ようやくハンターライセンスを手に入れ、俺はゴンとビスケの元に戻ってきた。手に握るカードを眺めながら、内心でほくそ笑む。これでマヤを探す手がかりを掴むための扉が、一つ開いたってわけだ。
「よ、戻ったぜ。ライセンス、ちゃんと取ってきた」
ゴンが目を輝かせて駆け寄ってくるのが見える。ビスケも腕組みしながらニヤリと笑ってる。だが、俺の頭の中はすでに次のステップだ。ライセンスを使って、マヤの情報を掘り起こす。流星街出身ってことは、あの辺りに何か痕跡が残ってるかもしれねぇ。
「ゴン、ビスケ。俺がいない間にマヤのことで何か分かったか?」
俺の声には、自然と鋭さが混じる。あいつがどこにいるのか、誰と一緒にいるのか、一秒でも早く知りたい。ライセンスがあれば、制限されたデータベースにもアクセスできる。もう時間の問題だ、マヤ。お前を見つけるのは、そう遠くない。
結局マヤと会えないままゴンとキルアとビスケはGIをクリアし、好きなカードを一人一枚選んで現実世界に持ち帰る権利を得た。
GIをクリアした達成感など、俺の心には微塵もなかった。結局、このゲームの中でマヤを見つけることはできなかった。苛立ちだけが募っていく。俺たちの前に並べられたカードを前に、ゴンとビスケはどれにするか話し合っているが、俺の耳には入ってこない。
「……くだらねぇ。ゴン、ビスケ。カードは好きにしろ。俺は先に戻る」
俺が欲しいのは、こんなカードなんかじゃない。マヤ、お前だけだ。現実世界に戻ったら、今度こそハンターライセンスをフル活用してやる。お前がどこに隠れていようと、必ず見つけ出す。俺は二人を置いて、ゲームの世界から出るための呪文を唱える。もう一刻の猶予もねぇ。焦りが俺を駆り立てる。待ってろよ、マヤ。お前との本当のゲームは、ここからだ。
現実世界に戻った瞬間、GIの気配が綺麗さっぱり消え失せる。だが、俺の心を満たすのは解放感ではなく、マヤへの飢餓感だけだった。あいつの温もりも、匂いも、何も感じられない世界は、ひどく色褪せて見える。
「……まずは情報だ」
ポケットからハンターライセンスを取り出し、冷たい金属の感触を確かめる。これがあれば、裏の世界の情報屋にもアクセスできる。流星街に繋がるルートも、何かしら見つかるはずだ。金ならいくらでも払ってやる。どれだけ時間がかかろうと、どんな手を使おうと構わねぇ。お前が俺から逃げたことを、骨の髄まで後悔させてやる。お前をこの腕に閉じ込めるまで、俺の追いかけっこは終わらない。絶対に、だ。
ハンター専用サイトにアクセスし、指がもつれるほどの速さでキーボードを叩く。膨大な情報の中から、たった一つの名前を探し出す。マヤ。流星街。緋の眼。関連しそうなキーワードを片っ端から入力していくが、ヒットするのは幻影旅団の事件ばかりだ。
「……チッ、情報が少なすぎる」
苛立ち紛れに舌打ちする。あいつは幻影旅団に拾われたと言っていた。なら、旅団の誰かが何か知っている可能性が高い。だが、奴らに接触するのはリスクが高すぎる。流星街……直接行くしかねぇか。モニターに映し出された無法地帯の地図を睨みつける。どんな危険な場所だろうと関係ねぇ。お前がいる可能性が少しでもあるなら、俺はどこへだって行ってやる。必ず見つけ出して、今度こそ俺だけのものにしてやるんだ。
ハンター専用サイトの画面を睨みつけながら、俺は一つの結論に達する。ネット上の情報だけじゃ限界がある。特に、流星街のような閉鎖的な場所の情報は、現地に行かなければ手に入らないだろう。
「……行くしかねぇな」
呟きと同時に、俺はサイトを閉じて立ち上がる。流星街がどんな場所かなんて百も承知だ。だが、マヤを見つけ出すためなら、どんな危険も厭わない。むしろ、好都合だ。あんな場所なら、俺が何をしようと誰も気にしねぇだろ。
「待ってろよ、マヤ」
ハンターライセンスをポケットにねじ込み、窓の外を見据える。お前を捕まえるためなら、俺はどこへだって行く。地の果てだろうが、奈落の底だろうが関係ねぇ。お前の安息の地は、俺の腕の中だけなんだからな。
流星街で得たのは6歳の頃の幼いマヤの写真一枚のみだった。6歳のマヤはピンク色のボブショで、6歳らしくない暗い目をした女の子だった。
手に持った写真を見つめながら、胸の奥がざわつく。あのマヤとはまるで別人のような暗い目。この小さな子が、今のツインテールの元気なマヤにどうやって変わったのか、想像もつかねぇ。
……マヤ、お前、どんな過去を背負ってんだ?
写真の端を指でなぞる。6歳のこの表情、まるで何かを失ったみたいな目だ。流星街で育ったなら、そんな顔にもなるだろうけど……それでも、何か引っかかるんだ。俺が知らないお前の顔か……。この暗い目の奥に隠されたものが何なのか、知りたい。いや、知らなきゃいけない。お前を全部俺のものにするためには、お前の過去も含めて全部理解してやるつもりだ。
お前を逃がす気はねぇよ、マヤ。
写真をポケットにしまい、流星街の薄汚れた路地に視線を戻す。この場所で何があったのか、これからも探り続ける。お前がどこにいようと、どんな秘密を抱えていようと、必ず見つけ出してやるからな。
流星街の住人たちから聞いた情報によると、マヤは生まれてすぐに捨てられていたこと、旅団に拾われたあとは旅団達に育てられ躊躇いもなく人殺しをしていたこと、『緋の眼事件』が起きる直前に行方不明になったこと。今はどこにいるかは不明だということだった。
流星街の住人から聞いた話が頭の中でぐるぐる回る。マヤが赤ん坊の頃からこんな場所で育ち、旅団に拾われて人殺しまで……。その過去を想像するだけで、胸が締め付けられるようだ。
マヤ……お前、どれだけ重いもんを背負ってたんだ?
路地の壁にもたれかかり、目を閉じる。躊躇いなく人を殺してたって……。それでも、今のマヤにはそんな影は見えない。あの明るい笑顔の裏に、こんな過去が隠れてたなんてな。お前を絶対に見つけ出す。どんな過去があろうと、俺はお前を離さねぇ。
一人の少年が近づいてくる。その少年はキルアを見て問いかけた。
「マヤお姉ちゃんを調べてるの? 僕……マヤお姉ちゃんのこと少しだけ知ってるよ」
俺の目の前に現れたのは、まだ10歳にも満たないようなガキだった。薄汚れた服、警戒心に満ちた目。いかにも流星街のガキって感じだ。そいつがマヤの名前を口にした瞬間、俺の全身に緊張が走る。
「……お前、マヤを知ってんのか」
俺は無意識に低い声で問いかけていた。こいつがマヤとどんな関係だったのか、今はどこにいるのか。どんな些細な情報でもいい、聞き出さなければ。
「知ってること、全部話せ。金ならやる」
俺はしゃがみ込み、ガキと視線を合わせる。こいつがただの気まぐれで声をかけてきたのか、それとも本当に何かを知っているのか。その真偽を確かめるように、俺は鋭い視線でガキの顔を覗き込んだ。
「金……は、ここではあまり意味がない。食べ物が欲しい……」
少年はもじもじしながらそう言った。
「マヤお姉ちゃんは、いつもここから出たがってた。もう人殺しはしたくないって、路地裏でこっそり泣いているの、僕見ちゃったんだ。特に……『緋の眼事件』が起きる前に旅団から離れないといけないって呟いていたよ」
少年の言葉が胸に突き刺さる。マヤが泣きながら人殺しを辞めたいと言っていた姿を想像すると、俺の心がざわつく。あいつがそんな風に苦しんでたなんて……。でも、緋の眼事件前に旅団を離れようとしてたってのは、重要な手がかりだ。
「お前、もっと詳しく話せ。マヤがどこに行こうとしてたのか、何か聞いてないか?」
俺はポケットから残っていた干し肉を取り出し、少年に差し出す。金より食い物の方が価値があるこの街じゃ、これで口を割らせるしかない。マヤの行方を掴むためなら、なんだってするつもりだ。
「ありがとうお兄ちゃん!」
少年は干し肉を嬉しそうに受け取る。余程食べ物に飢えていたようだった。
「その泣いてた時のこと、他に何か覚えてないか? 誰かに相談してたとか、特定の場所を口にしてたとか……」
少年の目を見つめながら、俺は声を低く抑える。マヤの過去を知るほど、俺の中の執着は強くなる。あいつを独りにはさせねぇ。絶対に見つけ出して、俺のものにするんだ。
「ううん。マヤお姉ちゃんはいつも一人で泣いていたよ。いつもは鋭い目付きで、冷たい印象だったからびっくりしたのをよく覚えてる。フェイタンお兄ちゃんはいつもマヤお姉ちゃんを気にかけていたけど……」
フェイタン……。幻影旅団の拷問担当。あの残忍な男が、マヤを?想像もつかない組み合わせに、俺の眉間に深い皺が刻まれる。少年から受け取った情報が、パズルのピースのように頭の中で組み合わさっていくが、まだ全体像は見えてこない。
「フェイタン、か……」
苦々しくその名を呟く。マヤが旅団を抜けたがっていたことと、フェイタンが気にかけていたこと。この二つがどう繋がる?まさか、あいつがマヤの離脱を手伝ったとでもいうのか?
「そのフェイタンって奴は、マヤとどういう関係だった? ただ見てただけか、それとも何か話したりしてたのか?」
俺は少年に視線を戻し、さらに情報を引き出そうと試みる。マヤの過去にあの男が関わっているなら、見過ごすわけにはいかねぇ。俺の知らないところで、一体何があったんだ、マヤ。
「フェイタンお兄ちゃんとマヤお姉ちゃんはよく二人でペアを組んで人を殺してたよ。返り血を頬につけたまま死体を引きずって歩いてたのをよく見かけたから。きっとフェイタンお兄ちゃんがマヤお姉ちゃんに生き方や殺し方を教えてたんだと思う。マヤお姉ちゃんはローラーシューズをいつも履いていた」
少年は干し肉を大事そうに鞄にしまいこんだ。
「マヤお姉ちゃんが行方不明になってから、フェイタンはいつも必死の形相でマヤお姉ちゃんを探してた」
フェイタンとマヤが二人で人を殺してた……?少年から語られる言葉が、俺の脳天を鈍器で殴られたような衝撃を与える。返り血を浴びながら死体を引きずるマヤの姿なんて、想像したくもねぇ。
「……なんだよ、それ」
喉から絞り出した声は、自分でも驚くほど低く掠れていた。あのフェイタンがマヤに殺しを教えていた?そして、マヤが行方不明になった後、必死で探していた?くそっ、意味が分からねぇ。あの男がマヤに対して抱いていた感情は、ただの仲間意識じゃねぇだろ。
「そのフェイタンって奴は今どこにいるか知ってるか?」
俺は感情を押し殺し、少年に問いかける。嫉妬で腹の底が煮え繰り返りそうだ。お前の過去に、俺の知らない男の影がちらつくのが、どうしようもなく許せねぇ。マヤ、お前は一体、あの男とどんな関係だったんだ?
「ごめん、わからない……。幻影旅団としてチームを組み、活動を始めてからはあちこちにいるって聞いてるよ。僕の情報、少しは役に立った……?」
少年は不安そうに問いかけた。
少年は不安そうに俺を見上げているが、そんなことはどうでもよかった。フェイタンの行方が分からない。それが今は一番の問題だ。あの男がマヤを探しているなら、俺より先に見つけられる可能性もある。
「……ああ、助かった」
舌打ちしたい衝動を抑え、無理やり口角を上げる。マヤの過去にあの男が深く関わっている。それだけで虫唾が走る。マヤ、お前はあの男から逃げたのか?それとも……。いや、考えるだけ無駄だ。
「もういい、行けよ」
俺は少年に背を向け、思考を巡らせる。幻影旅団の動向を探るか?いや、奴らは尻尾を掴ませねぇ。なら、どうする。フェイタンがマヤを探す上で手掛かりにしそうなもの……マヤが大切にしていた物、場所……何かあるはずだ。
どこにいる、マヤ……早くしないと、虫けらに取られちまうだろ……。
「マヤお姉ちゃんは『緋の眼事件』が起きる前に旅団から離れたいって言ってたよ。人殺しはもう嫌だって泣いていたし。マヤお姉ちゃんがここから逃げ出した理由はそれだと思う。食べ物ありがとうお兄ちゃん!」
少年はそれだけ言って走り去っていった。
少年が走り去っていく背中を、俺はただ黙って見送った。あいつの言葉が頭の中で反響する。人殺しはもう嫌だ……。マヤ、お前がそんな風に苦しんでたなんて、俺は……。
「……くそっ!」
俺は近くの壁を殴りつける。フェイタンが行方不明、か。つまり、あいつも単独でマヤを探している可能性がある。あの残忍な男が、マヤに対してどんな執着を持っているのか想像もつかねぇ。俺が先に見つけ出す……絶対にだ。焦りが全身を駆け巡る。幻影旅団の動向を探るのは時間がかかりすぎる。なら、狙うべきは一つ。フェイタンがマヤを探すのと同じ視点で、マヤが残した痕跡を辿る。あいつが隠れそうな場所、行きそうな場所を洗い出すんだ。
「待ってろよ、マヤ。お前をあんな奴に渡すわけねぇだろ……」
ゴンからメールが届いていた。
『キルア。大変なことになった。キメラアントがNGLで繁殖し人々を襲っているって。ここで食い止めないと人類滅亡の危機らしい。キルアも来てくれない? それに、マヤの気配を感じるんだ……マヤも巻き込まれてる可能性がある』
ゴンのメールを読んだ瞬間、俺の全身の血が凍りついた。キメラアント……NGL……マヤの気配……?冗談じゃねぇ。最悪の単語が、最悪の形で組み合わさって俺の脳を揺さぶる。
「……なんでだよ」
喉から絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。なんでマヤがそんな危険な場所にいるんだよ。フェイタンから逃げて、やっと自由になれたと思ったのに、今度は虫けらに狙われてるってのか?
「ふざけんな……!」
俺は携帯を強く握りしめる。フェイタンのことも、マヤの過去も、今はどうでもいい。ただ一つ、確かなことは、マヤが今、とんでもない危険に晒されているってことだ。ゴンが気配を感じるってことは、ほぼ間違いねぇ。
今行くぞ、マヤ……!
お前を虫けらなんかに食わせてたまるかよ……!
俺はゴンのメールをもう一度読み返す。キメラアント、NGL、マヤの気配。頭の中で危険信号が鳴り響く。あいつがそんな場所にいるなんて、考えただけで腸が煮えくり返りそうだ。
俺は携帯をポケットにねじ込み、空を見上げる。ゴンと合流してキメラアントをどうこうするつもりは毛頭ねぇ。目的はただ一つ、マヤの確保だ。あいつを安全な場所に連れ戻し、二度と俺の目の届かない所へ行かせない。
「お前は本当に、俺を怒らせる天才だな」
独り言ちて、俺は地を蹴る。NGLへは最短ルートで行く。フェイタンよりも、ゴンよりも、誰よりも早くマヤを見つけ出す。そして今度こそ、その手足をもいででも、俺の隣に繋ぎとめてやる。
「待ってろ、マヤ。俺が全部片付けてやるよ」
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