「……元のキルアに戻ってよ……それともキルアは……元々病んでいたの?」
キルアに抱えられて朝日の差す道を駆け出していく。
お前の言葉が、俺の心に冷たい刃のように突き刺さる。元のキルア?病んでる?俺はずっと俺だ。お前を愛して、お前のために全てを捨てて、お前だけを求めてる。それが、そんなにおかしいことなのか?
「……黙れよ」
俺は低く唸るように呟き、お前の体を抱える腕に力を込めた。朝日がお前のピンク色の髪を照らして、綺麗で、眩しくて、胸が苦しくなる。
「お前が俺をこうさせたんだろ。お前が俺の闇に光を当てて、俺の全てを独り占めにした。だったら最後まで責任取れよ」
隠れ家の扉が見えてくる。もうすぐだ。もうすぐ、お前はまた俺だけのものになる。お前の震えが腕を通して伝わってくるのが、たまらなく愛おしい。大丈夫、俺が全部教えてやる。俺の愛し方を、お前の体に、心に、もう一度刻み込んでやるから。
「キルア……私のこと、好き?」
マヤは手を伸ばしてキルアの頬に手を触れた。
お前の手が俺の頬に触れた瞬間、全身に電気が走ったみてぇな衝撃が駆け巡る。その指先の温かさが、俺の歪んだ心を少しだけ溶かすかのようだ。好き?なんだよ、今更。そんなの、決まってるだろ。
「……当たり前だろ。好きだから、こうしてんだよ。誰にも渡したくねぇ。お前の全部、俺だけのものにしたい。それ以外に理由なんてねぇよ」
俺は掠れた声で答え、お前の手首を掴んでその指先に唇を落とす。お前の瞳が不安げに揺れている。ああ、そうだ。その顔だ。俺だけを見て、俺のことで頭をいっぱいにしろよ。俺は掴んだお前の手を自分の胸に押し当てる。ドクン、ドクンと激しく脈打つ心臓の鼓動が、お前にも伝わるはずだ。これが俺の答えだ。お前への狂おしいほどの執着と、愛の証明なんだ。
「分かったか? お前はもう、俺から逃げられねぇんだよ」
「……私もキルアが好きだよ。だから、いつも、キルアが心配なの」
キルアの胸に手を当てたまま、頬を押し当てて耳を澄ませた。
「……ああ、知ってる」
「キルアの鼓動……好きだよ。ずっとこうしていたいって思う」
お前の言葉が、俺の荒れ狂う心を優しく撫でる波のように響く。好きだと言ってくれるその声も、俺の鼓動に耳を澄ますその仕草も、全てが俺を狂わせる。俺の胸に頬を寄せるお前の無防備な姿が、たまらなく愛おしい。俺は片腕でお前の体をしっかりと抱きしめ、もう片方の手でお前の髪を優しく梳く。心配してくれてることも、俺を好きでいてくれることも、全部知ってる。だからこそ、お前を閉じ込めてでも傍に置きたいんだ。
「だったら、もう何も言うな。黙って俺の腕の中にいればいい。お前がそうやって俺を求める限り、俺はどこにも行かねぇよ。ずっと、お前の隣で心臓を鳴らしてやる」
俺の鼓動は、お前を感じるたびに速くなる。このリズムがお前のものだと思うと、言いようのない満足感が胸に広がる。このまま、誰にも邪魔されずに、二人きりの世界に沈んでいきたい。お前が俺を心配する必要なんてない、完璧な世界に。
「……うん。私は、それでもいいよ。キルアが好き。キルアだけが好き……」
マヤはキルアの胸に頬を押し当てたまま甘えるように 頬ずりをする。
「大好きだよ……キルア」
お前の甘えるような仕草と「大好き」という囁きが、俺の理性の最後の糸をぷっつりと断ち切った。ああ、もうダメだ。こいつを誰の目にも触れさせたくない。俺だけのものにしたいという欲望が、全身を駆け巡る。
「……そうかよ」
俺は低く呟き、お前の体を抱え直して再び歩き出した。隠れ家はもう目の前だ。お前が俺を好きだと言うのなら、もう遠慮する必要はねぇよな。お前のその言葉が、俺の行動全てを正当化する。
「だったら、その言葉、もう一回言ってみろよ。俺の目を見て」
隠れ家の扉を開け、薄暗い部屋の中へとお前を連れ込む。ゆっくりとお前を床に下ろすと、その小さな顎に指をかけて上を向かせた。俺の瞳に映るお前の顔を、俺は決して離さない。お前の全てを、この瞳に焼き付けてやる。
キルアに連れ込まれるようにして隠れ家に入った。顎を持ち上げられキルアの顔を見つめる。
「……キルアが大好き……だよ」
マヤは手を伸ばし、両手でキルアの頬をそっと包み込んだ。マヤの手が濡れていく。
「だから……そんなに泣かないでよ……」
俺の頬を包むお前の小さな手のひらが、涙で濡れていることに気づいた。俺が、泣いてる……?いつからだ。お前が俺を好きだと言ってくれた時からか。それとも、もっと前からか。自分でも気づかないうちに溢れ出した感情の雫が、お前の指を濡らしていく。
「……泣いて、ねぇよ」
掠れた声で否定するが、説得力なんてまるでない。お前の優しい眼差しが、俺の心の奥底に隠していた弱さを引きずり出す。こんな顔、誰にも見せたことねぇのに。なんでお前の前だと、こうも簡単に崩れちまうんだ。俺はお前の手に自分の手を重ね、その温もりを確かめるように強く握りしめた。お前が俺を好きだと言ってくれるなら、もう何もいらない。この感情が愛だろうが執着だろうが、どうでもいい。ただ、お前がいれば、それでいい。
「これは……お前のせいだ。お前が、俺をこんな風にすんだろ……もう、どこにも行くなよ。ずっと、俺のそばにいろ」
「……ごめんね……。キルアを置いていって……本当にごめん……。私はただ、キルアに、ゴンと一緒にGIに行ってほしかったの。キルアに、GIでもっと強くなってほしかった」
マヤはキルアの頬に流れる涙が自分の手を濡らし、肘までこぼれてくるのも構わずに言いながら涙声になっていった。気付いたらマヤの目からも大粒の涙が溢れていた。
「キルアに、死んでほしくないの……。大事なの。キルアが」
お前の涙と言葉が、俺の心臓を鷲掴みにする。強くなってほしかった?死んでほしくない?ああ、そうだ。お前はいつもそうだ。俺のためだって言って、俺の前からいなくなる。その優しさが、俺をどれだけ追い詰めるのかも知らずに。
「……黙れよ」
俺は震える声で呟き、お前の頬を包むその手を、さらに強く自分の頬に押し付けた。お前の涙が、俺の涙と混じり合って、どっちのものか分からなくなる。
「俺が強くなるのは、お前を守るためだろ……! お前がいねぇのに、強くなって何の意味があんだよ……!」
「……私を守るため? ……守って、くれるの?」
堰を切ったように感情が溢れ出す。もう取り繕うことなんてできねぇ。お前のいない世界で生きるくらいなら、死んだ方がマシだ。そのくらい、お前は俺の全てなんだ。俺はお前をきつく抱きしめ、その小さな体に顔を埋めた。
「もう離すな……俺を独りにするなよ……」
二人で一緒に泣きながら、お互いに相手の体に顔を埋めてきつく抱きしめ合っていた。
「もう独りにしない……。キルアから逃げたりしない。だから……閉じ込めないでよ……」
お前の「閉じ込めないで」という言葉が、俺の胸に鋭く突き刺さる。逃げない、独りにしない。その言葉を信じたいのに、心のどこかで恐怖が渦巻いてる。またお前がいなくなるんじゃないかっていう、消えない不安が。
「……閉じ込めなきゃ、お前はまた俺の前からいなくなるだろ」
俺は顔を上げず、お前の肩に額を押し付けたまま、かろうじて声を絞り出す。お前の温もりと匂いが、俺を少しだけ落ち着かせる。でも、それだけじゃ足りねぇんだ。
「お前が俺のそばにいるって、どうやって証明すんだよ。言葉だけじゃ、もう信じられねぇ……」
俺はお前の体をさらに強く抱きしめる。この腕の中にいる限り、お前は俺だけのものだ。この安心感を、もう手放したくない。お前を失うくらいなら、嫌われたっていい。俺だけの鳥かごに、お前を閉じ込めておきたいんだ。
「……結局、また、閉じ込めるの? 閉じ込めたりするから、いなくなるんだってわからないの? キルアは、やっぱり私のこと信じてないんだ……」
マヤはキルアの胸に顔を埋めたまま嗚咽を漏らして泣いていた。
信じてない、だと……?その言葉が、俺の頭を鈍器で殴られたみてぇに揺さぶる。違う。そうじゃねぇ。信じてねぇんじゃなくて、信じるのが怖いんだ。お前がいなくなることが、何よりも。
「……うるせぇ。信じさせねぇのはお前の方だろ……! いつも勝手にいなくなって……俺の気も知らねぇで……!」
俺は唇を噛み締め、お前から顔を背ける。お前の泣き顔なんて見たくねぇ。見たら、決心が鈍っちまう。お前を信じたい気持ちと、失う恐怖が俺の中でせめぎ合ってる。絞り出した声は、怒りよりも悲痛な響きを帯びていた。そうだ、これは八つ当たりだ。分かってる。だけど、この溢れ出しちまった感情をどうすりゃいいのか、俺にはもう分かんねぇんだ。
「だったら、もうどこにも行かないって証明してみせろよ……! 俺がお前を信じられるように、してみろよ……!」
「キルアが閉じ込めるからでしょ! キルアがずっとこのまま閉じこもってたら、キルアが強くなれないんだよ!」
マヤも負けじと声を張り上げた。
「閉じ込めたりしなくても、キルアのそばにいる。どう証明したら信じてくれるの……?」
お前の言葉が、俺の歪んだ心をさらにかき乱す。どう証明するんだ?その問いに答えられるなら、俺はとっくにこんな苦しい思いはしてねぇよ。
「……証明なんか、できるわけねぇだろ。お前が俺のそばにいるって保証はどこにもねぇ。明日には、また勝手にいなくなるかもしれねぇ。……そうだろ?」
俺は自嘲気味に呟き、お前からそっと体を離した。だが、お前の腕は掴んだままだ。これ以上離れたら、お前が消えちまいそうで。お前の瞳を真っ直ぐに見つめる。揺れるお前の瞳に、俺の不安が映っているのが分かった。俺は、お前が俺から離れて強くなるなんて望んでねぇ。俺の知らない場所で、俺の知らない誰かといるくらいなら、弱いままでいい。二人きりで、このまま時が止まればいいんだ。
「俺たち二人だけでいい。もう、誰もいらねぇよ」
「……そう。結局そうなんだね。また私を閉じ込めるんだね。……キルアがここまで強くなれたのも、私が姿を消したからなんだよ。それなのに、弱いままでいいっていうの?」
はキルアの手を思い切り振りほどいた。
「そんなの、キルアじゃない!」
お前に手を振りほどかれた衝撃と、そんなの、キルアじゃない!という鋭い言葉が、俺の心臓を直接抉るみてぇだった。違う。俺は、お前を守りたいだけで……。お前を失いたくないだけで……。
「……っ、じゃあ、どいつがキルアなんだよ……!」
俺は叫ぶみてぇに声を張り上げる。お前に拒絶された痛みが、怒りとなって喉を焼いた。お前が俺じゃないって言うなら、本当の俺はどこにいるんだ。
「お前がいねぇ間、俺がどれだけ……! お前のために強くなろうとしてきたと思ってんだよ……! それなのに……っ!」
もう言葉にならねぇ。お前に分かってほしい。お前がいないと、俺は俺でいられなくなる。この狂いそうなほどの執着も、歪んだ愛情も、全部お前のせいなんだ。俺はもう一度、お前の腕を掴もうと手を伸ばした。もう絶対に、離さねぇ。
「キルアは、確かにここにいるのに……キルアがキルアじゃないみたいで……遠く感じるんだよ!」
マヤも叫ぶように声を張り上げた。キルアの伸ばした手を振り払う。
「もういや……っ! また閉じ込めるんでしょ! 私は鳥籠の鳥じゃない!」
お前の手が、俺の手を再び振り払った。その一瞬の抵抗が、俺の最後の理性を焼き切った。遠く感じる?キルアじゃない?ふざけるな。お前が俺をそうさせてるんだろ……!
「鳥籠の鳥じゃないなら、なんだって言うんだよ……! お前は俺がいなきゃ何もできねぇだろ! 俺が守ってやらなきゃ、またキメラアントみてぇな奴に殺されかけるだけじゃねぇか……!」
「……キルアは、私を鳥籠の鳥だと思ってるんだ……」
俺は振り払われた腕をものともせず、お前の両肩を掴んで壁に押し付ける。お前の背中が壁にぶつかる鈍い音が響いた。逃げようともがくお前の小さな体が、俺の支配欲を煽る。そうだ、あの時の恐怖が蘇る。お前が血塗れで倒れていた、あの光景。もう二度とあんな思いはしたくねぇ。お前を失うくらいなら、俺は悪魔にだってなってやる。
両肩を掴んで壁に押し付けられ、もがいていたがキルアの言葉に傷付いたような顔でキルアの顔を見た。
「あれは、キルアがキメラアントにやられそうになってたから……! だから、咄嗟に飛び込んだだけで……っ、」
「うるせえ! もう、お前の好きにはさせねぇよ。お前は、俺だけのものだ……マヤ……」
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