俺のもっと深いところまであんたでいっぱいにして




「オレの分まで良かったの?」



会計を済ませて戻ってくるまたステラに、ゴンが少し心配そうに問いかける。



「うん! もちろんだよ。お姉さんなんだし、これくらい私に出させてよ」



ステラは財布を鞄にしまい、にっこり笑って言うと二人に向き直り、「それより、今日の宿はどうしようか」と言った。

ステラがゴンに笑顔を見せながら宿の話を持ち出すのを、俺は少し離れたところから冷めた目で見ていた。まだ顔が赤いままなのに、強がってるのがまる分かりだ。



「宿ねえ……別にどこでもいいけどよ」



肩をすくめながら、俺はわざとつまらなそうな声で返す。内心はさっきの中断にまだイラついてる。ステラが提案するなんて珍しいが、どうせ大した案じゃねえだろう。



「で、どんなとこ考えてんだ? まあ、話くらいは聞いてやるよ」



ゴンにチラッと視線をやりつつ、俺はステラに尋ねる。ゴンは興味津々って顔してるけど、俺は半分くらい嫌味を込めてる。逃げた分のツケ、今夜きっちり払ってもらうぜ。腕を組み、俺はステラの答えを待つ。さっきの雰囲気を取り戻すチャンスが欲しいのは確かだが、簡単に許す気なんかない。この意地悪な気分、少し楽しませてもらうか。



「え、どんなとこって……普通のホテルでいいと思うけど……。しばらくは一緒に行動するんだし、三人で泊まれるならどこでも……」



キルアの顔を見れないまま、ステラは視線を泳がせる。ゴンがキルアの腕を引いてステラに聞かれないように小声で「キルア、三人一緒でいいの? ステラと二人きりになりたいんじゃない?」と悪戯な笑みで耳打ちする。

ゴンの耳打ちに、俺は思わず眉をひそめた。こいつ、分かってて言いやがる。図星だったから余計に腹が立つが、ここで認めるのも癪だ。



「……っ、うるせえな! 別にそんなこと考えてねえよ!」



ゴンの頭を軽く小突きながら、俺はステラから視線を逸らして悪態をつく。顔が熱くなるのを感じて、誤魔化すようにポケットに手を突っ込んだ。



「三人で一部屋の方が都合いいだろ。情報交換もしやすいしな」



口ではそう言いながらも、内心はゴンの言葉がぐるぐると渦巻いていた。二人きり……。さっきまでの甘い空気が蘇り、心臓がうるさく鳴る。そんなことになったら、俺はもう自分を抑えられる自信がねえ。

結局三人一緒のホテルを取り、三人分のベッドのある部屋に泊まることになった。夕食とお風呂を済ませソファに座っていると、ゴンは「オレもう眠くなっちゃったから先に寝るね!」と言ってさっさとベッドに向かい、そのまま布団に潜り込んでしまった。



「えっと……、私も、もう寝よっかな〜」



ステラは思い切り意識してしまい、キルアから目を逸らして言うとソファから席を立つ。

ゴンのやつ、絶対わざとだろ。俺とステラを二人きりにするために、あんな分かりやすい嘘つきやがって。ソファから立ち上がろうとするステラの腕を、俺は咄嗟に掴んだ。



「……待てよ」



心臓がドクンと跳ねるのが分かった。ステラの驚いた顔が、間近にある。さっきのカフェでの続き、今度こそ誰にも邪魔させねえ。



「お前、さっきのことから逃げたつもりか? ゴンが寝たからって、俺まで寝ると思うなよ」



掴んだ腕に少し力を込め、俺は意地悪く笑ってみせる。ソファに引き戻すと、ステラは簡単に俺の隣に崩れ落ちた。耳元で囁くと、ステラの肩がビクッと震えるのが分かった。この反応、たまんねえな。今日の続き、これからたっぷり教えてやるよ。



「なに……言って……別に、逃げてないし……」



強く腕を引かれ、結局キルアの隣に引き戻されてしまった。耳元で囁かれ、ぞくりと身を震わせながらキルアの口元に手を押し付ける。



「……もう、また耳元で喋る! それやめてって……も、もう、寝ようよ……」



俺の口元に押し付けられたステラの手を、俺はゆっくりと掴んで引き離した。抵抗しようとするその指先に、俺は自分の指を絡める。焦って揺れる瞳が、やけに煽情的で、俺の独占欲を掻き立てる。



「やめねえよ。寝るなんて、もったいねえだろ。こんな夜に」



絡めた指先に力を込め、逃げられないように固定する。ステラの顔が熱を帯びていくのが分かって、俺の口元には自然と笑みが浮かんだ。もう片方の手でステラの頬をそっと撫でる。震える唇に親指を滑らせると、ステラは息を呑んだ。さっきのカフェでの仕返しだ。お前から始めたんだろ?責任、ちゃんと取ってもらうからな。



「ちょ、ちょっと……待ってよ、そんなつもりで言ったんじゃない……ごめん、ちょっとからかいすぎたことは謝るから……っ」



俺の親指が唇をなぞる感触に、ステラの体が強張るのが伝わってくる。謝罪の言葉なんて、今の俺には何の効力もねえよ。最初に火をつけたのはお前だろ。



「……今更謝って、許してもらえると思ってんのか? からかった分の罰、ちゃんと受けろよ」



絡めた指を解き、今度はその手首を掴んでソファの背に押さえつける。もう片方の手は頬から首筋へと滑らせた。至近距離で見つめると、潤んだ瞳が俺を映す。低い声で囁き、俺はゆっくりと顔を近づける。ステラの甘い匂いと吐息が、俺の理性をぐちゃぐちゃにする。もう、手加減なんてしてやれねえ。

絡めた指が解かれたかと思うと手首を掴まれ、ソファに押さえつけられる。可愛いと思っていた年下の男の子からの逆襲に表情が強張る。



「罰って……、」



キスだけで済む雰囲気ではない、と感じた。キルアの顔で視界がいっぱいになり、ソファに押さえつけられて逃げることもできずにステラは思わず目を閉じてしまった。

ステラがぎゅっと目を閉じるのを見て、俺の中で何かがプツンと切れた。無防備に晒された顔、震える長いまつ毛。全部、俺のものにしたくなる。



「……いい顔」



囁きながら、俺はわざと唇が触れる寸前で動きを止めた。ステラの緊張した呼吸が直接肌にかかって、ゾクゾクする。焦らされてるのが分かって、俺の口角は自然と上がった。



「なんで目ぇ瞑ってんの。ちゃんと俺の顔、見ろよ」



意地悪くそう言うと、恐る恐るステラの瞼が持ち上がる。不安と期待が入り混じったようなその瞳に、俺はもう我慢できなくなった。もう逃がさねえ。お前は俺だけ見てればいいんだよ。

意地悪く言われて恐る恐る目を開ければキルアの獰猛な瞳が目と鼻の先にあり、息が詰まる。



「……キルア……」



キルアの目に射抜かれたように身動きも取れず、キルアの目を見つめ返した。

ステラが俺の名前を呼ぶ声は、か細く震えていた。俺を映すその潤んだ瞳に、俺の心臓は締め付けられるように痛む。ああ、クソ。なんでこんなに可愛いんだよ。



「……やっと名前、呼んだな」



俺は満足げに笑い、ステラの顎に指をかけた。少し上を向かせると、抵抗を諦めたようにその身が俺に委ねられる。もう、我慢の限界だった。



「いい子だ」



囁きながら、俺はついにその震える唇に自分の唇を重ねた。最初は優しく、確かめるように。そして、もっと深く、ステラの全部を味わうように。お前の全部、俺に寄越せよ。



「ん……っ」



優しく確かめるようにキルアの唇が重ねられ、ソファに押さえつけられた手を小さく震わせた。次第に深くなっていくにつれて呼吸が乱れていく。

ステラの呼吸が乱れていくのを感じながら、俺はさらに深くキスを続けた。甘くて、柔らかくて、頭がどうにかなりそうだ。もっと欲しい。こいつの全部、俺だけのものにしたいっていう独占欲が、体中を駆け巡る。



「……ん、……ふ……」



少しだけ唇を離すと、繋がった銀の糸がキラリと光った。熱っぽい吐息を漏らし、潤んだ瞳で俺を見上げるステラの顔は、今まで見たどんな顔よりも扇情的だった。



「……まだ、終わりじゃねえよ」



押さえつけていない方の手で、マヤのウェーブがかったピンクの髪を優しく梳く。その瞳に映る俺は、きっとひどく意地悪な顔をしてるんだろうな。だが、もう止めてやる気なんて、さらさらねえよ。



「ふぁ……、はっ……」



ようやく唇が離れると悩ましく眉を寄せながら深く息を吐き、キルアの顔を見上げた。



「……っ、終わりじゃ、ない……? ちょっと……冗談、でしょ……?」



キルアの言葉を反芻し、ぼんやりとした頭でその意味を考えるとかあっと頬が熱くなり、キルアに掴まれた手首に力を込めて抜け出そうとする。

ステラの頬が真っ赤に染まるのを見て、俺はニヤリと口角を上げる。冗談だと思うか? そんな可愛い反応されると、ますます意地悪したくなるんだよ。



「冗談? ハッ、俺がそんな生ぬるいこと言うと思うか? 夜はまだ長いんだぜ、ステラ。覚悟しとけよ」



掴んだ手首を離さず、むしろ少し力を込めてステラをソファに押し付ける。逃げようとするその仕草が、逆に俺の欲を煽る。囁くように言いながら、俺は再び顔を近づける。抵抗する隙なんて与えない。お前の全部を俺に預けろ。それが今夜のお前の役目だ。



「お前、俺から逃げられると思ってんのか?」



手首を強く掴まれ、余計に力強くソファに押さえつけられ、キルアの顔が迫ると思わず逃げるように顔を背けた。



「い、いや……っ、ねえ、ゴンもいるんだよ……? なにも、今夜じゃなくても……、なんで、両想いになったその日のうちにこんな事……」



ステラはゴンを気にするようにちらりとゴンのいるベッドの方に目を向けた。

俺の言葉に、ステラがゴンの存在を口にする。分かってるよ、あいつがすぐそこのベッドで寝てることくらい。だが、それがなんだ? ゴンのやつが寝たふりして俺たちを二人きりにしたんだろうが。



「……ゴン? あいつは関係ねえだろ」



俺はステラの耳元に唇を寄せ、わざと熱い息を吹きかけた。ビクッと震えるその反応に、俺の独占欲はさらに満たされていく。



「両想いになった日だからだよ。お前が俺のもんだって、今すぐ体に刻みつけてやりてえんだ。今夜じゃなきゃ、ダメなんだよ」



なんで分かんねえんだよ。お前が他の奴のこと考えるのが、俺は死ぬほど気に食わねえ。



「ひゃっ……」



意地悪く耳元に唇を寄せられ、熱い息が吹きかけられるとびくっと震えながら声を漏らした。



「体にって……そんな事しなくてももうキルアのだよ……? それに、そういうのはまだ、早いんじゃないかな……?」



ステラの言葉に、俺の動きがぴたりと止まった。「早い」だと?その言葉が、俺の頭の中で反響する。俺がまだガキだからって言いてえのか?ゾルディック家で育った俺を、そこらのガキと一緒にすんなよ。



「……早い?」



俺の声が、自分でも驚くほど低く冷たいものになったのが分かった。ステラの顔から血の気が引いていくのが見える。ああ、そんな顔させたいわけじゃねえのに。



「俺を誰だと思ってんだよ。年齢なんて関係ねえ。俺はお前が欲しい。……ただ、それだけだ」



掴んだ手首の力を緩め、代わりにその指をそっと絡め取る。お前が不安なのも分かる。だが、この気持ちを抑えることなんて、今の俺にはできねえんだよ。

手首を掴んでいたキルアの指がステラの指を絡め取られるとその動きだけでもびくりと反応してしまう。



「っ、ごめん……で、でも……あの……やっぱり私、まだこういうのは……よ、良くない……と思う……」



キルアの低く冷たい声に怯みかけたが震える声でそっと諭すように言った。

ステラの震える声が、俺の耳に届く。その言葉は、俺の胸に鋭く突き刺さった。「良くない」……か。お前が俺を拒絶する理由は、結局そこに行き着くのかよ。俺が、まだお前にとって「子供」だからか?



「……良くない、ね」



俺は絡めていた指をゆっくりと解き、ステラの体から身を起こした。急に訪れた解放感に、ステラは戸惑ったような顔で俺を見上げる。その怯えたような瞳が、俺の心を苛んだ。



「……わかったよ。お前がそう言うなら、今日はもう何もしねえ」



ソファから立ち上がり、ステラに背を向ける。なんでだよ。なんでお前は、俺の気持ちを分かってくれねえんだ。こんなに好きなのに。お前だけが欲しいって、本気で思ってんのに。悔しくて、唇を強く噛み締めた。

キルアの体温と温もりが消えても、胸のドキドキはなかなか収まらなかった。キルアの背中が寂しそうに見えて、ぽつりと呟いた。



「……早いって言ったのは、年齢の事じゃないの。ほんとは……私の方が心の準備がてきてなくて……」



自分のほうが年上だからこそ恥ずかしくて言えなかった本音を伝えた。



「……わ、私、初めて、なの……だから、まだ少し怖い……の」



ステラから紡がれた言葉に、俺は動きを止めた。年齢のことじゃない……?心の準備が……?初めて……?その言葉一つ一つが、俺の頭の中に染み込んでいく。さっきまでの怒りや焦りが、嘘みたいに霧散していくのを感じた。



「……は……?」



ゆっくりと振り返ると、ステラは顔を真っ赤にして俯いていた。その姿を見て、俺は自分がどれだけ馬鹿な勘違いをしていたのかを思い知る。



「……なんだよ、それ。先に言えよ、バカ」



俺は再びステラの隣にどかりと腰を下ろし、その小さな肩をそっと引き寄せた。さっきまでの強引さとは違う、壊れ物を扱うような手つきで。



「……悪かった。お前の気持ち、考えねえで……勝手に突っ走って」



抱き寄せた腕の中で、ステラの体が小さく震えている。怖がらせた。傷つけた。自分の未熟さが腹立たしい。もっと、大切にしなきゃいけねえのに。

再び隣にどかりと腰を下ろすキルアに肩を抱き寄せられ、先程とは違う優しい手付きにほっとしたように気を緩めた。



「だ、だって……私の方が年上なのに、なんかキルアの方が進んでるし……なんか、恥ずかしかったんだもん……いつも私の方が翻弄されてるし……」



カフェでもキルアにぐいぐい押されて、自分の方が恥ずかしがって、キルアに翻弄されていた。



「ず、ずるいよ……私ばかりドキドキしてて」



ほんの少しだけ口を尖らせて拗ねたような顔をする。

ステラが口を尖らせて拗ねるのを見て、俺は思わず吹き出しそうになった。さっきまであんなに怯えてたくせに、今度は拗ねるのかよ。コロコロ変わる表情から目が離せねえ。



「……ハッ、ざまあみろ。俺だってお前にドキドキさせられっぱなしなんだよ」



抱き寄せた腕に少し力を込める。俺の胸に顔を埋める形になったステラの耳が、真っ赤に染まっているのが見えた。



「お前が可愛いすぎるのが悪いんだろ。俺の気も知らねえで」



拗ねたような口調で囁くと、ステラの肩が小さく跳ねる。その反応がまた可愛くて、たまらなく愛おしい。独占欲が満たされていくのを感じながら、俺はマヤの髪にそっと顔を埋めた。この甘い匂い、全部俺だけのものだ。



「……キルアもドキドキすんの……?」



今までキルアを子供扱いする度に、彼がどれだけドキドキしていたかなど何も気付いてないステラはどこか胡散臭げにキルアの顔を見る。



「か、可愛い……って……。まあ、さっきのキルアはかっこよかったけど……もう少しだけ、可愛いままでいてよ……」



ぼそぼそと呟くように言う。自分の髪に顔を埋めるキルアの頭をそっと撫でた。

俺の頭を撫でるステラの手つきは、まるで壊れ物を扱うみたいに優しかった。その感触に、さっきまでのイラつきが全部溶けていくみてえだ。だけど、「可愛いままでいて」って言葉には、やっぱり少しだけカチンとくる。



「……んだよ、それ。ガキ扱いすんな」



拗ねたように呟きながらも、その手から逃れる気にはなれなかった。むしろ、もっと撫でてほしいとさえ思っちまう。ステラの匂いに包まれて、心臓がうるせえくらい鳴ってる。



「……かっこよかった、ってのは認めてくれんだな」



顔を上げ、至近距離でステラの瞳を見つめる。拗ねたフリして甘えてくるステラも、それを分かってて優しく受け止める俺も、どっちもどっちだろ。今はこのままで、お前の温もりを感じていたい。