昨日食べたながれ星はあまかった




ゴンとキルアとマヤはハンター試験後、冒険に出ていた。ゴンがステラの手を掴んで走り出す。



「見て! あっちに大きな鳥が飛んでるよ!」

「キルア! はやくおいでよ!」



ステラはゴンに手を引かれて走り出しながらキルアに手を振った。

俺は2人の背中を見つめ、一瞬だけ複雑な感情が胸をよぎった。ステラのピンク色の髪が風になびいている。



「おい、待てよ!」



溜め息をつきながらも、笑みを浮かべて2人の後を追いかける。高く舞う鳥を見上げると、それは思ったより大きかった。



「あんな鳥、ゴンの釣り竿じゃ釣れないぜ。ステラ、アイツの無茶に付き合いすぎだって」



キルアが追いついてくるとステラはキルアの手を取り、ゴンとキルアと仲良く手を繋いで空を見上げた。



「大きい鳥だねー」

「ホントだよねー、流石にあれは捕まえられないや!」



ステラが俺の手を握った瞬間、心臓が大きく跳ねた。ゴンの隣で無邪気に笑うステラの横顔を見つめる。



「……別に、付き合ってやってもいいけどさ。ただし、無茶はすんなよ。お前が怪我したら、俺が困る」



少しぶっきらぼうな口調になったのは照れ隠しだ。繋がれた手の温かさに、顔が熱くなるのを感じる。ゴンの手前、これ以上は言えない。それでも、この言葉に俺の本当の気持ちを込めた。



「……約束だからな」

「うん、ありがとうキルア。気を付けるよ」



二人の会話を聞いたゴンが少し複雑そうな顔でステラとキルアを見る。



「大丈夫だよ! ステラはオレが守ってあげるから」



そう言って笑うゴンに、ステラは少し照れたように笑った。



「へへ……ゴンがそう言うと、どこまでも行ける気がしてくるんだよね」



ゴンの言葉にステラが笑顔で応えるのを見て、俺の胸の中で何かがきりっと締め付けられた。ピンク色の髪が風に揺れる度に、言葉にできない感情が広がる。



「そうかよ……でもな、ステラ。ゴンだけじゃなく、俺だっているんだぜ。お前のそばに」



言葉と裏腹に、俺はステラの手を少し強く握りしめていた。もう片方のステラの手を握りしめるゴンを見たあとに視線を空に戻し、口の端だけで笑う。思い切って言葉にした。風が3人の間を吹き抜ける。ステラの髪の匂いが鼻をくすぐる。



「だからさ……ステラ、俺も……俺もお前のこと……」



言葉が途切れる。ゴンが不思議そうな顔で俺を見ている。その瞬間、勇気が萎んだ。



「……いや、なんでもない。また今度」



ステラはキルアの様子が気になり、声をかける。



「どうしたの、キルア? 何か言いかけたよね?」



しかし、ゴンはステラの手を引いて勢い良く取り駆け出した。ステラもキルアの手を握ったままそれに釣られるようにして走り出す。キルアも一緒に。

見上げた先の鳥はバオバブの実を運ぶギントリだった。ステラの目が輝くのを見て、オレの胸がドキドキする。



「ねえステラ、あの鳥を追いかけてみない? きっと面白いところに連れて行ってくれるよ!」

「うん! 行こうよ! 鳥の巣ってくらいだから木の上にあるのかな?」



ふとキルアの方を見ると、親友の表情に何かを感じた。少し遅れて追いついてきたキルアに向き直る。



「キルア、あの鳥の巣を一緒に探そうよ! 三人で冒険だ!」



ゴンの声に、思わず顔を上げる。ステラの心配そうな瞳が胸に刺さる。さっきの言葉を思い出して、頬が熱くなる。



「別に……なんでもないってば。その鳥、面白そうだな」



ピンク色の髪がステラの肩で踊る。俺の心も同じようにざわついている。でも今は冒険の方が大事だ。



「よーし、行くか! でもゴン、またろくでもない場所に連れていくなよ?」



キルアのその言葉に笑いながら、俺はステラの手をもっとしっかり握った。



「だいじょうぶだよ! 今回は絶対に素敵な場所だって! オレ、ステラが喜ぶ顔が見たいんだ」



ギントリは森の奥へと飛んでいく。オレたちはその後を追いかけ、木々の間を駆け抜けていく。キルアとステラの息遣いを感じながら、なんだか胸がいっぱいになる。



「ステラ、キルア! あそこだ! あの大きな木の上!」



ゴンの指さす先に、光を帯びた巨大な木が見えた。その瞬間、ギントリの羽が太陽に照らされてキラキラと輝いている。ステラの目もそれに負けないくらい輝いていて、思わず見とれてしまう。



「へぇ……今回はマジで凄いな」



ステラの興奮した表情を見て、胸の奥がどきっとした。彼女が喜ぶ姿を見るためなら、どんな冒険だって悪くない。俺はつい、口元に笑みが浮かぶのを隠せなかった。



「行こうぜ、ステラ。あんまりゴンを待たせると、また変なことを始めるからさ」

「ふふ、そうだね! ゴンが変なこと始めたら私とキルアで止めなくちゃ!」



ステラはキルアの手を取りゴンを追いかける。



「待ってよゴン!」



ステラに手を引かれ、思わず走り出す。その小さな手の温もりが、俺の心をかき乱す。ゴンを追いかけるステラの楽しそうな声が、森の中に響き渡った。



「バーカ、俺がいなくてもお前一人で十分だろ」



照れくさくて憎まれ口を叩いてしまう。だけど、繋がれた手は離したくなかった。ステラのピンクの髪が、すぐそばで揺れている。このままずっとこうしていたい、なんて柄にもないことを考えちまった。

木の下から見上げると、大きな葉の間に光が差し込んでいる。キラキラと輝く木漏れ日がステラの髪を美しく照らしていて、オレの胸が高鳴る。



「見てステラ! この木の上には、鳥の巣があるんだ。前にギントリが教えてくれたんだ!」



枝の間から小さな鳥の雛が顔を覗かせる。ステラの目が輝き、キルアも思わず前のめりになっている。



「ね、素敵でしょ? ステラが笑顔になるような場所、オレずっと探してたんだ!」

「わあ! すごい! ありがとうゴン! すごく嬉しいよ。ゴンはこういうのを見つける天才だね!」



ステラは目をキラキラさせながらはしゃいだ。

ゴンの言葉に一瞬だけムッとしたけど、光に照らされたステラの嬉しそうな顔を見ると、なんだか胸がじんとした。あいつらしいよな、こういうの見つけるの。



「へぇ、意外と良い場所見つけたじゃん」



ステラの横顔を見つめていると、ふと彼女が僕の方を向いて微笑んだ。その瞬間、周りの光がより一層明るく感じた。



「でもな、次は俺が連れてくよ。もっとすごいとこ……見せてやるからな」

「ほんと? キルアの好きな場所、私も見てみたい! 三人でいこう!」



ステラはキルアを振り返り嬉しそうに笑う。

鳥の雛に歓声を上げるマステラを見て、オレは嬉しさでいっぱいになる。でも、キルアの言葉にドキッとした。



「オレだって、まだまだすごいところ知ってるぞ! でもキルアも見つけたいなら...…次は一緒に探そうよ! ステラを驚かせるような場所!」



ふと見ると、鳥の親が戻ってきて雛に餌を与え始めた。その光景に思わず笑みがこぼれる。



「ねえステラ、次は三人で森の奥にある湖に行こうよ! オレが釣りで夕飯作ってあげるから!」

「やったあ! 私、魚大好き! そうだ、ゴンが釣ってくれた魚、私も料理するよ! ちゃんとはんごうも持ってきたんだから!」



ステラは張り切って小さな胸を張る。

風がさらりとピンク色の髪を揺らした。ステラの笑顔に、心臓が変なリズムを刻む。湖か...…不思議と悪くない考えだと思った。



「へぇ、ゴンの釣りね。でも、俺だってただじゃ負けないよ。電撃で魚をしびれさせる技、見せてやるよ」



立ち上がって、木漏れ日の中でステラに手を差し出した。このまま、この時間が続けばいいのに。



「行こうか。湖までレースしよ、ゴン。負けた方が夕飯の準備、どう?」



キルアの挑戦的な視線を受けて、オレの闘争心に火がついた。でも、それよりもステラがキルアの手を取るかどうかが気になってしまう。



「望むところだ! 絶対オレが勝つからな! ステラが見てるんだ、負けられないよ!」



オレはステラに向かって手を差し出す。キルアの手と、オレの手。ステラはどっちを選ぶんだろう?



「ステラ、オレと一緒に行こう!」



ステラはゴンとキルアの手を見て困惑している。



「えっ……えっ?」



ゴンの真っ直ぐな視線に、俺の心臓がちくりと痛む。ステラが困った顔で俺たちを見ている。くそっ、こんなつもりじゃなかったのに。



「……ったく、ガキみてーなこと言うなよ、ゴン。ほら、行くぞ。置いてっちまうぞ」



俺は差し出した手を引っ込め、ステラの頭を軽く小突いた。



「いたーい! なんでぶつの?」



ステラは頭をさすりながらゴンとキルアの手を取った。



「こうすればいいんでしょ? 三人で仲良く行こうよ」



ステラの言葉と行動に、俺の胸の奥がじんわりと温かくなった。ゴンと俺、両方の手を取るなんて……おまえらしいよな。



「……ったく、わーったよ。仲良く、な」



照れくさくて視線を逸らす。だけど、繋がれた手のぬくもりは心地よくて、俺はそっと指に力を込めた。



「湖に着いたら、誰が一番でかい魚釣るか勝負だからな。俺が勝ったら……おまえ、俺の言うこと一つ聞けよな」



ステラがオレとキルアの手を両方とも取ってくれた。その温かい感触に、さっきまでの競争心はどこかへ飛んでいってしまう。



「うん! そうだね! 三人で一緒に行こう!」



繋いだ手に力を込める。ステラの笑顔を見て、キルアもなんだかんだ嬉しそうだ。よし、湖までは競争だけど、一番楽しませるのは俺だ!



「湖に着いたら、誰が一番大きな魚を釣るか勝負だ!」



ステラのぬくもりが右手に、ゴンの熱意がその隣から。なんだかんだで、この状況は悪くない。むしろ、心地いいくらいだ。



「ふん、望むところだ。どうせ俺が一番でかいのを釣るに決まってる」



ゴンの横顔をちらりと見て、勝ち誇ったように笑ってみせる。



「ステラ、よく見とけよ。俺の華麗な釣りテクニックをさ。ゴンみたいに力任せじゃ、魚は逃げちまうんだぜ」

「ええっ勝負!? 私魚釣りってそんなに得意じゃないよ!?」



ステラはキルアとゴンの言葉に慌てる。そして竿を湖に落としながらぼやいた。



「二人には勝てる気がしないよ、もう……」



湖の澄んだ水面に向かって走りながら、ステラの手をしっかり握った。あの髪と同じくらい鮮やかなピンク色の夕陽が水面に映っている。



「大丈夫だよ、ステラ! オレが教えてあげるから! コツは、魚の気持ちになることなんだ!」



キルアが鼻で笑ったけど、気にしない。代わりにステラの方へ身を寄せ、小さな声で続けた。



「オレ、釣りなら誰にも負けないから。特別にステラだけに秘技、教えてあげるね」



湖に到着すると、ステラは不安そうな表情で竿を握りしめていた。その姿を見て、なんだか胸がきゅっと締め付けられる。



「へいへい、そんな顔するなよ。俺たちがちゃんと教えてやるって」



ステラの背後に立ち、彼女の手に自分の手を重ねて竿の持ち方を直してやる。ピンク色の髪がほんのりといい匂いを漂わせていて、思わず息を飲んだ。



「ゴンの言う『魚の気持ち』も大事だけど、コツはリラックスすることだ。力み過ぎると魚は逃げちまう」



ゴンがステラに熱心に指導している様子を横目で見ながら、少し意地悪な笑みを浮かべる。



「ほら、ゴンみたいに大声出すなよ。魚、びっくりして逃げちゃうぜ。静かに...…そう、その感じだ」



ステラが少しずつ自信を持ち始めた様子に、胸の内で小さな満足感が広がる。




「魚の気持ち……リラックス……」



ステラはゴンとキルアの指導を聞いて熱心に竿を見つめている。息を吐きながら魚の気持ちに寄り添おうとする。

レースの合図を待ちながら、オレはステラの方をちらりと見た。風になびくピンク色の髪が湖面に映る太陽の光と同じように輝いている。



「よーし、ステラ! オレたち絶対に勝とうな! キルアには負けないぞ!」



湖の周りには不思議な生き物たちの気配がする。キルアが意地悪く笑いながらステラの肩に手を置いているのを見て、少しだけ胸がもやもやした。



「あ、でもステラが誰と組んでもいいよ。オレは...…その...…ステラが楽しければそれでいいから!」



ステラは驚いた顔をゴンに向ける。



「え? 三人で勝負するって話じゃなかったの? いや、二人に勝てる気はしないけどさ」



ゴンの慌てたような言葉に、俺は思わず吹き出した。こいつ、わかりやすすぎだろ。ステラが困った顔で俺たちを見ている。



「バーカ。俺とゴンが勝負するんだよ。ステラはその審判ってとこだな。だけど、もし俺が勝ったら……おまえは俺の言うこと、一つ聞けよ」



俺はステラの頭にぽんと手を置いた。ふわっとした髪の感触が指先に伝わる。わざと意地悪く笑ってみせると、ステラが顔を赤くして俺を見上げた。ゴンの焦ったような視線が背中に突き刺さる。



「な、何だよ。別に変なこと頼んだりしねーよ……たぶん」

「えええ!? たぶんってなに!?」



キルアの言葉に、カッと頭に血がのぼる。なんだよそれ!ステラを賭けの対象みたいに言うな!



「ずるいぞキルア! オレが勝ったら……オレが勝ったらステラは、オレと一日中釣りデートだ!」



勢いよく叫んでから、ステラの顔を見て真っ赤になる。しまった、デートって言っちゃった……。



「……あ、いや、その……一緒に釣りするってことだから!」

「えっ!? デート!? う……うん、釣りは好きだからいいけど……」



ゴンの爆弾発言に、一瞬、頭が真っ白になった。デートだと?こいつ、俺より先にそんなこと言いやがって……。ステラが真っ赤になってるのを見て、胸の奥がざわつく。



「はっ、デートねぇ。ゴンらしい単純な発想だな」



俺はわざと鼻で笑って見せた。だけど、内心は焦りでいっぱいだ。負けられねぇ。絶対に。



「そんな子供っぽいデートより、俺が勝ったらもっとすげーとこ連れてってやるよ。夜景が綺麗な丘とか……二人きりでな」



ステラの耳元で囁くと、彼女の肩が小さく震えた。ゴンの悔しそうな顔が視界の端に映る。これで勝負は五分五分だ。さあ、どうする、ステラ。

ゴンは眉をひそめ、キルアとステラの間に立ち、勢いよく手を振った。



「キルア、ずるいぞ! ステラを困らせるな!」



でも本当は、キルアの言葉にドキッとした。ステラと二人きり……そんな風に考えたことなかった。ゴンは決意を込めて拳を握りしめる。



「よーし! オレ、絶対勝つからね! ステラ、釣りデート楽しみにしててよ! 魚も、思い出も、いっぱい釣れるはずだから!」



ステラは慌てて立ち上がる。



「ちょっと待ってよ! なんで私が勝った方とデートする流れになるの!?」



ステラの当然のツッコミに、俺は思わず肩をすくめた。確かに、いつの間にかステラを賭けた勝負みたいになってる。



「……だよな。悪ぃ、ついゴンがムキになるから、からかいたくなっただけだ」



だけど、本当はからかってるだけじゃない。ゴンが「デート」なんて言うから、俺も焦っちまったんだ。ステラのピンク色の髪を見つめながら、ごまかすように視線を湖に向ける。



「ま、勝負は勝負だ。どっちが勝つか、ステラがしっかり見ててくれよ。一番でかいのを釣ったやつが、今日のヒーローってことで」



そう言ってウィンクしてみせると、今度はゴンが「ヒーローはオレだ!」と騒ぎ出す。そのやり取りを見てステラが笑う。その笑顔が見れただけで、今は十分だと思った。

ゴンは目を輝かせながら、釣り竿を高く掲げた。



「魚を釣るだけの勝負なら、オレが負けるわけないよ! キルア、本気でいくからね!」



でも急に、ゴンは立ち止まり、ステラの方を振り返った。さっきまでの競争心が少し和らいでいる。



「でも……ステラの夕食も楽しみだなぁ。三人で食べるごはんって、なんだかすっごく幸せな気分になるよね!」