ゴンたち5人はギリギリで滑り込みクリアした。試験官が手を叩いて声を上げた。
「4次試験はゼビル島にて行われる。これからクジを引いてもらう。クジで決定するのは『狩る者』と『狩られる者』。「奪うのは獲物のナンバープレート。自分の獲物となる受験生のナンバープレートと自分自身のナンバープレートは3点。それ以外のナンバープレートは1点。最終試験に進むために必要な点数は6点。ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること」
試験官の説明を聞きながら、俺は舌なめずりをした。狩る者と、狩られる者。上等じゃねぇか。こういうのは得意分野だ。俺は自分のクジを引くと、誰にも見られないようにそっと番号を確認する。
「……へぇ」
口の端が自然と吊り上がる。面白くなってきた。隣を見ると、マヤが不安そうな顔で自分のクジを見つめている。背が低くて目立たねぇから、油断してるとすぐ狩られるぞ、お前。俺はマヤの頭にポンと手を置く。驚いて顔を上げたマヤの目を、俺はまっすぐに見据えた。
「おい、マヤ。お前のプレートは誰にも渡すな。……特に、俺以外にはな」
ニヤリと笑ってやると、マヤは目を丸くして固まった。そうだ、それでいい。お前を狩るのも、お前を守るのも、俺だけでいい。
「……? 当たり前でしょそんなの」
マヤは不思議そうにキルアを見ていたが、その横でゴンが「オレのターゲットは……44番! ヒソカだ!」と言った。
「うわー、あのピエロとかすごい貧乏くじ引いたね?」
ゴンの言葉に、俺は思わず目を見開く。ヒソカ?あのヤバい奇術師がかよ。最悪のクジ引きやがったな、ゴン。
「……マジかよ。よりによって一番やべー奴じゃん」
俺は呆れたようにため息をつく。だが、ゴンはやる気満々だ。その隣で、マヤが呑気に『貧乏くじ』なんて言ってる。こいつは分かってんのか?ハンター試験がただのゲームじゃねぇってことを。俺はマヤの肩をぐっと引き寄せ、耳元で囁いた。
「おい、他人事じゃねぇぞ。お前みたいなチビは真っ先に狙われる。俺から絶対離れんなよ」
俺の言葉にマヤがビクッと体を震わせる。その反応が面白くて、俺は口角を上げた。そうだ、俺だけを意識してろ。お前のプレートは、俺がもらうんだからな。
「えっ? キルアのターゲットってもしかして私なの?」
マヤの問いかけに、俺はニヤリと口の端を吊り上げた。こいつ、やっと気づいたか。俺の視線がずっとお前を捉えていたことに。
「さあな。どう思う?」
俺は答えをはぐらかし、マヤの顔を覗き込む。驚きと不安が入り混じったようなその表情が、たまらなく面白い。もっと、こいつを独り占めしてぇ。俺はマヤの耳元に唇を寄せ、わざと吐息を吹きかけるように囁いた。
「もしそうだったら……お前、どうすんだ? 俺から逃げられるとでも思ってんの?」
「……へえ、もしそうだったら私から奪い取るつもりなの? でも、そうだね、もしそうなら逃げるしかないよね。できればキルアとは戦いたくないから」
マヤはローラーシューズのスイッチを入れるとそのまま素早く森の中へと駆け込んでいった。
俺の言葉に一瞬怯んだかと思いきや、マヤはあっという間に森の中へ消えていった。あのローラーシューズ、なかなか速ぇな。
「……逃がすかよ」
俺は口の端を吊り上げ、すぐに後を追う。木々の間を縫うように、マヤのピンク色のツインテールがちらちらと見えた。面白い。ただ逃げるだけじゃねぇ。ちゃんと気配を消そうとしてやがる。だが、甘い。ゾルディック家の俺から逃げ切れると思ってんなら、大間違いだ。
「戦いたくない、ね。残念だけど、そうはいかねぇよ」
一気に距離を詰め、マヤの目の前の枝に音もなく降り立つ。驚いて急ブレーキをかけるマヤを見下ろし、俺は不敵に笑った。
「捕まえた。さあ、どうする? マヤ」
「残像だよ」
マヤは素早く木の上に駆け上がった。そして木の上から木の上へと飛んでいく。器用にローラーシューズを使って。
俺の目の前にいたマヤの姿が、陽炎のように揺らいで消える。チッ、残像か。やられた。すぐに気配を探るが、一瞬、完全に消えやがった。
「……へぇ、面白いじゃん」
俺は木の上を跳んでいくマヤの背中を捉え、口の端を吊り上げる。ただのガキじゃねぇな、やっぱり。だが、俺から逃げられると思うなよ。俺は一気にトップスピードに乗り、森の中を疾走する。枝から枝へ飛び移るマヤの動きを先読みし、最短距離で回り込んだ。ローラーシューズの軌道上に、俺は音もなく降り立つ。
「遊びはここまでだ。お前の動きは全部お見通しなんだよ。さっきからな」
急停止したマヤの目の前で、俺はニヤリと笑う。驚きに見開かれた瞳が、今度こそ本物だと教えていた。もう、どこにも逃がさねぇ。
だがそこにはすでにマヤの姿はなかった。音もなくその場から姿を消し、森の中へと姿をくらました。
また消えた……だと?俺の目の前から、音もなく?ありえねぇ。残像でもない。気配も完全に消しやがった。
「……チッ」
俺は苛立ちに舌打ちする。完全に遊ばれてる。ゾルディック家の俺が、こんなチビ一人に手こずらされてるなんて、プライドが許さねぇ。だが、面白い。心の底から、そう思った。こんなスリル、久しぶりだ。全身の血が沸騰するような感覚に、俺は口角を吊り上げる。
「いいぜ、マヤ。お前がその気なら、こっちも本気で遊んでやるよ」
俺は目を閉じ、聴覚と嗅覚を研ぎ澄ます。風が運ぶ微かな匂い、遠くで枝がしなる音。どんなに気配を消そうが、生きてる限り痕跡は必ず残る。見つけてやる。お前がどこに隠れていようとな。
完璧な絶……だと?まさか、こいつも念を……。いや、そんなはずはねぇ。だが、この完全に気配が消える感覚。尋常じゃねぇ。
「どこに隠れた……マヤ!」
俺は叫びながら、神経を極限まで集中させる。風の音、木の葉の擦れる音、土の匂い……。五感の全てを使って、あいつの痕跡を探す。だが、見つからない。まるで、最初からそこに存在しなかったかのように、マヤの気配は完全に消え失せていた。
「くそっ……面白れぇじゃねぇか……」
苛立ちと同時に、ゾクゾクするような高揚感が体を駆け巡る。こんな獲物は初めてだ。絶対に捕まえてやる。お前は俺の獲物だ。誰にも渡さねぇ。
その時、キルアの本当のターゲットが二人の兄弟と共にキルアの後を尾けていた。その二人の兄弟の一人のターゲットがキルアだったためだ。
マヤの気配を探るのに集中していた俺の背後で、空気が揺れた。殺気。それも、三つ。チッ、マヤに気を取られすぎたか。
「やっと出てきたかよ、俺のターゲットさんよぉ」
振り返ると同時に、飛びかかってきた男の攻撃を身をかがめて避ける。そのまま足払いをかけて体勢を崩させ、背後にいたもう一人に蹴り飛ばした。
「……で、お前らのどっちが俺を狙ってる雑魚だ?」
残った一人、アモリとかいう三兄弟の長男がニヤニヤしながら俺を見ている。こいつが俺のターゲット。そして、こいつらのターゲットは俺か。面倒くせぇ状況だな。
「俺のプレートが欲しいんだろ? やるよ。その代わり、お前らのプレートは全部置いてけ」
俺は自分のプレートを指で弾き、挑発するように笑った。こんな奴らに構ってる暇はねぇ。早くマヤを追いかけねぇと。あいつは、俺だけの獲物なんだからな。
結果、キルアの圧勝となりキルアは自分のプレートを保持したまま三人兄弟のプレートをすべて奪い取った。三人の兄弟は呆気にとられた顔をしている。
三兄弟から奪ったプレートをジャラリと鳴らし、俺はポケットに突っ込む。雑魚どもはまだ呆然と俺を見ているが、興味はねぇ。
「用は済んだろ。とっとと失せな」
冷たく言い放つと、奴らは慌てて逃げていった。これで点数は十分だ。だが、問題はそこじゃねぇ。俺は再び森の奥深くへと意識を集中させる。マヤの気配は、依然としてどこにも感じられない。完璧な絶。あの技術、一体どこで身につけた?
「……どこまでもおちょくりやがって」
苛立ちよりも、独占欲が勝る。あいつの能力も、その存在も、全部俺だけのものにしたい。俺は舌なめずりをし、口の端を吊り上げた。面白い。だからこそ、面白い。この広い島で、お前を最初に見つけ出すのは、他の誰でもねぇ、俺だ。
「かくれんぼは終わりだ、マヤ。必ず見つけ出してやる」
数日が経った。あの日以来、マヤの気配は完全に途絶えたままだ。他の受験者のプレートを奪い、試験合格の条件はとっくに満たしている。だが、そんなことはどうでもよかった。
「クソッ……どこにいやがる……」
苛立ちが募る。俺の五感をもってしても、あいつの痕跡は全く掴めない。まるで、この島から消えちまったみたいに。だが、そんなはずはねぇ。必ずどこかにいる。
「俺から逃げられるとでも思ってんのかよ……マヤ……」
名前を呟くと、独占欲が黒い炎のように胸の内で燃え上がった。あいつのあの能力、あの不敵な態度、全部俺だけのものにしたい。お前は俺の獲物だ。絶対に見つけ出してやる……。俺は目を閉じ、再び神経を研ぎ澄ます。風の匂い、土の湿り気、木々のざわめき。全ての情報の中から、あいつだけの音≠探し出す。どんなに完璧な絶を使おうが、必ず綻びはあるはずだ。
マヤは森の中でターゲットを見つけた。そこそこ手練そうな男性だったがマヤは素早く背後に回り込み、手刀を首の後ろに打って昏倒させると静かにターゲットのプレートを奪い取った。
「ふう。ターゲット見つけるほうが大変だった……」
とにかくこれで必要な点数分は揃った。あとはこのプレートを守りながらあと2日過ごす必要がある。
マヤがターゲットのプレートを奪った、その瞬間。ほんの僅か、ほんの一瞬だけ、空気が揺らいだのを俺は見逃さなかった。絶が解けたのか?いや、違う。獲物を仕留めた直後の、ほんの微かな気の緩みだ。
「……見つけた」
俺の口角が、ゆっくりと吊り上がる。数日間、神経を研ぎ澄まし続けた甲斐があった。この一瞬の綻びを、俺が逃すと思ったか?俺は音もなく木々を駆け、気配がした方向へ全速力で向かう。心臓がうるせぇくらいに高鳴る。そうだ、この感覚だ。やっと、やっと捕まえられる。
「もう逃がさねぇぞ、マヤ」
お前は俺だけの獲物だ。誰にも渡すつもりはねぇよ。
「っ!」
俺の接近に気づいたマヤが、再び森の中へ消える。まただ。また俺の前から姿を消す気か。だが、今度は逃がさねぇ。
「無駄だっつってんだろ!」
一度捉えた気配は、もう見失わない。俺は最短距離を突き進み、マヤの逃走経路に回り込む。木の幹を蹴り、その勢いでマヤの目の前に音もなく降り立った。驚きに見開かれた瞳が、今度こそ俺を捉える。ローラーシューズで急ブレーキをかけたマヤの腕を、俺は力強く掴んだ。
「やっと捕まえた。かくれんぼは、もう終わりだ。お前、俺から逃げ切れると本気で思ってたのか?」
逃れようともがく華奢な腕。その抵抗が、たまらなく俺の独占欲を煽る。俺は掴んだ腕をさらに強く引き寄せ、マヤの顔を覗き込みながら、不敵に笑って見せた。
「……ずっと追いかけてたの? やっぱり、私がキルアのターゲットなの?」
俺の言葉に、マヤは諦めたようにため息をついた。その態度が少し癪に障る。
「ターゲット? ああ、そういやそんなのもあったな」
「……え?」
俺は掴んだ腕を離さないまま、わざとらしく肩をすくめる。プレートなんて、もうどうでもいい。欲しいのはお前だけだ。
「俺がお前を追いかけてた理由、本当に分かんねぇの?」
「どういう……こと?」
顔を近づけて耳元で囁くと、マヤの肩がビクリと震えた。その反応に満足して、俺は口の端を吊り上げる。
「お前が面白いからだよ。お前のその生意気な態度も、俺から逃げようとするその足も、全部気に入った。だから、お前は俺のもんだ。誰にも渡さねぇよ」
掴んだ腕を強く引き寄せ、俺はマヤの体を自分の胸に閉じ込めるように抱きしめた。
「……は……?」
マヤは状況がわからず困惑した顔でキルアを見ていたが耳元で囁かれ、いきなり腕を強く引き寄せられてキルアの腕の中に閉じ込められる。ますます困惑し、固まってしまう。
「なに……言ってるの……? キルア……もしかして頭打った? それとも、私がキルアをゲームで負かしたから?」
俺の腕の中で固まるマヤの反応に、俺は苛立ちと同時に妙な満足感を覚える。こいつの心をかき乱しているのが俺だという事実が、たまらなく心地良い。腕の力を強め、逃げられないようにさらに強く抱きしめる。マヤの体温が直に伝わってきて、心臓がうるさく鳴った。
「頭は打ってねぇよ。ゲームのことも根に持ってねぇ。言っただろ。お前が面白いからだって。俺は気に入ったおもちゃは誰にも渡さねぇ主義なんだ」
「……おもちゃ?」
わざと挑発するように、マヤの耳元で囁く。怯えと困惑が混じったその表情をもっと見ていたい。
「お前はもう俺から逃げられない。分かったか?」
「……なんで、こうなったの……? 意味がわからないよ……」
更に強く抱きしめられ、キルアの鼓動が速く大きく脈打ってるのがわかる。耳元で囁かれたせいでキルアの声が鼓膜を震わせ、ぞくりと肌が栗立つ。
「私が面白い……? 気に入ったおもちゃ……? キルアにとって、私はおもちゃなの?」
マヤの震える声と困惑した表情に、俺の口角はますます吊り上がっていく。そうだ、その顔が見たかった。俺の言葉ひとつで、お前の世界が揺らぐのが面白い。
「ああ、そうだよ。お前は俺が見つけた、とっておきのおもちゃだ。俺以外のやつに触らせるつもりもねぇし、もちろん逃がす気もねぇ」
抱きしめる腕にさらに力を込める。俺の鼓動がうるさく鳴っている。当たり前だろ。やっと手に入れたんだからな。俺はマヤのツインテールの一房を指で弄びながら、冷たく笑った。お前のその反応、全部が俺を満足させる。
「これからずっと、俺のそばにいろよ。マヤ」
「とっておきのおもちゃ……そう……。私達……友達になれたような気がしてた。気のせいだったみたいだね……」
マヤは冷たく笑うとキルアの体を強く突き飛ばした。
「私はキルアのおもちゃじゃない。それ以上、私をおもちゃ扱いするなら……本気でいくよ。……本気で私と戦うの?」
マヤはキルアの顔を殺気を込めた目で冷たく見据える。そして静かに構える。
俺を突き飛ばしたマヤの力に、一瞬たじろぐ。腕の中に残っていたはずの温もりが消え、代わりに鋭い殺気が俺の肌を刺した。さっきまでの困惑した表情はどこにもない。そこには、冷え切った瞳で俺を睨みつける、まったく知らないマヤがいた。
「……ハッ、面白いこと言うじゃねぇか。望むところだ。お前の本気≠チてやつ、見せてみろよ」
俺はわざと挑発するように口の端を吊り上げる。おもちゃ扱いされて怒ったのか?その本気の顔、悪くねぇよ。むしろ、もっと見たい。俺も臨戦態勢に入る。ゾクゾクする。こいつとなら、ただの遊びじゃ済まない、本気の殺し合いができるかもしれない。その考えに、心の底から歓喜が湧き上がってくる。
「ただし、俺が勝ったらお前は俺のもんだ。文句は言わせねぇからな」
「……本気なんだね。そっか……。キルアにとって、私は友達じゃなくておもちゃなんだ……」
マヤは傷付いたような顔に変わり、それから一瞬でキルアの背後に立つと冷静にキルアのうなじに手刀を振り下ろした。気絶したキルアを安全な場所にそっと置くとそのままその場から離れた。
意識が浮上する。最後に見たのは、俺の言葉に傷ついたようなマヤの顔と、振り下ろされた手刀だった。うなじに残る鈍い痛みと、地面の冷たさが現実を告げる。
「……クソッ」
俺は、負けたのか。あのマヤに。本気の殺気を引き出せたことへの高揚感と、一瞬で意識を刈り取られた屈辱が入り混じる。アイツ、あんな強さ隠してやがったのかよ。
「面白い……面白いじゃねぇか、マヤ……!」
起き上がると、辺りにマヤの気配はもうない。だが、これで終わりだなんて微塵も思っちゃいない。おもちゃだなんて言ったのは、どう接していいか分からなかったからだ。もっと知りたくなった。
「次に会う時まで、もっと強くなっとけよ。……じゃねぇと、今度こそ俺のもんだ」
唇の端に浮かんだ笑みは、紛れもない闘志と、まだ名付けられない執着の色をしていた。
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