前だろ? 俺の教え方が完璧なんだからな。お前らとはセンスが違うんだよ、センスが。な、ステラ?」



そう言ってステラの顔を覗き込むと、満足そうに笑う。そして、レオリオに向かって挑発的に言い放った。



「それよりレオリオ、お前さっき天井にボールぶつけてただろ。もう一回やるか? 次はガターに賭けてやるよ」



レオリオはキルアの挑発に眉を寄せ、青筋を浮かせた。



「言ったな? よーしステラこっちへ来い」



そう言ってわざとステラの腕を引き寄せ、そっと屈んで目を合わせながら「ステラ、キルアの隣じゃなくて俺の隣に座らないか? なーに、ちょっとでいいんだって」とキルアを煽る。クラピカは一連の騒動には我関せず、涼しげにレーンに立っていた。

キルアはレオリオがステラの腕を引くのを見て、カチンと頭に血が上るのを感じた。さっきまでの上機嫌はどこかへ消え、その顔からは笑顔が消える。



「おい、レオリオ。ステラに触んな」



低い声で言い放つと、キルアはレオリオとマヤの間に素早く割り込み、マヤの腕を掴んでいたレオリオの手を、子供の手を払うかのように軽く、しかし有無を言わせぬ力で弾いた。



「ステラは俺の隣だ。な?」



そう言って、今度は自分がステラの腕を引き、有無を言わさず自分の隣に座らせる。その瞳には、普段は見せない独占欲のような光が宿っていた。



「お前はまず、ボールをまっすぐ投げる練習から始めろよ。話はそれからだ」

「う、うん……」



キルアの有無を言わせない態度に面食らい、頷くステラ。しかしそんなキルアを見たレオリオはニヤニヤしていた。そして「挑発に乗ったな? そんな独占欲、剥き出しな顔しちゃってよ」と言った。その頃クラピカはゴンから「違うよクラピカ、次はオレの番!」と言われ、勘違いに少し顔を赤くしながら席に戻っていた。

レオリオの指摘に図星を突かれ、キルアは一瞬言葉に詰まる。耳がカッと熱くなるのを感じ、それを誤魔化すようにわざと乱暴にチョコロボの箱を開けた。



「……うるせえな! 別に独占欲とかじゃねーよ。ステラが変なオッサンに絡まれてたから助けてやっただけだ」



拗ねたように言い返し、ステラの手のひらにチョコロボを数個乗せる。



「ほら、ストライクのご褒美。……俺からな」



その仕草は、レオリオやクラピカではなく、自分だけの特別な繋がりを主張しているようだった。満足げにステラの隣に座り直し、レオリオを睨みつける。



「それより、ゴンが投げるぞ? また壁に穴開けんじゃねーぞ、ゴン」



ゴンは手を振って「大丈夫だよ! 今度こそ!」と言ってボールを投げた。轟音を立てながらピンが倒れたが1本だけ残り、悔しげな顔をする。



「ありがとう。ねえキルア、独占欲って……なに?どういう意味なの?」



ステラはチョコロボを食べながら問いかける。レオリオがすかさずステラの前に立ち、「それはな……」と教えようとする。キルアはレオリオを遮るように足を伸ばし、ボーリングシューズを履いた足でレオリオの前を強引にブロックした。レオリオが「おい!」と抗議するのも無視して、ステラの質問に向き合う。



「そういうのはレオリオみたいなオッサンの知ったような解釈より、自分で感じた方がいいんだよ。わかるか?」



そう言いながらも、キルアは少し困ったように髪をかき上げる。言葉の選び方に気をつけるように、ゆっくりと口を開いた。



「独占欲ってのは……まあ、大事なものを自分だけのものにしたいって気持ちかな。例えば、このチョコロボを他の誰にも渡したくないみたいな」



そう言いながら、ステラの手元のチョコロボを指さし、少し照れくさそうに視線を逸らす。



「……べ、別に何でもないからな。次はクラピカの番だぞ」

「それお前キルア……ほぼ告白してるみたいなもんじゃねーか?」



レオリオがそう言って、ステラが驚いた顔をする。



「えっ!? キルアって……もしかして、私のこと……」



ステラはキルアの顔を見て少し言いにくそうに言葉を詰まらせる。キルアの顔が見る見るうちに真っ赤に染まる。咄嗟にステラの言葉を遮ろうと手を振り、慌てた様子で立ち上がる。



「ちがっ……! そういうんじゃ……! お前なぁ……! 余計なこと言いやがって……!」



言葉が上手く出てこず、困惑した表情でレオリオを睨みつける。キルアは拳を握りしめるが、ステラの困惑した顔を見て力を抜く。深呼吸をして、少し落ち着いた声で話し始める。



「ただの……友達だろ、普通に。特別な……友達、かな」



最後の言葉は小さく、ほとんど聞こえないくらいの声で。レオリオが「そりゃねぇ〜」と茶化すのをゴンが「キルア、顔真っ赤だよ!」と指摘し、場の空気がさらに複雑になる。



「えっと……キルアは、さ……もしかして……」



それでもステラはキルアの顔を見て少し言いにくそうにしながらも言葉を続ける。



「……私のこと、チョコロボだと思ってるの?」



レオリオとクラピカとゴンが盛大にズッコケた。



一瞬、場が凍りついた。キルアはステラの言葉の意味を理解するのに数秒を要し、やがてその顔から一気に赤みが引いていく。



「は……?」



唖然としてステラを見つめる。レオリオたちのズッコケる音も耳に入らないほど、その思考は完全に停止していた。



「……なんでそうなるんだよ! 俺がお前を食い物だと思ってるってことか!?」



ようやく状況を理解し、信じられないというように叫ぶ。照れも何もかも吹き飛んで、今はただただステラの天然ぶりに翻弄されていた。



「チョコロボは例えだ、たとえ! そうじゃなくて……! ああもう、わかんねーならいい!」



キルアは頭をがしがしと掻きむしり、ソファにどかっと座り込んだ。拗ねたようにそっぽを向きながら、誰に言うでもなく小さく呟く。



「……お前はチョコロボより、ずっと……大事だよ、バカ」

「チョコロボよりも? ……ありがとう、キルア。嬉しいよ。私もキャンディよりもずっとキルアが大事だよ!」



ステラは笑顔で答えた。クラピカは今の一連の流れに引っ張られて少しミスし、スペアを取っていた。レオリオはキルアに憐れみの目を向けながらレーンに向かっていった。

キルアはステラの言葉を聞いて、困惑と恥ずかしさが入り混じった複雑な表情を浮かべる。そんな彼女の天然な返しに、心の中で、どうしてこいつはいつもこうなんだ……と思いながらも、その純粋さに少し救われた気持ちになる。



「キャンディとか……そういう次元の話じゃ……」



キルアは言いかけて諦め、小さく溜息をつく。頭の後ろを掻きながら、少し拗ねたように椅子に深く腰掛ける。



「まぁいいよ。で、スペア取れたんだな。さすがクラピカ……って、お前レオリオよりうまいじゃん」



話題をそらそうとしたものの、ステラが自分の隣に座り直したことで、再び頬が熱くなるのを感じる。キルアは思い切って、小声で続ける。



「……とにかくさ、友達以上のことを考えてるって話なんだよ。分かるだろ?」

「……えっ? 友達以上!?」



さすがのステラも理解した様子でみるみるうちに顔が赤くなっていく。ステラの声に反応したゴン、レオリオ、クラピカが一斉に顔を向けてくる。



「私っ……飲み物買ってくる!」



ステラは慌てて財布をその場に置いたまま逃げるように駆け出していった。キルアはステラが慌てて逃げていく姿を呆然と見送り、その場に置き去りにされた財布に視線を落とした。周囲から注がれる視線に気づき、ゴンたちを睨みつける。



「なに見てんだよ!」



しかし、その顔は真っ赤に染まっていた。レオリオの含み笑いにさらに頬を膨らませる。キルアは立ち上がり、ステラの財布を手に取る。周囲の視線を無視して、自分も飲み物を買いに行くと宣言した。



「もう……バカか、あいつ。財布忘れてったから……届けてくる。誰も来るなよ!」



背を向けて歩き出すキルアだったが、ふと足を止め、振り返らずに小さな声で付け加えた。



「あいつのバカさ加減にはいつも振り回されるけど……それでも、その……まあいいか」



ステラは自販機の前まで来たところで財布がないことに気付き、慌ててあちこちのポケットを叩く。それからため息をつき、今更どんな顔で戻っていいかもわからないのでそのまま立ち尽くした。



「えええ! ……はあ……」



キルアは自販機コーナーでぼんやり立ち尽くすステラの後ろ姿を見つけ、一瞬躊躇した。心臓が早鐘を打つのを感じながらも、決意を固めるように深呼吸する。



「ほら、財布」

「あっ……」



キルアはステラの背後から差し出すように財布を見せる。ステラが振り向いた瞬間、互いの目が合い、二人とも言葉を失った。ステラは呆然としたまま財布を受け取る。



「……なんだよ、その顔。まるで幽霊でも見たみたいだな」



気まずさを紛らわすように、キルアは軽口を叩く。だが、いつもの調子が出ない。



「あのさ……さっきのこと、気にすんなよ。でもな……言ったことは本当だからな。友達以上……まあ、そういうことだ」



キルアは少し間を置き、自分の靴先に視線を落としながら続ける。キルアは思い切って顔を上げ、真っ直ぐにステラを見た。恥ずかしさと緊張が入り混じる表情で。



「あのっ……ききききキルア!」



それからステラも顔を真っ赤にしながらキルアに向き直る。



「私もキルアが好き! ……友達以上に! だから……その……私達……えっと……」



言いにくそうに言葉を詰まらせる。こっそり見に来ていたゴンとレオリオとクラピカも固唾を飲んで見守る。キルアは耳まで真っ赤になり、目をぱちくりさせた。ステラの告白が自分の耳に入ってきた瞬間、心臓が跳ねるのを感じる。その場で固まっていると、後ろからくすくすと笑い声が聞こえてきた。



「お前ら...…見てたのかよ!」



振り返ると案の定、ゴンたちが柱の陰から顔を覗かせている。キルアは慌てて彼らを睨みつけるが、すぐにステラの方に視線を戻す。緊張で喉が乾いた。



「あ...…ありがとな。その...…ステラの気持ち」



少し間を置き、ぎこちない動きで彼女の手を取る。



「じゃあ...…付き合うってことでいいのか?」



そう言いながらも、友人たちが見ている意識で、さらに顔を赤らめる。背後からレオリオの「おーっ!」という歓声が聞こえたが、今はそれを無視することにした。



「うっ……うん……。私達、今日からは……」



ステラは恥ずかしそうに顔を赤らめる。



「大親友ってことでいいのかな?」



柱の陰でゴンとレオリオとクラピカが盛大にズッコケた。キルアの表情が一瞬で凍りついた。ステラの言葉を理解するのに数秒かかり、その間彼の目は虚空を見つめていた。



「大親友...…?」



言葉を反芻するように呟いた声は、絞り出すように小さかった。その後、急に我に返ったように、無理に明るく笑い出す。



「ああ、そうだな! 大親友...…か」



キルアは片手で髪をかき上げ、もう片方の手をポケットに突っ込んだ。柱の陰から聞こえるゴンたちのどよめきを聞き流すように肩をすくめる。



「まあいいさ。大親友でも友達でも何でも。オレたちの関係なんて、そんな名前で簡単に決められるもんじゃないしな。ただ、俺はステラのことを守るよ。それだけは約束する」



キルアはふと真剣な表情になり、ステラの目をまっすぐ見つめた。ステラはそっと近寄り、キルアにだけ聞こえるように耳打ちする。



「……今のは、嘘。だって、ゴン達見てるし…恥ずかしいし……キルアったら何も皆の前で告白しなくても……もう、恥ずかしいよ……ばか……」



赤くなって小声でぼそぼそいいながら少し拗ねたような顔でキルアの顔を上目遣いに見つめる。キルアは一瞬で顔色が変わり、目が丸くなる。ステラの囁き声が耳に入った瞬間、全身に電流が走ったような感覚に襲われた。



「え...…マジかよ...…ったく...…なんだよそれ。人をびっくりさせやがって」



動揺を隠せないまま小声で返す。そして徐々に笑みがこぼれ始め、目元が柔らかくなっていく。安堵と喜びが入り混じった表情で、キルアはステラの肩を軽く押した。背後からはまだゴンたちの視線を感じる。



「じゃあさ...…今度はちゃんと二人きりのときに、改めて話そうか」



そっと彼女の手に触れ、周囲に悟られないように小指を絡める。



「おーい! ゴン! もうボーリング始めるぞ! 見てないで早く来いよ!」